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前回の続き。
今回は「現代で、知的生産を行うことの意味」について考えてみます。
職能としての知積生産の技術
知識労働者であれば、知的生産を行うことの意味は明白です。なにせ、それが仕事なのですから。
現代における仕事は、多かれ少なかれ情報を扱います。また情報を扱うだけではなく、そこから付加価値を生み出すこと(たとえば、あたらしいアイデアを作り出すこと)も、求められているでしょう。
すべての人が知識労働者である、とまでは言えませんが、知識労働者としてのスキルは何らかの形で役立つことが多いはずです。つまり、情報や知識、そして発想を扱うための技術を学ぶことには職業的な意義があるわけです。
その意義は、今後情報産業が広がりをみせ、さまざまな企業が「メディア化」していくのならば、まちがいなくより大きくなっていきます。
情報化社会とそこに生きる人
では、「現代で、知的生産を行うことの意味」は職業的な力を身につけることだけなのでしょうか。どうにも、それだけでは収まりきらない意味がありそうです。
現代は情報化社会であるとか、高度情報化社会である、ということはよく言われます。たしかにインフラ面の環境はかなり整備されていますし、紙の帳簿からデジタル・データベースに移り変わることで、容易に扱える情報の量は増えています。しかし、それだけで本当に高度情報化社会になったと言えるのかどうかは検討が必要でしょう。
それは普通選挙制度されあれば、民主主義が成立しているとは容易に言い切れないことに似ています。その制度の中で人々がどのように立ち振る舞っているかが重要であり、情報環境でも同じことが言えます。ようは、どういう情報が、どういう形でやりとりされているのかを無視することはできないわけです。
が、小難しい話はいったん脇にどけておきましょう。
考えたいのは、人と人のつながりはどうやって生まれているのか、という話です。
あたらしいつながりの源
情報化が始まる前の社会であれば、人のつながりを生んでいたのは「血縁」「地域」「組織」の3つの要素でした。 中根千枝さんが『タテ社会の人間関係』で指摘しているように、日本ではそれは強固なタテ型社会をも形成していました。
» 「会社に行くのがつらい」時に読むべき本、『タテ社会の人間関係 単一社会の理論』
しかし、それは崩れつつあります。劇的ではないせよ、タテ型の構造は崩れつつあります。
ソーシャルメディアでは「クラスタ」と呼ばれるものが形成されますが、その人たちの結びつきを生んでいるのは「血縁」でも「地域」でも「組織」でもありません。ある種の関心の方向性です。そして、ネットを介したそれらのつながりは、これまでとは全く違った人間関係を生み出しています。
で、そのつながりがどのようにして生まれるかと言えば、その人が発信している情報です。ブログやソーシャルメディアに乗る情報が、つながりを決める要因(あるいは一因)になるのです。つまり、いかに発信するか・何を発信するのかが人とのつながりをうみだす源になっているのです。
そして、「いかに発信するか・何を発信するのか」は、「知的生産の技術」に多分に含まれています。
意識されなくなる言葉とそれを支えるアーツ
おそらく、今後の社会では「知的生産」という言葉が特別に意識されることはなくなっていくでしょう。
ただしそれは知的生産が行われなくなることを意味してはいません。むしろ、逆です。仕事や生活の中で、ごく当たり前のように行われるようになり、結果としてわざわざ「知的生産」と呼んだりはしなくなるということです。そして、それを行うための技術も、より普遍性を帯びてくるでしょう。
最終的なアウトプットはそれぞれの「知的生産」で異なりますが、それを支える技術そのものには一定の共通項があります。
どんな情報をどのようにインプットするのか。インプットした情報はどのように扱うのか。それらの素材を使い、どのようにアウトプットを生み出すのか……。デジタル化が進んでも、「情報」という存在と、私たちの脳が著しい変化を遂げない限り、こうした技術が大きく変わることは考えにくいものです。
おそらく一連の技術は、情報化社会におけるリベラルアーツのような位置づけになっていくことでしょう。
さいごに
さて、短期連載として「あたらしい知的生産」についていろいろ考えてきましたが、最終的にこの言葉は消失するのではないかという一風変わった結論に落ち着きました。その代わり、その技術についてスポットライトを当てる必要性も浮かび上がってきました。
ここまでを書き終えた上で、当連載のタイトルを改めるとすれば「あたらしい知的生産とその技術について」ということになるでしょう。それについては、引き続きメインの連載の方でも書いていこうと思います。
▼参考文献:
しつこいですが。
▼今週の一冊:
本書も、広い意味では「知的生産の技術」を紹介した本です。
「デザイン思考」とは何なのか。どのように実践するのかが解説されています。多少重複する箇所があるので読みにくい面もありますが、実践的な内容で、参考になる部分は多いでしょう。
とくに「プロトタイプ思考」のアプローチは、セルフパブリッシングの分野と非常に相性が良いと感じます。
» デザイン思考の道具箱: イノベーションを生む会社のつくり方 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
Follow @rashita2
二つ告知があります。一つは、セルフパブリッシングの新刊が発売になりました。『Fount of Word -α-』という「今日の一言」をまとめた本です。
もう一つは、『Category Allegory』という本が無料キャンペーン中です(一応本日限り)。よろしくお願いします。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。