仕事には、「すぐに取りかかれる仕事」と「取りかかりにくい仕事」があります。
- 「すぐに取りかかれる仕事」は、文字どおり何の抵抗もためらいもなくあっさりと取りかかれるのに対し、
- 「取りかかりにくい仕事」はタスクリストの上でその名前を目にするだけでも嫌気がさしてしまいます。
取りかかりにくい原因としては以下が考えられます。
- 進め方がよくわからない
- 時間がかかりそう
- 終わらせなければならない
この3つのうちどれか1つでもあれば、それだけで「十分に」取りかかりにくい仕事になってしまいます。
特に最後の「終わらせなければならない」が意外とくせ者。
進め方もわかっているし、時間の目途もついているのに、「終わらせなければならない」と思うと、それがプレッシャーになるのです。
- 途中でつまづいたらどうしよう
- 終わらなかったらどうしよう
- 予定より時間がかかったら困るなぁ
といった不安を覚え始めると、手が動かなくなってしまうのです。
そこで、この対策です。
取りかかりにくい仕事は「終わらせなくてもよい」ことにする
そのまんまですが「終わらせなくてもよい」ことにしてしまうことです。こうすることで、安心してその仕事に取りかかることができます。
終わらせなくてもよいのですから。
具体的には、「今日は15分間、企画案について考えるだけにする」という時間で切ってしまうか、あるいは「今日は、3ページだけ作る」という分量で切ってしまいます。
あらかじめ時間や分量を決めることで、「終わらせる」というプレッシャーを小さくすることができます。
そもそも仕事には終わりがありません。常に「締め切りが来てしまったから仕方なく提出する」ということがほとんどではないでしょうか。
それゆえ、自分で「今日はここまで」という線を引いてしまうわけです。
実際の締め切りが来る前に何段階もの小さな締め切りがハードルのように並んでいれば、このハードル1つ1つを飛び越えていくことによって、最終的な「締め切りハードル」に到達するころには、その高さはだいぶ低くなっているはずです。
少なくとも、最初に思い描いていたような困難さは感じられないでしょう。
この方法で、毎月のセミナースライドを作っています
月に一度、タスクカフェというセミナーを開催しているのですが、ここで使うセミナースライドはまさにこの方法で作っています。
以下は、タスクカフェのセミナースライドを作るタスクを抽出したTaskChute2の画面です。
▼2014年7月度
▼2014年8月度
セミナースライド作成という「取りかかりにくい仕事」を「スライド作成1」~「スライド作成9」までの9つの「終わらせなくてもOK」なタスクに分割しています(合計125分)。
- スライド作成1 10分
- スライド作成2 10分
- スライド作成3 10分
- スライド作成4 10分
- スライド作成5 10分
- スライド作成6 10分
- スライド作成7 15分
- スライド作成8 25分
- スライド作成9 25分
この分割方法は、これまでに記録を取った結果を反映したものです。
すなわち、序盤は先がよく見えないのでとにかく短い時間でもよいので手を付けるようにします。
「終わらせなくてもOK」という「緩いルール(ゆるーる)」があるからこそ、時間が来たらそこでやめることができます。
これを繰り返すうちに、だんだんスライド全体のトーンが見えてくるので、作業時間を伸ばしても抵抗を感じなくなります。
むしろ、もっと進めたい、という気持ちが高じてきます。ちょうど、自転車のこぎ始めからスピードが乗ってきたあたりの感覚です。
ここで緩めたら、せっかく乗ってきたスピードを削ぐことになってしまう、それはもったいない、という感情が芽生えるのです。
こうして、少しずつ終盤に近づくにつれて、ドラマの最終回よろしく“需要”に押される形で無理なく時間枠が拡大されることになります。
「実際の交通規制に従って走行してください」
とはいえ、実際の記録を見てみると、必ずしも毎日予定どおりにきちんと実行できているわけではありません。
実際の作業状況に合わせて、可能なら前倒しで着手したり、逆に予定日より後になってから複数の単位をまとめて実施するなどして、調整をかけています。
これは、カーナビに従って運転しているときの様子によく似ています。いわゆる「実際の交通規制に従って走行してください」というわけです。
以下、“実際の交通規制に従って走行した”様子を解説します。
- 7/5(土)開催分の「スライド作成1」を6/23(月)に開始(通常の予定である6/25(水)よりも2日前倒し)。
- 次の「スライド作成2」は1日前倒しの6/25(水)に実施。
- 次の「スライド作成3」は1日遅れの6/28(土)に実施。土曜はバッファ日のためここで遅れを取り戻すことができた。
- その後の「スライド作成4~7」は着手が大幅に遅れ、7/3(木)にまとめて実施。
- 本来7/3(木)に予定していた「スライド作成8」に加えて、最後の「スライド作成9」を開催前日7/4(金)にまとめて実施し、完了。
- 見積り上は全9タスクの合計は125分で、実績時間の合計は110分(15分の余剰あり)。
- 8/9(土)開催分の「スライド作成1」を7/28(月)に開始(通常の予定である7/30(水)よりも2日前倒し)。
- 次の「スライド作成2」も2日前倒しの7/29(火)に実施。
- 次の「スライド作成3」は逆に2日遅れの8/3(日)に実施(本来この日にやるべき「スライド作成4」は実施できず)。
- その後の「スライド作成4~7」は着手が大幅に遅れ、8/6(水)にまとめて実施。この段階で遅れを取り戻すことができた。
- 「スライド作成8」を予定通りの8/7(木)に実施。
- 最後の「スライド作成9」も予定通りの8/8(金)に実施。時間がオーバーしたものの完了。
- 実績時間の合計は165分(40分の超過)。
記録からは、最初は前倒し気味で始めるものの、中だるみし、その後一気に加速する、というパターンが見て取れます。
このパターンが望ましいと感じているようであれば、予定もそのように改めたほうが良いです。でも、本当はこういうパターンにしたくない、と感じているなら、予定はこのままにしておき、この予定に沿えるように自分サイドの調整を続けるほうが良いでしょう。
この調整を続けていくと、予定に沿って動いている限りは、毎回必ずうまくいく、という状態を作り出すことができます。「行き当たりばったり」に頼らなくても済むようになります。
あえてキリの悪いところでキリ上げる
このように、時間で機械的にタスクを区切ると、当然ですが、キリの悪いところで切り上げざるを得なくなります。
でも、むしろその方がよいのです。
なぜなら、キリのよいところまでやってしまうとスッキリはしますが、スッキリするがゆえに仕事自体が終わっていないにもかかわらず自分の中では「終わったもの」という認識になり、残りの仕事が再び「取りかかりにくい仕事」に変異してしまうからです。
シリーズドラマが、毎回ピンチや窮地に陥ったところで「次回に続く」という終わり方をするのは、あえて視聴者をスッキリさせないことで、次回もまた見てもらえるようにするための常套手段です。
例えば、主人公が敵側に捕まってしまい、「ええっ! このあとどうなっちゃうの?」というところで「次回に続く」となれば、もう次回は見ずにはいられないでしょう。
逆に、事件が無事解決して「めでたしめでたし」となったところで「次回に続く」となったら、おそらくそのドラマを見る優先度は下がってしまいます。
だからこそ、その「めでたしめでたし」の直後にシーンが切り替わり、見るからに怪しい謎の男が次の行動を開始するカットが挿入されて「次回に続く」になることが多いわけです。
まとめ
取りかかりにくい仕事を進めるには、
- 無理なく取り組める長さに分割する
- 毎回あえてキリの悪いところで切り上げるようにする
こうすることで、最初は「取りかかりにくい仕事」だったのが、回を重ねるごとに「早く続きに取りかかりたい仕事」に変化させていくことができます。
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