カスタマーサポートは「コスト」か?
現代では、過去のいずれと比べても、人々の間でたくさんの情報がやりとりされています。その分、企業の透明性が高まって、よいこともわるいことも、素早く広範囲に口コミが広がっていきます。
多くの会社で、その効果が数値で計れないカスタマーサポートは「コスト」と見なされているようです。
企業の透明性が高まり続けているにもかかわらず、カスタマーサポートに必要な人員や訓練を用意せず、問い合わせ先を故意にわかりにくくすることで問い合わせ量を減らそうとする対応は、多くの会社でとられています。
ただ、これがもし逆の立場だったらどうでしょう? もしあなたが、”商品は買ったけれど、故障してしまって問い合わせ先をさがしている客”だったら・・・?
問い合わせ先を見つけるのに30分かかり、しかも電話をしても対応がなおざり。これでは、きっともうその会社で商品を買わないばかりか、憂さ晴らしに、Twitterでつぶやくかもしれません。
○○の電話対応がよくなかった。もうリピートしません!
個人のつぶやきひとつひとつは小さくとも、それが頻繁に聞かれるようになると、「ああ、AさんもBさんも、あの会社はダメだって言ってる。やめておこう」と、自然にその会社を避けるようになります。
そういう場の空気、世論が出来てしまうのは、企業にとって、本来はもっと恐れるべき事態のはずなのです。
さらに、そのパワーを反対に活用して、良い口コミを広げてゆけば、「信頼できる企業だ」という世論を作り出すことができます。お客様の琴線に触れるカスタマーサポートは「コスト」ではなく、有用な「投資」であることに気づいている企業は決して多くありません。
効率の対極をゆく、靴のネット通信販売「ザッポス」
しかし、カスタマーサポートが「投資」であることに気づき、取り組んできた多くの企業は、最終的に素晴らしいリピーターを得て大企業になっています。上位5%の人々を満足させるホスピタリティの提供を心がける「ザ・リッツカールトンホテル」、奇抜なアイデアで乗客に楽しいサプライズを送る「サウスウェスト航空」。
そして今回焦点をあてるのが靴のネット通信販売で成功を収めた「ザッポス」というアメリカ企業です。
その経営は、およそ「効率」から大きくかけ離れたもの。
ザッポスでは、お客様をびっくりさせるための、様々なサービスを用意しています。
- 注文があってから商品を発注するところを、すべて自社在庫として持っている
- お得意様には、アメリカ中ほとんどどこへでも 24時間以内の配送(速達手数料不要)
- カスタマーサポートでは、お客様を感動させるためならほとんど何をやってもいい、というほどの強い権限を持っている
とくに3.は強力で、必要ならその場でクーポンを発行したり、不幸があったお客様へ花を贈るなど、お客様のためになる、と思うすべてのことを実現する権利(と業務上の責務)があるそうです。
また「ザッポスに関係のないことでも、お客様のためになるなら回答すること」がカスタマーサポートのルールになっていて、「ザッポスに、『ピザが食べたい』と電話したら、自宅周辺のピザ屋さんを紹介してくれた」という逸話まであるとのこと。
でも、こんなに膨大なコストをカスタマーサポートやバックグラウンドにかけて、会社は大丈夫なのでしょうか?
これと同じことを考えた方がいらっしゃいました。『ザッポスの奇跡』という本を著した、石塚しのぶさんという方です。石塚さんがザッポス本社を訪れた際、CFOのアルフレッド・リンさんに聞いてみたそうです。
そのとき彼は、「もちろん費用はかかる。しかし、顧客サービスをないがしろにする余裕は、僕らにはない」と答えたそうです。
実際、この手厚い顧客サービスのおかげで、ザッポスのリピート率は75%。創業十年足らずで、年商10億ドルを突破しているのです。
このザッポスの事例から、ネット通販が高いリピート率を得るためには、
「一見非効率に見えることをやる」
というのが、一番効率的だという結論に達せそうです。急がば回れ、ということですね。
その経営方針の斬新さでサウスウェスト航空に負けず、システムでの完璧な顧客サービスを目指すアマゾンとは対極のやり方で顧客を囲い込むザッポス。こんな破天荒な会社を作るにはどうしたら良いんだろう?
その詳細は『サッポスの奇跡』に譲りたいと思います。
現状のカスタマーサポートに不満があって、よりよくしたいと考える方は、ぜひ一度読んでみてくださいね。
▼新井ユウコ:
iPhoneのある生活をライブ中継。メルマガ「1分で読めるビジネス書ベストセラー」主宰。