みなさん、初めまして!
本日より「シゴタノ!」の日曜日に連載を書かせてもらうことになった倉下忠憲です。R-sytleというブログで仕事術、知的生産、働くこと、などについて書いています。
私がこの連載で書かせてもらうテーマは「知的生産」。漢字にすると4文字ですが、掘り下げていくと幅広いテーマがそこには潜んでいます。
発想法や整理術や表現法など、文具やツールの使い方、さらに脳の使い方なども視野に入ってくるでしょう。
加えて、そもそも知的生産とはなんなのか?という基本的なこともきちんと定義・共有されていないのが現状ではないでしょうか。
そのあたりをふまえて役立つ情報や、考えるきっかけを提供していけたらと思っています。
知的生産の重要性
今回は初回ということで、なぜ「知的生産」が重要なのか、ということについて触れたいと思います。
知的生産の出発点とも言える「知的生産の技術」が発売されたのが1969年。今から40年も前です。このときは「知的生産」を行うのは研究者が中心でした。一般的な労働者におけるナレッジワーカー(知識労働者)の割合はとても低かったのです。
さて、40年前と今、何が変化したでしょうか?
学識者
その時代は貴重な文献にアクセスできる人が限られていたため、学者さんの中には、海外の文献を翻訳し、それをそのまま自分の実績とする、といった方もおられたようです。知識に関する仕事をする人の中でも、「知識」だけでご飯を食べている人はかなり沢山おられたのではないでしょうか。
現代では、単に知識を有しただけの人のありがたみは急激に薄れてきています。なにかしらの「成果」を出さなければ多くの人から認められる事はありません。
経営者・独立事業者
物が圧倒的に不足していた時代においては、イノベーションはそれほど必要ではありませんでした。どこかのイノベーションを後追いで真似してもそこそこのパイがありました。
また、国から保護されているような企業の場合はイノベーションという発想はむしろ邪魔であったかもしれません
現代において、イノベーションの重要性を知らない経営者はいないでしょう。イノベーションは知的生産の一種の「成果」です。
ビジネスパーソン
会社がイノベーションを必要としていない時代において、会社員が出世において必要とするものは「人間関係の立ち回り」「有力なコネ」「学歴」といったものでした。
現代では、一つの会社にどれだけ勤めていられるか、だれにも予想ができない状況になっています。リストラは珍しくない風景になっていますし、いくら会社の中でうまく立ち回ってもその会社がつぶれてしまえば自分の手に残るものはそう多くありません。
会社の中で存在感を発揮するにも、他の会社に転職するにも必要なものは「成果」とそのアピールです。
ノマド・ワーキングスタイル
これらに加えて、「ノマド・ワーキングスタイル」という考え方が登場しました。オフィスに限らず、どこでも仕事ができる人たちのことですが、これは会社組織からの離脱をも可能にしています。
今後、日本の会社の体質が代わり、正社員を長期に雇用するスタイルからプロジェクトごとに人材を集めるような仕事の進め方が一般化すればノマドはさらに注目される存在になるでしょう。
この仕事スタイルの場合、自分の成果がそのままプロフィールになります。何を成して来たか、がそのまま何を成せる可能性を持っているかに転化されます。
「成果」に注目が集まる時代
こういった時代において自分の時価総額を高めていくことはイコール「成果」を出す事です。そしてナレッジワーカーにとっての成果とはつまり「知的生産」の成果、ということになります。
研究者はもとより、経営者、ビジネスパーソンが知的生産における成果によって評価される時代がもうそこまで来ています。いや、すでに半歩は足を踏み入れているのかもしれません。
※一般的なビジネスパーソンの方が本を出版されるのを最近よく見かけますが、これも「知的生産」の成果と言えるでしょう。
このような新しい時代における”知的生産の技術”が持つ意味は重く、また磨く価値もあるものです。ナレッジワーカーの基本的なスキルであり、また他者との差別化を生みだすスキルでもあります。
アナログ時代の”知的生産の技術”は時代が移り変わっても、色あせない普遍的な要素を多分に含んでいます。むしろ過度に進みすぎてしまった情報化社会の中でより重要度があがるものもあるでしょう。もちろん新しいテクノロジーやツールの登場でさらに改良できるところもあるはずです。
そういった事を考えてみよう、というのがこの連載のテーマです。初回から、なんだか堅い話になってしまいました。次回からはもう少し柔らかめな感じで進めたいと思います。
どうぞ、よろしくお願いします。
▼始まりの一冊:
記事内でも触れましたが、私が「知的生産」もので一番感銘を受けたのが以下の一冊。
手帳、ノート、カード、読書、手紙、原稿・・・といった知的生産の材料集めから、生産過程に至るまでの技術がわかりやすくまとめられています。何度読み返しても何かしら得られるものがあります。
これさえ読んでおけば、他の本はこの本との「差分」で読める、といっても過言ではない本です。これから、知的生産について考えてみたい、と思う方はこの一冊から始めてみるのがよいでしょう。
※次回以降、知的生産に役立つ本、あるいは最近私が読んだ本などを紹介していきたいと思います。
はじめ大橋さんから「シゴタノ!で書きませんか」というお話をいただいたときは「えっ?」という感じでした。というか、いまでも「自分が書いてよいのか?」という気がしています。しかし、またとない機会を逃すことは幸運の女神様に申し訳が立たないので、ちゃっかりと寄稿者の一員に名を連ねる事にさせていただきました。すこしでも、皆様に役立つ記事を書きたいと思います。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。