ひとりの中での役割分担。
仕事を前に進めるうえでは役割分担が重要です。
特に自分一人で仕事をしている場合です。
「自分一人なら役割分担は要らないのでは?」
と思われるかもしれません。
でも、自分という人間は一人のように見えて実は二人、
あるいはそれ以上の“他人”による合議制で“運営”されているのです。
多重人格のことを言っているのではありません。
“ひとり水掛け論”を未然に防ぐ
どんな人でも、たとえば、以下のような分裂が起こりうる、ということです。
- 1.明日は早起きしてこの仕事を片づけてしまおう
- 2.朝イチで片づけようと思ったけど、まぁ午後でもいいよね
夜の自分と朝の自分という二人の見解が見事に相違しているのがわかります。
こうしたことがある以上、「自分」というものを信じるわけにはいかなくなります。
代わりに、自分の中にいる「他人」の言動をつぶさに観察し、
彼らに先んじて手を打つしかありません。
そのためには彼らの“ステータスアップデート”、
すなわち言ったこと、やったことの履歴を手に入れる必要があります。
「昨日の晩は朝やるって言ったじゃないか!」
「いや、言った覚えはない」
という押し問答(=“ひとり水掛け論”)になったときに備えて言質を取っておくのです。
具体的には、何をやったかを記録に残しておくようにします。
“ひとりリレー”をつないでいく
そのうえで、次のような認識の切り替えを行ないます。
- 一人ひとりが自分の“仕事”を完璧に仕上げて次の人に渡す、
のではなく、
- 一人ひとりが自分でできるところまで進めて次の人に託す、
ように変えるのです。
あまり違いが感じられないように思えるかもしれませんが、この切り替えによって、一人ひとりの負荷がぐっと下がります。
具体的には、
- 明日は早起きしてこの仕事を片づけてしまおう
その結果、
- そのために、ちょっとだけ手を付けて残りは「彼」に託そう。
という流れになりやすくなります。
自分のところに回ってきた仕事をそのまま次に回すのではなく、少しだけでもいいので手を加えたうえで、“次の人”に回すようにするわけです。
こうすることで、少しずつですが、仕事は確実に前に進みます。
実際のところ、
- うわー、もう眠いなー、今日は寝てしまおうか…
といった状況においても、
- でもその前に今の自分でもできることをやってから寝よう。
という“トス”を上げられるようになります。トスを上げてもらえば、“次の人”である翌朝の自分にはアタックチャンスが巡ってくるかもしれません。
事例:1本の記事を少しずつ書き進める
例えば、このブログの記事は以下のようなステップに分けて、少しずつ書き進めています。
- 公開日3日前:イラスト案出し
- 公開日2日前:イラスト完成
- 公開日2日前:本文草稿(アウトライン)
- 公開日1日前:本文執筆
- 公開日当日朝:推敲&投稿
公開日3日前:イラスト案出し
イラスト案出しでは、最近読んだ本や起きた出来事などをもとに、いくつかの候補をラフに描いておきます。この段階ではまだどんな記事になるかは自分でもわかりません。
公開日2日前:イラスト完成
翌日、候補を見比べて、記事を通して伝えたいことが最もクリアにイメージできたものを1つ選び、記事の概要を表すようなイラストに仕上げます。
公開日2日前:本文草稿(アウトライン)
その後、イメージが鮮明なうちに、描いたイラストを見ながら草稿を作っていきます。
テキストファイルに思いついたことを書き出すことが多かったのですが、『アウトライン・プロセッシング入門』を読んでからはアウトラインを作るほうがラクなうえに書きたいことの整理が効率よく進むことに気づいて、Workflowyに向かうようになりました。
「ラク」とは、本書でいうところの以下です。
通常のカット&ペーストでこれをやるのはなかなか手間がかかりますが、アウトライナーなら見出しをマウスで動かすだけです。
アウトラインを折りたたんでおけばあちこちスクロールする必要もありません。
さらに、以下のような効用も得られます。
いろんな文章の断片が内容問わず、分け隔て無く、ぎっしり詰め込まれたアウトラインがあります。
ちょっと「シェイク」すれば項目同士が互いにふれ合い、引き寄せ合い、反発します。
異質なもの同士が化学反応を起こし、新たな項目が生まれます。そしてまた他のトピックと接触します。
とても不思議な感覚ですが、このようにして考えの整理が進むのです。
公開日1日前:本文執筆
ここまでくれば、あとはアウトラインをもとに文章に起こしていく(本文執筆)だけです。
もちろん、
アウトラインを作ったときには簡単に文章化できそうに思えた内容も、書いてみるとアウトライン以上の内容が出てこない。
逆に何かの拍子に筆が走り出すと、今度は決めてあったアウトラインからどんどん逸脱してしまう。
といったことが起こるので、必ずしもスムーズにはいきません。
それでも、アウトラインという見通しが得られているという圧倒的な安心感があるために、このステップはなかなか楽しめます。
公開日当日朝:推敲&投稿
そして、公開当日の朝、改めて起き抜けのスッキリとした頭で読み返しながら仕上げていきます。
いずれもステップにおいても、「完璧に仕上げなければならない」というプレッシャーはほとんどありません。
とにかく「できるところまでやって次のステップに流す」というライトな感覚です。
ただし、「ゼロのままでは終わらせない」というルールは守っています。必ず何らかの手を加えます。このちょっとした積み重ねが仕事を前に進めることになるからです。
「終わらせることができないのなら、いま取りかかるのはムダだからやらない」
という考え方から抜け出せるかどうかがカギです。
これは、今回のように文章を書くことに限らず、あらゆる仕事にあてはまります。
参考文献:
もう何度も読み返している『できる人は5分間で仕事が終わる』を、今回の記事を書くためにまた読み返しました。
以下、本書よりピックアップ。いずれも普遍性のある法則といえます。
- 言い方を換えると、私達の行動パターンは、仕事が消えてしまうか、緊急事態に成長するまで、行動を先延ばしにするものなのです。
- つまり、仕事を抱えすぎたら優先順位は無駄、その反対に、仕事が適量以下なら優先順位をつける必要はありません。
- 「注意を向けたことが、自分の生きる環境になる」というのが人生の法則です。
- プロジェクトが失敗する理由の大半は、集中、そして継続した注意が十分に向けられなかったことであり、成功の理由は、集中、継続した注意が充分に払われたことです。
- 私達は、仕事をしないでいる状態がかなりの不快感になるまで、仕事を始めません。
- 別の言い方をすれば、しない苦痛が、する苦痛を上回るまで動かないのです。
- 時間に制限のない状況で働くのは、制限のある場合より効率が落ちるのです。
- 途中で仕事を止めると、心が仕事を早く終わらせようと再開を望むようになります。
特に最後の「途中で仕事を止めると、心が仕事を早く終わらせようと再開を望むようになります」は、まさに今回のテーマ「少しずつ確実に前に進める」が有効に機能するうえでの根幹といえます。
本文中の引用は、こちらでもご紹介した『アウトライン・プロセッシング入門』からです。