『梅棹忠夫のことば』という本に、梅棹先生が視力をなくされた後、カード・システムを「再発見」されたエピソードが紹介されています。
わたしはカード・システムやファイリング・システムを、わたしの知的活動の全領域にわたって実行していた。(中略)整理がきちんとできていたために、わたしはいつでも必要な情報をとりだすことができたのである。わたしが「カード・ボックスのどの段のどのあたりに、こういうカードがあるはずだ」と指示すると、秘書の手によってまさにそのカードがかんたんにとりだせるのである。
たとえ目が見えなくなっても、書き留めていた大量の情報カード__つまり情報は死蔵しなかった、そんなお話です。
これはカード・システムによる情報ストックの強力さを物語っていますが、それ以上に驚くべきことがあります。
それは、梅棹先生が「カード・ボックスのどの段のどのあたりに、こういうカードがあるはずだ」と指示できたことです。それができなければ、大量の情報カードが日の目を見ることはなかったでしょう。
きちんと在処(ありか)を指示できること。
これこそが「整理」の神髄であり、目指すべき状態です。自分の脳内に存在するルール(ことわり)と、現実の置き場所が一致している状態と言ってもいいでしょう。
この「カード・システムとその整理」は、もちろんEvernoteについても有効です。むしろ、Evernoteはそれを拡張させる効果があるとすら言えます。
Evernoteの中の情報カード
世の中には、「Evernoteがあれば、情報カードはいらない」という主張があるかもしれません。
たしかにそう言える部分もあるでしょうが、実際は「Evernoteがあれば、情報カードも使える」というのが本当のところです。Evernoteの柔軟性の高さは情報カードすらも飲み込んでしまいます。
たとえば、私も日常的に情報カードを使っています。
これは、いくつか考えたことを、簡単にまとめて京大式サイズの情報カードに記入したもの。箱には入れず、クリップで留めて机の横に立てかけてあります。向き不向きはあるにしても、「手を動かして、情報をまとめる」のはなかなか効果的なのです。
もちろん、こうした作成した情報カードは保存しておきながらも、スキャンや撮影をしてEvernoteに取り込みます。
「情報カード」タグを付けておけば、後からそれらを一括で拾い上げることは難しくありません。もちろん、キーワードで絞り込むことも可能です。
ここでは「棚のどのあたりに置いてあるか」という情報を記憶する必要はありません。「どんな風に保存したのか」さえ思い出せれば、あとは秘書に指示を出すようにEvernoteで検索をかけることができるのです。
Evernote > カードシステム?
物理的存在から遊離した情報の整理法は、それまでの「整理」とは手法が変わってきます。
しかし、本質は変わりません(だから本質と呼ぶわけですが)。
「きちんと在処(ありか)を指示できること」
これさえ実現できていれば、実装はどんな形でもありえます。
では、Evernoteはカードシステムの完全上位互換なのでしょうか。はい、そうです。と答えたいところですが、自信満々に首を縦に振ることはできません。
やはり、実体としてのカードがある点は、Evernoteとの大きな差異になります。
物理的存在に定着させることで、情報を手で操作できるようになる。これがカード式の魅力です。これは発想プロセスにおいて、大きな影響を与える可能性があります。
なので、私はEvernoteに取り込んである情報カードも捨てずに保管しておき、たまにパラパラめくったり、並べてみたりして、発想を楽しみます。
しかし、新しいツールの出現が、それすらも変えてしまうかもしれません。
Mural.lyという新しいノート利用
こちらはMural.lyというツールの画面です。
※Mural.lyについては、こちらもどうぞ。
自身のEvernoteアカウントから、<情報カード>タグを検索し、必要なものを画面に貼り出してみました。
形式としては付箋ですが、まるで情報カードを机の上に並べているような感覚を覚えるのではないでしょうか。新しい形のEvernoteのノート利用法です。
しかし、画面サイズには限界がありますし、視点を引けば画像が小さくなり、カードの書き込みが確認しにくくなります。
現時点で、「情報カードより使いやすい」とまでは言えません。しかし、期待感を持って眺めることはできそうです。
さいごに
改めて使ってみても、情報カードはなかなか便利なツールです。だからといって、Evernoteの便利さが欠損するわけではありません。
別段、「白か黒か」的にどちらかに軍配を上げる必要はないでしょう。それに新しいツールの登場が、また新しい形の便利さを提供してくれることもあります。それによって、これまで光の当たってなかった部分が活き始める、なんてこともあるでしょう。
取るべき行為の本質を捕まえた上で、それぞれのツールの性質を見極め、適材適所に配置していくのがベストなやり方です。
▼参考文献:
一番最初の「なんにもしらないことはよいことだ」から、がつんと響く言葉がいっぱいちりばめられています。励まされているような言葉もあれば、現代をのぞき込んで書き込まれたような言葉もあります。あるいは新しい発想のヒントになるような言葉と出会えることもあるでしょう。著作集を全部持っている、という人以外ならば楽しめると思います。
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▼今週の一冊:
このタイトルシリーズは、アタリが多いのですが、本書もそうでした。
ビジネスの世界で「当たり前」や「常識」とされていることに対して、
「ねえ、それ本当なの?ねえ、ねえ?」
と突っかかっていく本です。非常に痛快な一冊。
もちろん問題点を指摘したからといって、即座に解決できるわけではないのですが、何が問題なのかが分かっていないよりも遙かに見通しはよくなるでしょう。
本書で提示されている「バカが運を引き寄せる」問題については、__わりとよく見られる話なので__十分な注意が必要です。
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お盆シーズンなのに、すごく忙しかったです。田舎なのにカフェが混んで入れない、なんて異常事態にも遭遇しました。まあ、お盆ぐらい作業の手を止めればいい、という話なのかもしれませんが。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。