私たちは驚くほど、プロセスの記憶というものを軽視しがちです。
特に大きめの仕事となると、たとえば書籍を一冊仕上げるというようなプロジェクトの場合、よく覚えていることといえば
- 編集さんと企画の打ち合わせをしたこと
- 目次を作ったこと
- 原稿を何日も書いたこと
- 途中で編集さんとメールのやりとりをしたこと
- 脱稿
- レストランで家族と脱稿祝いをしたこと
- 本の表紙ができあがったこと
- Amazonに自分の本が登録されたこと
- 書籍の見本が家に届いたこと
といった感じになってしまいます。
この記憶はいかにも偏っていて、本を書く前と、書いた後のことを妙によく覚えている一方で、本を書いている真っ最中のことは断片的にしか覚えていないのです。
この偏った記憶は、とても不便です。
仕事を実際にするとなったとき、必要なのは
- どのように本を書いていけばいいのか
- どのくらいで書き上がるのか
- 書いている最中に行き詰まったらどうするべきか
といったことです。それらは本を書く「前後」のことなどではなく、本を書いている「真っ最中」の記憶の中身です。それが抜け落ちがちなのです。
どうやって本を書いていくべきかを思い出したいというのに、表紙のことを思い出しても、どうしようもないのです。
1日という短いスパンについても、同じような記憶の偏りが起こります。
割合簡単に思い出せるのは、朝起きにくかったときのことと、夜寝る前のことだったりします。
つまり、最初と、最後なのです。たぶん記憶というのは、始まりと終わりをよく保存するような仕組みになっているのでしょう。
思い出そうとしても思い出しにくい記憶
しかし、日中何をしていたかは、なかなか思い出しにくい。特別なことがあればもちろんそれだけは記憶に残りますが、特になにもなかった場合には、「今日一日ずっと会社にいたが、会社でのことは何一つ思い出せない」などという悲惨なことになりかねません。
真ん中がすっぽり抜け落ちているわけです。
しかし、たとえば1日のスケジュール作る際、もっとも思い出したいのは、そのぽっかり抜け落ちている真ん中の部分です。朝起きるのが大変だったことや、通勤ラッシュのことや、寝る前のネットサーフィンのことなどは、だいたいどうでも良いのです。
会社にいたとき、お昼まで何をして、お昼からどう過ごし、残業時間はどんなふうに時間を使ったのか。しかしそれらがなぜか思い出しにくい。思い出せても不正確だったりする。
タスクシュートが救い出すのはまさにここのところです。
タスクシュートというのは、記録対象にメリハリをつけません。大事だから記録するとか、大事でないことはスルーする、といったことをいっさいせず、やったことの記録はまんべんなく残すようにします。
しかも自動ではなくマニュアルです。だから、プロセスの記録が残ると同時に、プロセスについての注意力が増します。「今自分は何をしているのか?」とたえず自問せずには使用できないツールだからです。
私たちが仕事を実行するのに必要なのは、プロセス実行中の記録です。思い出そうとしても思い出しにくいその記憶が、記録として目の前にあることほど、楽なことはありません。
後になってみてみると、さほど面白い記録ではないかもしれませんが、非常に実用的な記録です。自分はたしかにこのように時間を使った、という記録です。それがあれば、「今日の」仕事のプロセスを先読みできます。
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