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「心に刺さる」アイデアを発想するための6つのチェックポイント

 1.シンプルか?
 2.意外性があるか?
 3.具体的か?
 4.信頼性があるか?
 5.感情に訴えるか?
 6.ストーリー性があるか?

『MADE to STICK』より。

Made to Stick: Why Some Ideas Survive and Others Die

1.シンプルか?

解説に入る前に、本書について簡単に説明しますと、本書は英書で邦訳はまだありません。しかし、本書とよく似たことをいっている本はありますので、後ほど紹介します。

「心に刺さる」ということは、記憶に残るということです。記憶に残るためにはシンプルであることが必要です。ただし、本書の著者が繰り返し述べているようにシンプルであるということが、必ずしも「一言で言える」とか「短いフレーズ」であるとはかぎりません。

シンプルだということは、メッセージが鋭く、かつ「1つ」に絞られているということです。

ソ連よりも先に有人ロケットで月面に人が降り立つことは、我が国の使命である

というメッセージは、一言で言えませんし、少し長めですが、シンプルです。

2.意外性があるか?

意外性のない話は、記憶に残りません。

だからこそ、これはあとの方の項目とも関係してきますが、真実よりもデタラメの方が記憶に残りやすいということは、ざらにあるのです。

考えてみるとこれは、面白い現象です。デタラメを後生大事に記憶に残しておいても、生きていくのにあまり役立ちそうにないわけですから、意外性がないというだけで、真実をありがたがらない人間の脳は、どこか欠陥をかかえているようにすら思えます。

しかしとにかく、9/11のテロのように、「あっ」と思ったことは忘れがたい。
これは事実でしょう。

もう古い話になりますが、私は初代のiMacがデビューしたとき、「あっ」と思いました。iMacを買ってもおらず、使ってもいないくせに、その時のことはまだ記憶に残っています。意外な発想というのは、記憶に残るものです。

3.具体的か?

『キツネとブドウ』といえば、何を連想するでしょうか?

もちろん、イソップ童話、『キツネの負け惜しみ』だと思います。いうまでもなくイソップは、日本人ではありませんから、「負け惜しみ」は邦訳です。原題には「負け惜しみ」はなく、『キツネとブドウ』です。

イソップは、具体的で、イメージしやすい物語の中に、「メッセージ」をこめる天才だったわけです。イソップ物語は、ヨーロッパはもちろん、日本語にも中国語にも訳されています。その国ごとにタイトルは変わっているのですが、その概要はバッチリと伝わっています。

「キツネとブドウ」というだけで、「負け惜しみ」という概念がパッと思い浮かぶのですから、巧みな具体例で抽象概念を伝達するということが、アイデアを心に残るものにするために、欠かせないことがわかります。

4.信頼性があるか?

信頼性があるかということは、本当であるかということとは、異なります。本当らしいということと、真実であるということとは、違うわけです。このことはすでに、意外性のところでも触れておきました。

実際、私たちの心に刺さり、記憶に残るエピソードというのは、しばしばデタラメ嘘っぱちでしかありません。「都市伝説」がいい例です。

なぜ、とても信用できなさそうなものが心に引っかかり、いつまでも記憶に残ってしまうのでしょうか? 覚えておいても、得になることはほとんどないことであっても。

たとえば、人間の脳は10%しか使われていないという、「伝説」があります。もちろんウソです。しかしこれは有名で、私は小学校時代に、先生から「教わり」ました。しかもまだそのことを覚えています。

こういうのが記憶に残りやすいのはおそらく、「先生」という権威が「教えた」からということや、「人間はもっと賢くてもいいはず」というあまり根拠のない思い込みがあるからでしょう。「人の脳は10%しか…」というのは、周囲でも物知りな人が語りそうなことです。

5.感情に訴えるか?

この項目もまた、「意外性」と関係します。意外なことは、感情に訴えるからです。

先に例を挙げた、ソ連よりも先に有人ロケットを!というスローガンは、冷戦時代アメリカ国民向けのメッセージだったからこそ、その「心に刺さった」のです。感情に訴えられると記憶に残るという、いい例です。

もう一つ、感情に訴える重要な要素があります。身体に関係することです。痛みや快感などの感覚を持つ肉体は、感情と切っても切れない関係にあります。「胸がすっとする」とか「心が痛む」など、感情について感覚的な表現をよく使うことからも、これは分かります。

6.ストーリー性があるか?

これもまた、都市伝説をよく記憶させる要因ですが、たとえ新聞が伝える「事実」であっても、物語化してしまうことで、読者の「心に刺さる」ようなものに変えるテクニックはよく見られます。

実際、新聞やテレビの報道は、時にやり過ぎと思えるほど、「事実」を「物語」に変貌させてしまっています。またそうしようという努力が、ことあるごとに見受けられます。

私たち自身、記憶というものはエピソードかして蓄えておきます。私たちの子供の頃の思い出というものは、実際には「物語」などではないはずなのに、自伝などを書いたりすると、どんな人の人生も「物語のように」語り出されるのです。

逆に、全然物語性のない知識を記憶に入れるのは、簡単ではありません。ふつうの人にとって、一度かけただけの電話番号は、覚えにくいものです。それは、コードであって、エピソードではないからです。

まとめ

本書は、アイデアについての英書ですが、これとほぼ同じことが、以下の本で確認できるでしょう。

記憶と情動の脳科学 (ブルーバックス)
講談社
久保田 競(翻訳)大石 高生(翻訳)
発売日:2006-04-21
おすすめ度:4.0

おあつらえ向きというのは正しくないかもしれませんが、副題は

 「忘れにくい記憶」の作られ方

です。

これは明らかに、脳科学/心理学的な知見をまとめた本ですが、心に残る発想というアイデアもまた、脳科学的/心理学的知見なくしては今や、語りようがないのです。

実際、『MADE to STICK』にも、脳科学/心理学用語がたくさん登場します。

なぜよくできた諺や都市伝説は、記憶の残ってしまうのか?

そう考えながら、『記憶と情動の脳科学』を読むと、ちょっと違った面が見えてくるかもしれません。

Made to Stick: Why Some Ideas Survive and Others Die
Random House Inc (T)
発売日:2007-01-02
おすすめ度:5.0

なお、『MADE to STICK』は極めて読みやすい構成になっていて、序章に相当する部分だけを読んでも、コアとなるエッセンスは了解できるようになっています。ですから、コアだけでも原書で読みたいという方は、20数ページお読みいただければ、と思います。

また、最初に挙げた6つのチェックリストは、頭文字をとると

 SUCCES=成功

となります。

それぞれ、Simplicity, Unexpectedness, Concreteness, Credibility, Emotional, Stories です。

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