13日間で「名文」を書けるようになる方法
朝日新聞出版 2009-09-04 |
本書はいわゆる「考えさせられる本」です。良い本ですが、タイトルにはトリックがあります。「名文」は書けるようになっても名文が書けるようになるとは言えないし、「方法」はほとんど述べられていません。
たとえそうであっても「文章がうまく」なりたいという人は、以前紹介した『文章力の基本』だけではなく、この手の本を読む必要があるでしょう。
「文章力の基本」は、ほとんど最初から最後までテクニックの話です。テクニックが文章を読みやすくしてくれるのは事実ですから、良質なテクニック本は必要です。一方で、どんなテーマを選び、「どういうつもり」で文を書くかということは、テクニカルに扱いきれません。そのためのマニュアル本は存在しないのです。そこを拾い上げたのが、『13日間で「名文」を書けるようになる方法』です。
かなりおおざっぱにたとえてみると、「文章力の基本」で訓練するのが「数学の力」だとすれば、『13日間で「名文」を書けるようになる方法』で培うのは「直感力」です。両方あった方がいいのです。しかし、人はふつうどちらかの能力に長けていて、それはいいのですが、長けている方の能力を養護したがる傾向があります。
というのも、「修辞法の知識を整理して、テクニカルな文章力を高める」目標と、「13日間で「名文」を書けるようになる」方法の、両方を成立させるのは困難だからです。簡単に言えば、相容れません。『13日間で「名文」を書けるようになる方法』は、読んでいて面白い本です。しかし、文章修練はできないし、文章が上達するという成果も見えてはこないでしょう。400ページ近い本ではありますが、一読したあとになっても、自分の文章がうまくなったというように感じられないかもしれません。
それでも、本書を一読した後には、「文章力」が上がっているでしょう。本書はそういう意味で、良書なのです。二読すれば、さらに文章力がつくでしょう。二読するのも容易です。なぜならばこの本は、読んでいて非常に面白い本だからです。これは考える価値のあることだと思うのですが、私たちは最近「読んでいて面白い本を面白がっていては何も得られない」などと考えかねません。読んでいても面白くも何ともない本を、ドリルでもこなすように「作業」しなければ、文章力などつきはしないのだ、などと考えかねないのです。
筆者はこのポイントについては、本書の所々で注意を促しています。それに類する注意を、最後に引用しておきます。
そう? そうかもしれません。確かに、わたしが、この授業でやっていること、この授業で、あなたたちにお伝えしようとしていることは、他では、あまり見かけないものです。しかし、それは決して、「おかしな」ものではなく、ほんとうは、あまりにもふつうで、まともなものなのに、ふだん見慣れないから、なんとなく「おかしい」と思えてしまうものなのです。
いや、先回りして、結論を出すことは止めましょう。それこそ、あなたたちが、いろんなところで見かけるやり方なのですから。