※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

「脳をハックする」ための最高の入門書——『単純な脳、複雑な「私」』

佐々木正悟 「脳をハックする」方法は、ぱっと考えただけで二つあります。

  • 1.「脳をハックする」具体的な手続きに従うこと
  • 2.「脳の仕組み」を知ることで、ハックを発想すること

2の方がずっと面白い、と私は思います。池谷裕二さんの新刊、『単純な脳、複雑な「私」』は、2の方法を実行する扉を開いてくれる本です。でありながら、1の具体的ハックスもいくつか紹介してくれる、とてもすばらしい1冊です。

» 単純な脳、複雑な「私」

1の「ブレインハックス集」は以下の特設サイトからチェックしてみてください。きっと驚かれます。「脳」に関する見方が、これだけでも少し、変わるかもしれません。

単純な脳、複雑な「私」 動画特設サイト
http://www.asahipress.com/brain/


脳をハックするということ

「ライフハックス」という言葉が少し流行し、「ハック」ということが「効率化のための工夫」という意味にすっかり落ち着きつつあるため、たとえば「脳をハックする」といっても、その魅力がどんどん失われているような気がします。

「脳をハックする」なんて、ちょっと怖いことです。私には「ハック」という言葉の響きから、「機械のいじってはいけないところをちょっといじることで、本来出来もしないことをやってしまう禁断の方法」というイメージを抱いています。時速200kmしか出ない自動車の中身をいじることで、時速300kmを出してしまうとか。

その昔、まだ私が学生時代にMacを使っていた頃のことですが、「スピードダブラー」というような名前のソフトを使っていました。何らかの方法で、Macを「倍速にする」というわけですが、私にとっては、こういうのが「ハック」です。CPUの性能が上がるのを待てばいいのに、トリッキーな手段を使って、強引に倍速化する。当然何かとトラブルも引き起こしがちになります。

  • 脳をハックしてやる気を出す
  • 脳をハックして好きでもない人を好きになる
  • 脳をハックして面白くもないことを面白くする
  • 脳をハックしてありもしないものを見る
  • 脳をハックして眠いのに目を冴え冴えとさせる

これを楽しいと感じるか、怪しいと感じるかは人それぞれの価値観にもよるでしょう。楽しくて怪しいと感じるなら、ハック好きです。私はハック好きです。少し危なっかしい方法を用いてでも、本来の性能や機能以外のものを引き出したい。それがビジネスや生活の役にも立つというなら、言うことはありません。

「ハックス」は池谷さんのような専門家に教えてもらってもいいですが、欲を言えば、自分のニーズにぴったりしたものを、自分自身で開発したいと思うのです。それには、不十分なものでも、「知識」があった方がいい。たとえば、「面白くもないことを面白くする」というハックが欲しいなら、「面白くない」とはそもそもどういう状態で、「面白い」とは脳がどうなればいいのかが分かってくれば、ゴールは近いでしょう。

その上で、「面白くもないことが、面白くなるという体験をしたことがあるか?」と自問します。あるなら、そういうことは実現しうるわけです。あとは、それに対応する「脳の特性」を活用するだけです。

脳の特性とは?

『単純な脳、複雑な「私」』によると、脳の特性の一つとして、「感情と行動に内的一貫性を保とうとする」ということがあります。大事なのは、「それが後付の理由であったとしてもそうする」という点です。

社会心理学ではこの現象は、「認知的不協和」としてよく知られています。被験者に非常に退屈な作業をやらせ、あとで「あの作業はとても面白かったよ!」とウソをついてもらうという実験です。

退屈な作業をやらせるうえに、ウソまでついてもらうために、実験では報酬を渡します。ここではA群には100円。B群には2000円渡したとします。すると面白いことに、A群のグループは、あとから、「あの作業は本当に面白かった」と思うようになるのです。2000円をもらった方は、そうはなりません。

つまり、面白くもない作業をやり、ウソまでついて、その報酬がたった100円では、本当に「面白くない」ことになります。とはいえ、作業はすでにやってしまって、面白かったとも言ってしまったし、100円ももらってしまった。既成事実は変え難い。この中でもっとも変えやすいのは、「面白くなかったという評価とその記憶」です。では、それを変えればいい。つまり「作業は面白かった」ということにすればいいのです。そうすれば「面白い作業をやって、本当のことを言って、100円もらった」。悪いことは何もありません。万々歳です。

一方2000円をもらった人たちは、「確かに面白くもない作業をやって、ウソまでついたが、まあいいじゃないか。2000円をもらったのだから」ということになるわけです。

ここで大切なのは、この心理的な一連の流れが、無意識の裡に起こっている点です。つまり、脳はこういうことを実際やっているが、意識の上に上げてこようとしない。知らないうちにこうした動きが展開し、「楽しかった」とか「面白くも何ともなかった」というふうに、感じ方が分かれてしまうのです。ここにハックを可能とするポイントがあるでしょう。外的条件を適切に操作すれば、脳はそれによって「いじられ」て、通常の反応ではない反応を示すことになるわけです。

ハックと無意識

『単純な脳、複雑な「私」』はもちろん以上のようなエピソードに加えて、もっとずっと中身の濃い本です。しかし、全体としては「無意識に起こっていること」に焦点が当てられています。サブリミナルといい、直感といい、右脳といい、何かと話題になりやすく、私たちを魅了するテーマです。

無意識がなぜ面白いのかというと、自分でやっていながら、自分で気づくのがなかなか難しいからでしょう。そこをうまくとらえてやれば、すでに自分でやっていることなのですから、「改善」も「活用」も「開発」もできるのではないか、と思わせられるわけです。そして、本当にそれがうまくいくこともあります。つまり、期待が高まりやすいのです。

「改善」も「活用」も「開発」も、ハックの範疇です。だから脳をハックするということは、多くの場合、無意識をいじり倒すということに他ならないわけで、脳と無意識というエピソードで詰まっている本書が魅力的なのは当然なのです。

» 単純な脳、複雑な「私」


類書

リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法
リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法 武舎 広幸 武舎 るみ

オライリージャパン 2009-04-27
売り上げランキング : 1591

おすすめ平均 star
star全ての学習者が読んで実践するための本
starまとめ本

Amazonで詳しく見る by G-Tools

Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステム
Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステム Tom Stafford Matt Webb 夏目 大

オライリージャパン 2005-12
売り上げランキング : 18270

おすすめ平均 star
starオライリー的な脳へのアプローチ
star認知心理学のサブ教材として最適
star材料は悪くないんだけど。。。

Amazonで詳しく見る by G-Tools

Mind パフォーマンス Hacks ―脳と心のユーザーマニュアル―
Mind パフォーマンス Hacks ―脳と心のユーザーマニュアル― 夏目 大

オライリージャパン 2007-08-25
売り上げランキング : 71728

おすすめ平均 star
star「頭の武道」
star前作より面白い
star脳と心のLife Hacks

Amazonで詳しく見る by G-Tools

記憶力をのばしたい!
記憶力をのばしたい! 藤井 留美

講談社 2008-07-08
売り上げランキング : 137328

Amazonで詳しく見る by G-Tools