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いつも時間がないあなたに

By: Lauren HammondCC BY 2.0


佐々木正悟 本書は、時間不足問題を取り扱った本のなかで、もっとも核心に迫っています。

私たちが時間管理に失敗する最大の要因は2つありますが、本書では冒頭の第1章から、その2つの両方ともを取り上げています。そうした本は、実はほとんどありません。

その原因とはつぎの2つです。

  • 不足していることがはっきりしてきて初めて、私たちは時間の使い方が上手になる
  • しかし、不足がはっきりしてくると、時間をかけるべきことに集中するあまり、判断が狂う。その結果、ますますひどい時間不足に陥るタネを自分で蒔いてしまう

まずひとつ目の、時間が不足したときにこそ、時間を上手に使えることについて、本書はでそこかしこで指摘されています。この指摘自体は、もちろん私たちの経験と合致するものであり、そんなに目新しくはありません。

人は歯磨き粉のチューブが空に近くなると歯磨き粉を大事に使うようになる。

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学 センディル・ ムッライナタン エルダー・ シャフィール 大田 直子

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しかしこんなありふれた事実すら、時間管理系の本の中では、めったに指摘されていません。仮に指摘する人があっても、たいしてありがたくもない心得を後に残すのみです。

私も親や先生や妻や先輩などから、つまらないお説教を何度も聞かされてきました。お金であれ時間であれ「まだ使い始めや、たくさんあるときでも、なくなりそうな時みたいに思って、大事に使いなさい」というのです。

子供のころはしかりごもっともその通りでございますというわけで、7月の最初から夏休みを大事に使おうと、ムダな努力を試みていたわけですが、今では、こうしたことを言う人は要するに、他に何も良いチエが思い浮かばなかったのだろうと思うほかありません。

この本の中では、おそらくたいていの生物が、豊富にリソースがあればそれを「贅沢に」使うということが「ハチの巣」によって示されています。「建材」が豊富にあるドロバチの巣は、相対的に雑に作られているというのです。

こういう事実こそ「時間管理」に必須なのです。私たちが「時間をうまく活用できない」のは、「時間は豊富にある」という観念から逃れにくいからです。ある意味で私たちは「時間の中で生きて」いて、死ぬまでそうした状態が続きます。

そんな私たちが「時間をうまく使えるようになるとき」というのは、締め切りが迫ってきて、青くなるときです。歯磨き粉がなくなってくると、おしりのほうを強引に絞ってヒネリ出すように、時間をひねり出しはじめるわけです。

中間試験の前だけは徹夜して勉強する学生のようなものです。もちろんまた「時間は豊富にある」という状態が戻ってきます。中間試験は、たとえどれほど悲惨な成績だろうと、終わることは終わるからです。時間が豊富に戻ってくれば(次の学期末試験はずっと先です)、時間の使い方は再び贅沢になるわけです。

それでもこれが唯一の問題であるなら、もう少し時間の使い方がうまくなる人が増えるでしょう。なぜなら、「時間切迫感」をカレンダーによって確認し、「時間に余裕がある」という時期などどこにもないと自覚するのは、難しくないからです。

しかし実は、時間をうまく使うのが難しくなる、もう一つ別の要因があります。それが2つ目の問題。これまでの話と矛盾するようですが、私たちは「時間が不足している」という思いにとらわれると、時間の使い方が下手になるのです。

実はこれも多くの人が知っています。時間が極端に足りなくなってくると、焦りから、何も手につかなくなります。あるいは、集中するべきことだけにあまりに集中してしまって、いくら他のことに手が回らないとはいえ、手を回すべきことすら放置してしまうのです。

たとえば締め切りがすぐそこまで迫ってるからと言って、食事もとらず、睡眠もとらず、家族との会話にも一切応じなかったとしたら、結局健康を害して、人間関係も破壊してしまうでしょう。

後でその結果は高くつきます。おそらく、仕事の締め切りを何とか間に合わせた結果として、病院へ行ったり、家族との関係修復のために、膨大な時間を使うことになったりするでしょう。つまり、全体としては不合理な時間の使い方をしてしまうわけです。

そこまでいかなくても、いろいろな仕事の締め切りが次々にやって来たりすると、じっくり計画を立てているヒマもなく、優先順位についてもなにも考えることができなくなるため、気がつくと非常にムダなことに没頭したりすることがあります。

焦って何も手につかないというのもその1つで、今すぐしなければならないことが3つもあると、そのどれをやるかで悩んでパニックに陥り、結局どれもしないまま、長い時間が経過してしまうのです。

つまり私たち人間にとって、時間をうまく使うのは、実に難しいのです。

一方には、時間がないという意識を高める必要があり、他方には、時間がないという意識を鎮静させる必要があります。この2つの要求は、もちろん相容れません。

本書には、どうすればこの難しい課題をこなせるようになるかは、あまり詳しく書いていません(私は、だからタスクシュートを使うしかないと答えたいところですが、ここではおいておきましょう)。それでも本書は時間管理に関する最良の本です。

なぜなら、時間活用を難しくしている2つのからみあった原因を徹底的に指摘してある、とても珍しい本だからです。

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学 センディル・ ムッライナタン エルダー・ シャフィール 大田 直子

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▼編集後記:
佐々木正悟



記事の中では一回だけ言及した「この課題に答えうるのはタスクシュート」という下りですが、どのようにそれを可能にするかというと、

  • リアルタイムに時間がギリギリであることを見える化する
  • 大事なことからそうでないことまですべてやっても何とか間に合う

という2つの事実をたえず自分に確認させることができるからです。

今月26日のセミナーでは、その点についてもお話ししようと思っています。

9月26日 第8回タスクシュート超入門