『知的生産の技術とセンス』を読みながら、あることを考えました。
» 知的生産の技術とセンス ~知の巨人・梅棹忠夫に学ぶ情報活用術~ (マイナビ新書)
それは、これからは「知的生産」という言葉そのものをアップデートする必要があるのだろうな、ということです。こびりついている誤ったイメージをふるい落とすための言い換え__ではなく、この言葉が表すものを、あたらしい文脈におく試みが求められるような気がします。
そのためには、まず「知的生産」という言葉をもう一度洗い直してみる必要があるでしょう。
~~ではない、知的生産
「知的生産は何であるか」を考えるために、「知的生産は何でないのか」を考えてみましょう。
※ちなみに、このお話は『知的生産の技術』に依っています。
まず、「知的生産」は「物的生産」ではありません。
何かを作り出すという点では、ものづくりと共通していますが、作り出すものが違うわけです。で、何を作り出すかというと、それは情報です。もう少し言えば、知的情報です。つまり、「知的生産」は「情報生産」とイコールでもありません。
情報は、この世に遍在しています。私が机を小気味よく叩けば、そこにリズムという情報が生まれますが、これは知的生産ではありません。でも、その音がモールス信号になっていて何かメッセージを伝えているとすれば、知的生産と呼びうるでしょう。
※もちろん、そのメッセージが何かあたらしいものを含んでいる必要はあります。
情報は人間以外でも生み出せます。しかし、知的情報を生み出しうるのは(今のところ)人間だけです。この話はまた別の回で掘り下げます。
また、「知的生産」は「知的消費」でもありません。
知的情報に触れているだけでは、知的生産とは言えません。何かを生み出してこそ知的生産です。情報を仕入れる(インプット)という行為は、知的生産において必須の工程ですが、生産に結びつかないなら知的消費に留まってしまいます。
生み出すものがなんであれ、生産が必要で、それは「ひとにわかるかたち」で行われる必要があります。
それは、誰にも使われない「もの」をつくる行為が、「ものづくり」として機能しないのに等しいでしょう。
当然のように、「知的生産」は「物的消費」とはまったく違います。共通点はどこにもありませんね。
ただし、「物的消費」が拡大すると「物的浪費」に移行してしまい、さまざまな弊害を引き起こすことを考えると、知的生産の分野でも似たような問題が発生することが想定できます。
つまり「知的浪費」です。それが具体的にどのような状況を指すのかは、まだ定義できませんが、社会が情報化に向かって進んでいくならいずれ発生する問題ではあるでしょう。
私たちの社会は工業社会から情報社会へ転じつつあります。その社会に含まれる産業も、工業から情報へと主軸を移していくことでしょう。となると、「ものづくり」のかわりとなる何かが必要です。それを何づくりと呼ぶのかはまだわかりません。
※クールジャパンでないことはたしかです。
また、産業としてだけではなく、工業社会では「ものをつくること」のコストが下がり、DIYが一般的に行われるようになりました。情報社会では、それがセルフパブリッシングという形で表出してくるでしょう。ということは、ホームセンターの知的生産バージョンが一般的になるかもしれません。
さいごに
こうして考えてみると、__まだまだわからないことが多いなりに__見えてくるものはあります。
「知的生産」という言葉は、「知的」が持つ偏ったイメージもさることながら、「生産」という言葉がどうしても産業寄りの雰囲気を醸し出してしまいます。もちろん、産業における知的生産行為は非常に重要なのですが、もう少し広い視野から見た社会活動の中でも知的生産行為は欠くことのできないものになっていくでしょう。
それらを包括するような、何かあたらしい言葉が必要です。
» 知的生産の技術とセンス ~知の巨人・梅棹忠夫に学ぶ情報活用術~ (マイナビ新書)
▼参考文献:
まずはこの本を。そしてこの本から。
▼今週の一冊:
今週はコンビニの本を紹介します。というか、自分の本です。
コンビニ店長として、私がどのような仕事をしてきたのかを綴った本ですが、小さな組織のマネジメント全般に通じる話があるかもしれません。また、「個性的なお店作り」の話は、個人メディアにおける特色の出し方やセルフブランディングの話に通じるものがあるかもしれません。
Kindleのみで発売中ですが、ご興味あればぜひ。
» コンビニ店長のオシゴト: ~個性的なお店の作り方~[Kindle版]
なんとか9月号も完成しました。しかし、紙の本の執筆は……。はい、頑張ります。もちろん10月にも電子書籍を発売予定なので、そちらもご期待ください。あと、10月5日いっぱい(+数時間)『遠くて近い場所、近くて遠い場所』が無料となっておりますので、こちらもご興味あればどうぞ。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。