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アフィリエイトの心理学

このところ趣味で経済学の本をよく読んでいます。その中でしばしば、心理学と経済学では、ほとんど同じ概念を、異なる用語で説明するという、後々やっかいごとを引き起こしそうな事態を目にします。

たとえば、「一杯目のビールはとてもおいしいが、二杯目以降はおいしくなくなっていく」ことを、経済学では「収穫逓減の法則」といったりするようですが、心理学なら「馴化」(馴化=慣れ・飽き)といいます。

心理学と経済学には共通して扱えそうなエピソードにあふれています。私が最近特に興味を引かれているのが、「誘因」の話です。

「誘因」またはインセンティブといえば、たとえばアフィリエイトというものが流行しました。

アフィリエイトとは、たとえばブログなどで、面白いマンガや小説を好意的にレビューし、そのレビューを読んだ読者が、マンガなり小説なりを買うと、レビュアーであるブログ執筆者に、わずかながらも売り上げからの収入が入るという仕組みです。

このアフィリエイトによる収入は、額として決して高いものではありません。金額が安いが好意的なレビューを書く「誘因」となる。となるといやでも、フェスティンガーの「認知的不協和」を思い出してしまいます。

たとえば私が「まあ面白くなくもなかった」、というような経済学書を読んだとしましょう。それでも自分のブログでレビューすれば、わずかにせよお金が入るということで、好意的にレビューを書いたとします。もちろんアフィリエイトのためにです。この場合、アフィリエイトで得られる収入は、もしあったとしてもごくわずかです。

一方で私がある出版社から、「書評」の仕事を依頼されたとします。この場合、書評をして得られる収入は、アフィリエイトとは比較になりません。ずっとたくさんの収入がもらえるでしょう。ただし、レビューを書く対象の本は、アフィリエイトの場合と同じで、「まあ面白くなくもない」といったような本だとします。

それではここで。

■「面白くなくもない」経済学の本を読み、

1,自分のブログでアフィリエイトのために「面白かった」とレビューで書く。期待できる収入は、多くても200円程度。

2,出版社に依頼された書評を「面白かった」と書く。期待できる収入は、少なくとも20万円以上。

はたしてどちらの仕事の方が「本気になって」取り組みやすいでしょうか?

常識的には、圧倒的に2番でしょう。しかし、心理学者の答えは正反対。圧倒的に1番です。

これがレオン・フェスティンガーが提唱した、「認知的不協和」の理論です。

この場合の私の仕事には、「面白くなくもない本を読み、さも面白くて仕方がなかったような感想文を書く」という「心理的葛藤を生み出すような要素」が含まれています。現実の多くの仕事がそうであるように。

人間はしかし、心理的葛藤を解消したいという自然の欲求を持っています。面白くなくもない本を、さも面白かったように書くのは、心理的な負担となるのです。

この葛藤、大金をもらって仕事にしてしまうと、解消されません。解消する理由を失うのです。「俺は、面白くもない本を読んで、面白かったと書いたけど、それは仕事だからさ」というでしょう。つまり心の中では、自分の心を裏切るようなことをしていることを、消し去ることができません。

一方でこれがアフィリエイトだと、入る収入は雀の涙。ということは、「俺は面白くもない本を読んで、面白かったと書いたけど、それはうーんとえーっと…」ということになってしまいます。つまり、アフィリエイトの収入をもってしては、心理的葛藤は解消されません。

でも人間は、心理的葛藤を解消しようとします。すると何をどうするでしょうか?

残る方法は一つしかありません。「面白かったと書いた本は、面白かったよ。うーんと、わりと面白かったかもしれない。そうだ、改めて考えてみると面白かったわ!」

こうすれば、面白かったと書いたことでの心理的葛藤は、解消されます。ということはつまり、大した収入が入ってこないからこそ、本を読んで面白かったと思うことができるわけです。

人間というのは、賢いために、難しいものです。