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捨てるためのシステムを持つ

倉下忠憲「気がつくと、部屋の中が物でいっぱいになっちゃって・・・」

とお悩みの方が多いのではないでしょうか。

かくいう私も、本棚に居場所のない書籍が机の上にまで浸食している状態です。あと、アナログノートもその量に少々危うさを感じるようになってきています。

人間の損失回避性を考慮に入れると、こうなってしまうのは「自然」なのかもしれません。人は損を回避したがる傾向があり、価値があるものを捨ててしまうことに抵抗感を感じてしまいます。壊れたテレビすら漬け物石としての価値があることを考えれば、部屋の中に物が増えてしまうのはごくごく当然の結果と言えるでしょう。

しかし、私の部屋を眺めると、「紙の書類」だけはスッキリと片付いていることに気がつきます。

「書類を捨てるためのシステム」が出来上がっている、というのがその理由です。

捨てるためのシステム

「すてるためには、すてるためのシステムをつくっておかなければならない」

と『情報の家政学』の中で梅棹忠夫氏は書いています。捨てることは大切だとわかってはいるけれども、なかなか捨てられない。人間とはそういうものです。うまく実行するためにはシステムを作る必要がある、というのはセルフマネジメント全般に言えることですね。

では、捨てるためのシステムには何が必要でしょうか。

一つはルールです。判断基準と言ってもよいでしょう。感覚的な判断だけに頼ってしまえば、「壊れたテレビでも使えるかもしれない」的に物を置いておくことになります。これでは捨てられません。必要・不必要の判断基準が必要です。

このルールはいくらでも自分勝手に設定できます。たとえば、池谷裕二さんの『脳には妙なクセがある』では、次のようなルールが紹介されています。

部屋の整理整頓の極意は「使えるものは捨てる」だと思っています。

「使えるものは捨てる」?

これは「使うもの」と「使えるもの」を区別しているということです。実際に使っている物は置いておく、いつか使えそうだなと思うだけのものは捨ててしまう。こういうことでしょう。

他にもいろいろなルールが考えられます。使用頻度が下がったものは捨てる、古いものは捨てる、眺めてもテンションが上がらないものは捨てる、などなどバリエーションは豊かです。これは捨てるものの性質に合わせて決めればよいことでしょう。

行動のタイミング

では、ルールが設定できれば、それで物が減っていくかというと、そうではありません。

実際に捨てるという行動が必要です。当たり前すぎて申し訳ないですが、「捨てる」という行動を取らない限り、物が減ることはありません。ルールはあくまで概念であり、情報です。そこに行動が伴わない限り、現実世界に影響を与えることはありません。

行動を起こすタイミングは二種類考えられます。

一つが、「定期的」。一週間に一度捨てる時間を設ける、といったことですね。カレンダーに「予定」として記入しておくのがポイントです。週次レビューを実施されている方はそれに紐づけておくのもよいかもしれません。

もう一つが、「臨時」。ようは「新しいものが棚に入り切らなくなった」という状況に直面したときに、捨てる行為を行う、というもの。定期的な廃棄に比べると、不安定な感じがしますが、「捨てよう」というモチベーションが高いメリットはあります。

どちらでも構わないと思いますが、「定期的」に捨てる時間を設けていない人が「臨時」の時にスルーしてしまうと、捨てる機会がなかなかやってこない状況になります。

紙の書類システム

さて、私の「紙の書類」に関する捨てるシステムは以下のようになっています。

  • 入ってきた書類は、なんであれ3段書類受けの上段に置く
  • 一日に一度、それらをスキャンする
  • スキャン済みのものは基本的に全て捨てる
  • 現物が必要なものだけは、分類しファイルケースに保存する

これだけです。

毎日処理しているので、一回あたりのスキャンにかかる時間はそれほどでもありません。また、大部分は捨てることになるので、残った書類を保管する手間も最小限で済みます。

ちなみに現物が必要なものとは、契約書や証書、あるいは行政に提出する必要があるもの、あたりです。

このスタイルを長く続けていますが、現実的に困った状態に陥った記憶がありません。スキャンした画像を見返すか、あるいはネットで調べるか、で事足りています。

さいごに

上のルールが全ての人に最適とは限りません。書類の量や置かれている環境などによって変わってくるでしょう。

しかし、こうやってルールを定めて実行しているから、紙の書類で溢れかえることのない環境が維持できていることだけは断言できます。

もちろん、紙の書類で溢れかえった机が理想の環境だ、という人にとっては無用の事柄でしょうが、そうでない場合は、捨てるためのシステム__ルールと実行環境__を作ることが必要になってくるでしょう。

▼参考文献:

家庭でも「情報」を扱う技術が必要、という話は現代でより強く感じられるようになっています。生活レベルでの情報処理の技術が知識としてきちんと伝えられるようになると良いですね。

» 情報の家政学 (中公文庫)


脳にまつわる面白い話がいっぱいです。テストステロンが多い日は、株式トレードに勝ちやすい、なんて話は大変興味深いですね。その他最新の知見がたくさん紹介されています。

» 脳には妙なクセがある


▼今週の一冊:

現代日本において、「どんな風に生きればいいのか」というのは切実な問題になってきています。一番やっかいだと感じるのは、選べる選択肢があまりに少ないように感じられることです。そもそも選択肢なんて存在しないと考えている人もいるかもしれません。そういう状況がもたらす雰囲気が、「閉塞感」と呼ばれているのでしょう。

本書は、生き方の一つの選択肢の提示になっています。著者がどういう経緯をたどってきたのか、どんな風に考えて生きているのかがざっくりとした口調で語られています。自分の価値観に合う・合わないはあるでしょうが、そういうのもありなんだな、と思えれば、少しだけ視野が広がるような感覚を得られるかもしれません。


▼編集後記:
倉下忠憲



あっというまに八月が終わりました。この原稿がアップされているのはもう9月ですね。ということは、来年の手帳です。今年もほぼ日手帳を選択していることでしょうが、それがカズンなのか今年から発売される英語版なのかは、この原稿を書いている段階では__私にも__わかりません。快適な状態を続けるのか、それとも新しいことにチャレンジしてみるのか。人生というのはこのバランスで成り立っているのかもしれません。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。