佐々木正悟 
ときにTaskChuteにはin-boxがない、といわれることがあります。
ですが、それはちょっとした誤解です。たしかに「in-box」というものはありませんが、それに相当するものはあるのです。
新しいタスクが発生したら、TaskChuteでは「とにかく追加して、日付を明日以後に設定して、並べ替える」ようにすればいいのです。そうすれば
今入れたタスクは目の前から消える。しかし明日には検討・開始できる
というシステムに乗せることができます。これは実に便利なやり方です。
多くの人はこれとほぼ同じことを頭の中というシステムでやろうとして、多少の心理的負担を増やしてしまいます。記憶力のいい人にしてみれば、この程度の負担増は大した問題ではないと思えるでしょう。
しかし多くのビジネスパーソンは「ほんの少しでいいからストレスを減らしたい」といつでも思っているでしょう。それなのに増やさないですむストレスを増やす手はないと思うのです。
それに、よけいな未来のタスクの記憶でも、１つくらいならいいでしょうが、これが２つ、３つ、５つ、10個となってくると、大変な負担になります。
「未来in-box」に入れておくことで、そのような負担を増やすことなく、忘れても必ず仕事に再会できます。
「日付」を付けないタスクは入れられない
このシステムが不都合だという人の中には「全てのタスクに日付を付けられない」という方もいますが、日付を入れること自体に意味があるわけではないのです。日付を付けておけば、未来に必ず再会できる＝たしかに思い出せる、という点に意味があります。
私がTaskChuteを使っていていつでも感じることがあります。ここ以外のリストにあるタスクほど、実行率が極端に低い、ということです。
もちろんTaskChuteに置いてあるからと言って、何もかも実行できるというわけではありません。しかし、少なくとも何とかしようとしますし、そのモチベーションが、常に向き合っているだけに高く維持できます。
TaskChuteを使っていると仕事が進むのは「とにかく今日の分、ここにあるタスクだけはゼロにできるはず。ゼロにしよう」と思うからです。これは、朝から、午前中、お昼、午後、夕方、夜に書けて何度も何度も思います。1日100回くらい誓います。だからできるのです。
逆に言うと、ここ以外のリストに置かれたタスクというのは、無視されているとも言えます。「スキマ時間のやることリスト」を作成しておいて、スキマ時間ができたら、そのリストをおもむろに眺め、やりたいことを１つやる、というのは相当に高度なことです。わたしにはとてもできません。
一般の人は、リストに書いてあるからといって、それを見てすぐに行動を起こすことができるほど、行動的でも活力にあふれてもいないと私は思うのです。「スキマ時間にやることリスト」からピックアップするというこの方法は、説明だけ読むと理に叶っているようでも、実は不合理な方法なのです。
もっと私達の気持ちというのはグニャグニャしています。リストを見てピシッと１つ選んだりはできず「ここにあるどれも今は手をつける気にならないなあ」などというグニャッとしたことを、非常に「正しい言い分」だと思うものなのです。
そんなグニャグニャした気持ちでいたままでも仕事を前に進めるためには、何度も何度も同じリストを見返し、何度も何度もグニャグニャし、何度も何度も「それでもこれをやる以外はないなあ…」と考え、それでもやらずに済ませるいいわけを考え、それでも寝る時間が遅くなることを見せつけられつつ、やっとこさっとこやる………というのが現実でしょう。
日付の付かないタスクが並んでいるリストは、たいていの人は見なくなります。たとえ見たとしても、上記のグニャグニャの気持ちのせいで、まずその場では手がつけられません。それよりは「今日の日付が付けられている、厳選された今日やる以外逃げ場のないリスト」だけを持つのが、圧倒的に楽なのです。
「逃げ場がなくなるからTaskChuteは大変だ」という人が多くいるのですが、「逃げ場がない絶対やるしかない作業のリスト」だけをやる。TaskChuteだけに全てがあれば、スキマ時間にわざわざ別リストの活動などせず、グニャグニャしてれば良いのです。
これ以上に楽をする方法が、どこにあるのでしょうか？
これ以上に楽をするということは、絶対にやるべきことすら、やらないということを意味します。お風呂に入らない。歯を磨かない。寝る時間になっても寝ない。
はたしてその方が「楽」でしょうか？
