電子書籍の話題を続けて書いていましたが、その発端となったのが、この一冊。
ここ数回の連載では、読み手視線からの電子書籍を見てきました。今回は「書き手」が電子書籍の時代において求められるスキルについて、引用を加えながら考えてみたいと思います。
セルフ・パブリッシングの時代
電子書籍が一般化することで期待できる大きな変化は、アマチュアでも本が書けるという事です。
プロであろうがアマチュアであろうが、誰もが自分で書いた本をフラットに電子ブックプラットフォームへと投げ込むことができるシステム。
出版社とのつながりを持っていなくても本が出せる時代、それがセルフパブリッシング時代です。
実際の事例として、本書ではV・J・チェンバースさんと言うアメリカ人女性のケースが紹介されています。
彼女は高校教師として生計を立てながら、インディー(独立系)の書き手として小説を書いています。彼女は09年春からセルフパブリッシングをスタートさせました。
(中略)
「多くの人に読んでもらうために書くという行為は、自分の書いたものをエージェントに送って放置されたり、そっけない断りの手紙を受け取るよりも数千億倍価値がある。
SNSのマイスペースでは『あなたの小説はベストセラーよりも面白いよ』コメントしてくれる人たちがて本当に嬉しかった」
職業的作家ではなくても、読み手に対して「本」が書ける。そしてそこから収入とフィードバックを得る事ができる。そういった環境が整えば、今までの「プロの書き手」は大きな問いにさらされる事になるでしょう。
つまり「プロってなんだろうか?」という問いです。今回はこの辺りの話は割愛しますが、現在「プロの書き手」である人が考えるべきテーマだと思います。
セルフパブリッシングにおける4つのポイント
今回はプロやアマチュアという視点を捨てて、一人の「書き手」がセルフブランディング時代に置いて、何を意識する必要があるか考えます。
本書よりポイントだけを要約すれば以下の4つになるでしょう。
- 自前のメディア(群)を持つ事
- ソーシャルメディアを活用する事
- ソーシャル・マーケティング行う事
- フリーミアムを恐れない事
それぞれみていきましょう。
1.自前のメディア(群)を持つ事
まっさきに取りかかるべき事は「ブログを持つ事」でしょうか。電子書籍がネット上でやり取りされる以上、ネットの中で自分の居場所を確立する必要があります。
ブログを更新していく事で
- 知名度を上げる
- 自分の方向性について知ってもらう
- 信頼を得る
という効果が得られます。
また(群)を括弧書きにしたのにも意味があります。一つのブログは出発点のようなものです。メールマガジン、ポッドキャスト、YouTube、などを使ってコンテンツを提供していくことで、広がりを持たせる事ができます。これらは自分が発信の中心となるメディアということでセルフ・メディアと呼べるでしょう。
この辺りの話は参考文献にあげた『ネットがあれば履歴書はいらない』が詳しいのでそちらをご覧下さい。要点は「ネットの世界に自分の旗印を立てる事」となります。
2.ソーシャルメディアを活用する事
ブログを持てばそれだけで良いか、というとそうではありません。昨今ではあまりにもブログの数が多いので、単に更新しているだけでは知名度はなかなか上がっていきません。
そこで有効なのがTwitterなどのソーシャルメディアの存在です。mixiなどに比べて緩やかで幅広いつながりを持つTwitterでは「口コミ」の力がかなり大きく影響します。
自分の書いた記事の情報をTwitterに流すようにしておけば、口コミで大きく広がっていく可能性があります。そういう力の大きさを知っておく事と、積極的に自分から参加することが必要になってきます。
3.ソーシャル・マーケティング行う事
再びチェンバースさんの言葉を引用します。
「これから読者向けにメールマガジンも発行して、アップデート情報を通知しよう。そうすれば私がブログに投稿した内容や、新しい本の内容をお知らせできるから。それから、マーケティングを読者に手伝ってもらうことも考えている。
有料で本を買うのがたいへん、という読者には、ブログやフェイスブック、アマゾンやスマッシュワーズのレビューに私の本について投稿してもらえると、本を1冊無料で読めるようにするというふうなこともやってみうと思うんだ。
セルフ・メディアからソーシャルメディアとのつながりが生まれれば、そこには小さいけれども確かな「コミュニティ」が出来上がると思います。「書き手」を中心とした読者の輪、それがコミュニティです。本書より表現を借りるならば「小規模だけども、とても親密な空間をもつコミュニティ」となるでしょうか。
セルフパブリッシングの時代では、全ての「本」がフラットに扱われます。そして現在のブログと同じように途方もない数の電子書籍が登場する事になるでしょう。そういった状況では、従来のマーケティングでは効率が悪いと言わざる得ません。
肝心なのは「読みたい」と思っている層にたいして情報が届く事。それを実現するための最も低コストな手段がソーシャルメディアというわけです。
単に更新情報だけでなく、ソーシャルメディアから読者の感想を拾い上げてソーシャルメディアに流す、という行為は今の日本でも普通に行われています。
4.フリーミアムを恐れない事
さらに、チェンバースさんの言葉を引用します。
「じゃあどうするか? 私がとりあえず最近とった方法は、本の一部をウェブサイトで無料公開するというやり方だ。
古い3冊を無料で公開しておく。新しい本はプレビューはできるけど、有料。新しい本を読みたい人は購入すればいいし、偶然このサイトにやってきた人はとりあえず無料で本が読める。
新しい本を私が書き終えたら、いままで無料にしていた本を無料コーナーに移動させる」
今販売されている本は読者が「立ち読み」して買うかどうか選べるのが普通です。電子書籍でもそれは同様でしょう。
実現する手法はいくらでもあると思いますが、「フリー」で解放する情報をしっかり出しながら、「プレミアム」として料金をもらえる、という形作りは意識しておく必要があります。
このあたりは参考文献にあげた「フリー」を参照してください。
まとめ
本書で紹介されているミュージシャンのまつきあゆむさんの言葉はとても印象深いものでした。
実体のない大勢の誰かに自分の大事な音楽を投げつけてみるより、今こそ、僕の音楽に興味を持った人へ1対1でそれを手渡ししたいと思ったんです。
そのために僕はインターネットとか肉体的に使えそうだぞ、と。
これは、情報を発信するために、あるいは読者とつながるためにわざわざマスに頼らなくたっていいんだ、という時代の到来を示唆しています。
パソコンとインターネット環境を持っていれば、わずかな投資で本を出版することができる時代。その到来はセルフブランディングの質を変化させると共に「書き手」がどのように生きていくのかというモデルまで変化させることでしょう。
出版業界に関わる方だけではなく、読み手そして将来の書き手の方にはぜひ読んでもらいたい一冊です。
▼参考文献:
フリーミアムについて知りたければこの一冊。ちょっと分厚いですが。
これからの「履歴書」の作り方。今の時代、履歴書だって検索されます。
▼関連エントリー:
・仕入れとしての読書、電子書籍の読書
・効果的に読書を進める方法と電子書籍のメリット
・文脈を飛び越える本との出会い方
▼今週の一冊:
今週読んだ本なんかあったっけとメディアマーカーを見ていたんですが、この1冊しか読んでませんでした。あまりこの場にふさわしい本かどうかはわかりませんが、印象深い小説だったので紹介。まあわざわざ私が紹介するまでもなく売れている本ですが。
天候がすごく変わりやすくて、体調の管理が難しい最近です。近頃Twtterのタイムライン上でiPadの話題とか実物の写真とかお試しレビューの感想とかが流れてくるようになって、自分の物欲の管理も難しくなってきます。あぁiPad。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。