まっとうな経済学者の「お悩み相談室」 | |
ティム ハーフォード 遠藤 真美
武田ランダムハウスジャパン 2010-10-15 |
本書はウィットに富んでいて、とてもためになるような気がします。少なくとも「親父の教訓」を強引に本にしたようなものとはまったく違います。
見開きで完結の形式をとり、偶数ページの質問から始まり、奇数ページの回答で、Q&Aが1つ終わっています。「フィナンシャル・タイムズの超人気コラム」というだけはあります。
1日24時間ではとても足りない
前略 覆面経済学者様
博士課程最終学年を迎え、崖っぷちに立たされています。いまの学期だけでも七つの研究プロジェクトと課題を仕上げて、博士論文を書いて、五つの試験を受けなければなりません。
私は空手部の主将で、この活動に大きな時間をとられるうえ、就職活動中なので、今後数ヶ月間、何度も面接試験を受けに行くことになります。1日24時間では時間が足りません。
これが質問です。経済学者は、なんと答えているでしょうか?
というよりも、どんなふうに答えているような気がしますか?
本を買うか買わないかを決めるとき、私はいつも、このことを考えています。役に立つか立たないかということは考えず、まして、読んでおくべきかどうかなどといったことは考えません。
タイトルと表紙を見ると、「この本に書いてありそうなこと」がわかるような気がします。その予想通りであったら、その本は実につまらなさそうに見えます。その予想以下であったら、手に取った自分を呪いたくなるでしょう。
本書を私が買ったのは、回答も質問も、ともに意外性に満ちていたからです。もちろん「売りたい」という要望に(誰の要望かは知りませんが)答えるための質問が並んでいましたが、経済学者らしく上手に煙に巻いています。
より根本的な解決策は、交換の利益を獲得する機会を見つけ出すことです。あなたの場合、空手が比較優位をもつ分野であるようなので、誰か頭がよくて力のない人に博士論文を書いてもらうよう説き伏せることができるでしょう。その見返りとして、その人が思いを寄せている女性の彼氏をやっつければいいのです。
あなたにとっては五分間の空手の実践練習にすぎませんが、博士論文のアシスタント氏にとっては、人生を大きく変える出来事になるでしょう。何日もかけてあなたの博士論文を代筆するだけの価値は十分にあります。資本主義はきれいごとばかりではないのです。
交換の利益を獲得する機会を探している覆面経済学者より
オンライン・デートの成功要因は?
特に第1章には、この種の質問が集中しているので、どうしてもやらせではないかと疑ってしまいます。
「モテ本」に類する本を読むなら、その前にこの本を読むべきです。ちゃんとためになるアドバイスをしてくれますし、経済学的な根拠に基づいてもいます。でっち上げではなく、少なくとも経済学者による「研究」をデータとしてあげています。
この小見出しの他にも、
・酒を飲まないと恋人に魅力を感じなくなった
・第1印象に自信がないのでデートが怖い
・遠距離恋愛はうまくいく?
・「運命の人」を見つけたい
など、90%以上の人が、さして関心がないふりをしなければならないにもかかわらず、一時期はそれで頭をいっぱいにしている項目ばかりが並んでいます。
このような質問を正面から受け止め、しかもウィットに富んでいて、かつ経済学者らしく答えているわけですから、アドバイスそのものは、ジョークに近いものでしかありません。だからこそ、本当は役に立つのです。高級なジョークに笑っていられる心理状態になれば、自ずと解決してしまう問題は、少なくないのです。
ライフハック心理学 ―心の力で快適に仕事を効率化する方法 | |
佐々木 正悟
東洋経済新報社 2010-10-29 |
ついに書影が入りました。
最近はふじたきりんさんにお世話になりっぱなしです。