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モチベーション3.0とは?

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか
モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか ダニエル・ピンク 大前 研一

講談社 2010-07-07
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本書は、整然とまとめられた構成とは裏腹に、ちょっと強引に自説が主張された本です。著者は善意にあふれているとは思いますが、それでも、「十分承知した上でなら、多少の誘導は許される」とでも言いたげな節があります。

著者のダニエル・ピンクは心理学者ではありません。しかし、本書はあたかも心理学書として、心理学の特定の勢力を強硬に後押ししているかのような本です。チクセントミハイ、デシ、レッパー、マズローなどの名前をモチベーション3.0の側に置き、はっきりと名指ししないまでも、ワトソンやスキナーを「古い」モチベーション2.0の提唱者の側に置き、これを斥けます。(ちなみに1.0はフロイトでしょうか?)

ある意味では胸のすくような一面もあります。同時にどこか、子供向けの勧善懲悪のアニメを見せられているような気持ちにもなります。

欲求階層説とモチベーション3.0

ダニエル・ピンクはモチベーション2.0を、「アメとムチで動機づけるやり方(外発的動機付け)」として、原則否定します。それにかわる動機付けとして、モチベーション3.0(内発的動機付け)を提唱するのです。

これは、かの有名なマズローの欲求階層説で見ると、実にわかりやすい考え方です。

selfesteem.png

これに、ダニエル・ピンクの考え方を重ね合わせると、こうなります。

selfesteem.jpg

部分的には、1.0と2.0の重なるところがあり、2.0と3.0の重なるところもあるでしょう。しかし、マズローの階層説の上位に行くほど、1.0から2.0へ、2.0から3.0へという流れになることは、確かです。

こうしてみると、決して新奇な発想ではないことが分かります。マズローは1970年になくなった心理学者ですから。

モチベーション3.0を可能にする環境要因

ダニエル・ピンクがせっかく「ワクワクする話」をしているところへ、水を差すのは気が進みませんが、上図のマズローの欲求の階層は、ただ漠然とピラミッドになっているわけではないのです。下位の欲求が満たされた後に、上位の欲求を人は求める、という理論があるのです。

これが、社会でお金が幅をきかせる重要な理由です。確かに英国の作家、コリン・ウィルソンが指摘したとおり、安全の欲求が十分満たされもしないのに、いきなり自己実現を求めて突っ走る人もいます。それも結構な数の人がいることはいるのです。

けれどもほとんどの人は、なるべくなら、生理的欲求、安全、恋愛、結婚、友達等々を十分確保してから、しかる後に「やりたいことをやろう」と考えるものです。ダニエル・ピンクが部分的には認めているとおり、モチベーション2.0抜きでは、成り立たない環境はたくさんあります

モチベーション3.0を実験するべき時

以上のように述べたものの、私は本書の主張に、ほとんどのところで賛成です。モチベーション2.0だけで人を動機づけようとする考え方には、弊害が多すぎますし、モチベーション3.0を中心に据えた方がうまくいく環境も、たくさんあると思われます。

そういう環境下で、2.0だけに固執し、3.0を鼻で笑うのは、長期的にはみんなで損を被るやり方です。本書は2.0の考え方のデメリットを細かく箇条書きにして、3.0の具体的な導入方法に言及しています。これが新しいところです。

「ろうそくの問題」で「金銭報酬が創造力を損なう」ことの有力事例としたのはいただけませんし、ダン・アリエリーのインドにおける実験を、「高額のインセンティブが動機付けを阻害した」事例としたのも説得力に欠けています。(いずれの解釈でも、高い報酬というインセンティブが損なう対象として、モチベーションとパフォーマンスをごっちゃにしています。)

にもかかわらず、モチベーション2.0をほとんど唯一のインセンティブに置いた場合、ダニエル・ピンクが指摘するとおり、人は「ヒューリスティックス」で損得を検討するからこそ、「仕事の質や完成度や面白さなど無視して、とにかく損をしないようにしよう」と、奇怪かつ高度な適応を自ら果たしてしまうことが問題です。

たとえば本来文筆家は、どちらかといえばモチベーション3.0に動機づけられやすい人々です。選択できるテーマの面白さや、生活スタイルの自律性、作り上げる書籍の完成度の高さなどに、本来こだわりがちな職種なのです。

にもかかわらず、「本をスピーディに出し続けることで、ようやく収益を上げる」というビジネスモデルに最適化されてしまうと、モチベーション2.0に一気に傾きます。極端な場合、白紙に文字を埋めて出す、という機械作業になりかねません。報酬が十分である場合より、むしろ不十分な場合こそ、「生活のために急いで文字を吐く」というパターンに陥る辺りは、マズローの階層説そのままです。

出版社と文筆家がそろってモチベーション2.0に傾くことは、長期的に見ればデメリットだらけです。このような場合には、何とかしてモチベーション3.0を成立させるような環境を整備できないかと、検討するべきでしょう。実は文筆家に限らず、そのような職種は今や決して少なくないはずで、だからこそ『モチベーション3.0』は今読まれているわけです。

▼編集後記:
佐々木正悟

8月6日(金)、パソナテック本社(東京・丸の内)にて「マインドハック研究会 ライフハック編」を開催いたします。

今回は、現役会社員であるkazumotoさんをゲストスピーカーとして来ていただき、実際のビジネスの現場で使える実践的なライフハックをメインテーマにしたいと思います。

kazumotoさんは、Find the meanng of my lifeの中の人で、GTDを実践されていたり、「うつからの回復」についてエントリを書いていらっしゃいます。

その内容には、多くの方に共有していただく価値が、十分あると思います。現在のビジネスパーソンにとっては、知っているだけでもちがう知識、だと考えられます。

▼お申し込みはこちら
http://kokucheese.com/event/index/3504/