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決断し、行動するためのメンタルブロックを、簡単に粉砕するための1冊

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質 ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
望月 衛

ダイヤモンド社 2009-06-19
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本書のような本で困るのは、まず邦題です。『ブラック・スワン』はいいとしても『黒い白鳥』は明らかに問題な日本語でしょう。けれどもこの「黒い白鳥」という表現は、本書の内容をほぼあますところなく伝えてくれます。

本書の内容を強引に一言でまとめれば、マキャベリのお母さんが言ったとかいう言葉になります。「人は、経験からは学ばない」。本書の著者はさらに辛辣ですが、言わんとしているところはほぼ同じです。ただ、人は経験から学ばないが、学ばないという事実をぜんぜん自覚しようとしない、というところが本書では強調されていて、そのために引く事例がいちいち面白いのです。

私たちは、私たちは学ばないということを私たちは学ばないということを自然とは学ばない

いささか非難がましく聞こえます。私にもそう聞こえました。それに、著者は自分だけは例外だとでも言いたいのだろうかと、どうしても感じてしまいます。そうではないといくら示唆されていても、この内容では、そう思わざるを得ないのです。

もちろん、ここで言っている「学ばないこと」とは、「黒い白鳥がいる」ということです。これをもう少しありきたりな言葉に直すと、「予測もつかないようなことが起こる」ということになります。この「予測もつかないようなことが、実際には起こる」ということに対して、たいていの人は「異論なし」なのですが、にもかかわらず大変奇妙なことに、「どんな出来事だって予測しうる」と思い込んでいるのです。このふたつは明らかに両立しません。

なぜそうなるかというと、「人の頭はそう働くからだ」というのが、本書における心理学的な主張です。第一に、人は「想定の範囲外」ということのインパクトを、過小評価しがちだからで、第二に、「予測もしなかったことが起こった」あとで、「私は以前からあれを予測していた」と考えてしまうからです。

レバノンと呼ばれる国は、どの切り口から見ても、平和の楽園に思えた

筆者はレバノンに生まれ育ったため、読者には奇妙に思えるこんな体験を経ているのです。私たちの多くにとってレバノンといえば、「レバノン内戦」です。内線の内容も、歴史的経緯も、首都名すら知らない人でも、「レバノン内戦」だけは知っている。ですから、「どの切り口から見ても、平和の楽園」というのとは、まさに正反対のイメージです。

筆者は1000年もの間、レバノンは平和で「天国」だったといいます。仮に筆者が生まれてからの時代に絞っても、「レバノン内戦」の状態に至るまでの間は、やはり「天国のように平和」だったのです。しかしとつぜん、少なくとも筆者にとっては何の前触れもなしに、「天国」は私たちのよく知るレバノンになってしまいます。

 銃弾と迫撃砲が数発飛び交って、レバノンの「天国」は一瞬で消えてなくなった。私が牢屋に放り込まれてから数ヶ月後、十三世紀近くに及ぶ素晴らしい多民族の共存の後に、どこからともなく黒い白鳥がやってきて、かの地を天国から地獄に変えた。

 
これが「黒い白鳥」であり、私たちが想定し得ないものであり、後になって「やってくる前触れ」をみんなで「想定していた」ことにしてしまうものです。それほど知識が豊富で賢明な自分たちなのだから、身の振り方についても自信を持っているし、自分が置かれた状況についても、きちんと把握していると思うのが当然でしょう。

レバノン内戦の行方がまったくわからないのは明らかだったけれど、みんながことの成り行きを説明するときに言うことはいつも同じだった。関心のある人たちはほとんどの皆、自分は何がどうなっているかちゃんとわかっていると信じ切っていた。
 毎日毎日、彼らの予測からかけ離れたことが起こった。でも彼らには、起こったことを自分が予測できていなかったのがわからなかった。それまでに起こったことに照らせば頭がおかしくなるようなことが毎日起こっていた。それなのに、起こったことを後から振り返ると、それほどおかしくないことだったような気がする。

決断するのに「決断力」は必要ない

『ブラック・スワン』を、少なくとも読んだ直後であれば、やろうと思ったことはすぐにでもやった方がいい、と思うようになるでしょう。それは本書が「決断力を促す本」だからではなく、「行動力を重視する本」だからでもなく、私たちの「経験知」と「想像力」が、どんなに頼りにならないものであるか、思い知ることになるからです。

何と言っても、経験知と想像力に沿ってものを考えていると、「頭がおかしくなるようなことが毎日起こっていたのに、後から振り返ると、それほどおかしくないことだったような気が」してしまうのです。実はこれとそっくりの指摘を、シゴタノ!でもとりあげた心理学書がしています。『幸せはいつもちょっと先になる』の中でダニエル・ギルバートは、「過去が穴のある壁なら、未来は壁のない穴だ」と述べているのです。

「壁のない穴」ということでは、事実上なんだって書き込むことができてしまいます。未来について、どんなに「おいしく」思い描くことも自由自在です。その上「過去」についても、「それほどおかしいことは何も起きていない」と考える。つまり「頭がおかしくなるようなこと」は一つもないわけです。過去についても未来についても、私たちの頭脳は、あいまいな楽天主義につつまれています。これでは「行動を起こす必要性」など感じるはずもないでしょう。

1960年代にカストロ政権ができたとき、キューバからマイアミへ「ほんの何日か」逃れてきた人たちが、いまだに荷物を半分しか解いていなかったりする。

もちろんこの人たちを見舞った不運は、いささか特別すぎるきらいはあります。しかし、「あと数日もすれば内戦は終わり、カストロ政権はどこかへ行ってしまうだろう」という予測を立てて、いったい何年過ごしてきてしまったのでしょうか?

彼らをこうまで絡め取ってしまっているものとは、ありきたりな心理的なトリックにすぎず、トリックの目的は「頭をおかしくさせないこと」にあるのです。「そんなにひどいことは何も起こらなかった。その証拠に、あと数日で何もかもよくなるだろう」。このトリックから逃れられれば、自然と行動的にもなれるはずです。そしてそんな恐るべき心理トリックを解析しているのが『ブラック・スワン』なのです。

▼編集後記:
佐々木正悟

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今月中旬、『iPhone情報整理術』を上梓します。

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たとえば本書では、iPhoneとモレスキンノートとの連動について述べています。マニュアル書にそんなものを差し込む理由はないですし、アプリケーションの使い方とも別のことです。本書は、ビジネスと実用の中におけるiPhoneの活用法を記した本です。

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