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短期集中連載 「有料メルマガを巡る冒険」 第一回 始まりの物語

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倉下忠憲

有料メルマガの話をしようと思います。

きっかけは結城浩さんの以下の連載。

短期集中連載「私と有料メルマガ」 « マガジン航[kɔː]


私も結城さんのメルマガを購読しておりますし、そもそも自分でも有料メルマガを運営しております。こうなると、ライターというのは自分でも何か書きたくなるもの。

上の連載にならい、複数回に分けてメルマガについて書いてみることにしましょう。もちろん「私と有料メルマガ」についてです。

まずは「始まりの物語」から。

Myメルマガ概要

最初に私のメルマガの基本情報を紹介しておきます。

私が運営する「Weekly R-style Magazine」がスタートしたのが2010年の10月。

毎週月曜日の朝7時配信で、お盆や正月休みもなし。最新号の176号に至るまで、言葉通り毎週配信し続けています。配信が月曜日の朝なのは、気分良く一週間を始める手助けになればいいな、と思うのが半分で、自分自身の一週間の区切りを日・月曜日でつけたいのが残り半分です。これについては、別の回でもう少し書いてみます。

価格は、330円。牛丼とタメを張れる価格で、高級なプリンよりも安くなっています。この価格設定にも意味があるわけですが、それについても別の回で書きましょう。

フォーマットはオムニバス形式になっており、コンテンツは「仕事術・ライフハック・知的生産・働き方・生き方」など、私の興味・関心のある分野についてのコーナーが複数掲載されています。ボリュームは、平均すれば毎号1万5千字程度。1万字を下回ることはなく、2万字に近いことも多いです。

今のところ配信スタンドは「まぐまぐ」さんだけですが、今後は増やせていけたらなと考えております。

3年以上も続けているので、有料メルマガについて思うところはそれなりにあります。では、スタートした当時はどうだったでしょうか。

始まりの物語

Evernoteを漁ってみると、2010年7月に書いた文章を「発掘」できました。

「何を考えて有料メルマガを始めたのか」

メルマガを始める前に書いた、自分の整理メモです。実際に始めたのは同じ年の10月なので、「何を考えて有料メルマガを始めようとしているのか」が正確なのですが、フリーライティング(頭の整理にはこれがぴったり)だったので気にしないでください。

過去の記憶は、今の自分にとって都合の良いように修正(あるいは改ざん)されている可能性が高いので(「僕は、前からそう思っていたよ」)、過去の自分が書いた文章を読み返してみるのは、差異を見つける上でなかなか有効です。

かなり気恥ずかしいですが、以下にその文章を載せてみましょう。ほぼ原文のままです。

何を考えて有料メルマガを始めたのか

知名度も、持っている情報も取るに足らないBloggerが、なぜ有料のメルマガを始めたのか。はっきりいって無謀と言える試みでしょう。

しかし、一見無謀だからこそやってみる価値があるのではないだろうか、と私は考えています。

これからの時代、いくら嫌っていようが世界のあり方は少しずつ変わってくるでしょう。その中では成功という言葉が持つイメージはより多様性を持ってくるはずです。有名大学に入らなくても、一流企業に潜り込まなくても、それぞれの人が描く成功の形を作れるような時代がやってくるはずです。

私みたいに、読書が好きで、物を考えるのが好き、という人間が窮屈な社会に押し込められるのではなく、ほそぼそとながらも生活していける可能性が以前よりも高まってきているのではないか、と楽観的に考えています。

超一流の作家は稼ぎすぎるほど稼いでいます。そして、その周りにはほとんど食えないライター。それが現状でしょう。しかし、ソーシャル・メディアの力が社会の中で大きくなっていけば、マスで売れていた作家もその勢いを削がれます。その代わり、そのパイはソーシャルのなかに根付く人々に流れていく。

そうした社会構造が生まれれば、人々はもっと自分らしく生きて行くことができるのではないでしょうか。わたしは、自分の人生でそれを実験してみたいと思っています。別に世間的な知名度には関心があるわけではありません。

自分の興味・関心__例えば人が働くとはどういうことか、日本社会のこれからは、など__の赴くままに学び、それを形にしていく。その中で生活していくための糧を得る。それが実現できれば、きっとこれからの日本で生きていく人に向けて、ある種の希望的なメッセージを自分の生き方の中で語れるのではないだろうか、と考えています。

もう一つは、定期連載の場を持つということです。業界に知り合いが多いわけでもないし、関西の片田舎に住んでいるので、出版社に顔が聞くということもありません。

こういう時に、じゃあその方向に人脈を作ろうと、考えないのが、私のあまのじゃくなところです。身近に連載を書く場所がないならば、自分で作ってしまえば良い、というのがこのメルマガを運営する意図の一つでもあります。

いろいろ書きたいことが多すぎるので、大きなテーマは連載という形を作っておいて、自分を書く気持ちに駆り立てながら、実際に締め切りを切っていく必要があります。それを有料のメルマガで行えば「締め切り効果」も一層高い物になるでしょう。しかも、自分の書きたい物を誰の気兼ねもなしに書くことができます。

もちろん、数多くの人に読んでもらうことは望むことはできません。でも、逆に限られた人に向けてだから書きやすいこともあります。そういった「自分の連載」の場も作りたい、というのがメルマガの意味の二つ目です。

さいごに

青臭いことこの上ないですが、2010年の私が目標にしてきたことは二つあったようです。

一つは、そんなに有名でない人が、有名でないままに、自分のやりたいことを追求して、しかもそれで生活の糧を得られる可能性の実験。もう一つが、自分の「連載」の場を作る、という意図。

さすがに実際にやってみると、こうして「考えていたこと」にも修正が加わります。それは現実の壁にぶつかる、といったものではなく__もちろんぶつかりますが__、「なるほど、そういうことがあるのか」という新しい発見です。

そうした発見を経て、有料メルマガが私の活動の中で重要なポジションを得るようになりました。だから3年以上も続いているのです。

では、どんな発見があり、どんな変化があったのか。それについては次回で詳しく書いてみましょう。

▼今週の一冊:

「デュアルライフ」

そういう言葉で思い浮かべるイメージとはちょっと違っているかもしれません。たぶん、「ハイブリッド」という言葉でも同じでしょう。

普段は都会で生活し、週末はもう一つの「家」がある田舎の村に移動する。まったく位相の異なった二つの地域で住むとはどういうことか。そこに伴う困難と喜びが著者によって綴られていきます。

私は、2014年以降のキーワードとして「田舎」(今は里山というのでしょうか)が上がってくると考えていますが、単純な田舎礼賛ではなく、もう少し広い視点を持って都市と田舎の関係性を捉えながらも、それでいて等身大の視点も失っていないというバランスの取れた語り口に好感を覚えました。


▼編集後記:
倉下忠憲



「田舎」以外には、多層化やヨコ型社会が上がってきそうです。もちろん、私の予想でしかありませんが。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。