「わかりやすい」と言われるような文章を書きたいものです。
とはいえ、単に「わかりやすい文章」というだけでは具体的に何をどう改善すればいいのかがイマイチ「わかりにくい」。
そこで、今回は読点(テン)の打ち方に絞って「わかりやすい文章」に一歩、近づくことにします。参考図書は、現代国語や小論文が苦手だった学生時代の僕に文章を書くことの楽しさと深遠さを教えてくれた以下の一冊。
朝日新聞社出版局 ( 1982-01 )
ISBN: 9784022608086
おすすめ度:
「血まみれ」になったのはどっち?
、(テン)や。(マル)や「(カギ)のような符号は、わかりやすい文章を書く上でたいへん重要な役割を占めている。とくにこの場合、論理的に正確な文章という意味でのわかりやすさと深い関係をもつ。(p.74)
ということで、テンの役割の重要性を示すために挙げられているのが次の例。
- 渡辺刑事は血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
- 渡辺刑事は、血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
前者は血まみれの刑事が無傷の(と思われる)賊を追いかけるシーンを、後者は無傷の(と思われる)刑事が血まみれの賊を追いかけるシーンを、それぞれイメージさせます。テンの打ち方ひとつで血まみれ役が入れ替わってしまうわけです。
テンの二大原則
先の例も含めて、テンをどのように打つのかを体系的にまとめたのが次の二大原則。
- 第一原則。長い修飾語が二つ以上あるときその境界にテンをうつ(略して「長い修飾語の原則」)。
- 第二原則。語順が逆になったときにテンをうつ(略して「逆順の原則」)。
第一原則:長い修飾語の原則
次の1では「思っただけでもふるえる」のがAなのか発話者なのかが不明瞭ですが、2ではテンを打つことによってそれが発話者であることが明瞭になっています。
- 何も事情を知らない軽薄きわまるAが思っただけでもふるえるほど大嫌いなBを私の小学校から高校を通じて親友のCに紹介した。
- 何も事情を知らない軽薄きわまるAが、思っただけでもふるえるほど大嫌いなBを、私の小学校から高校を通じて親友のCに紹介した。
これについて著者は次のようにまとめています。
つまり数学的に一般化すれば、n個の長い修飾語があるときは(n-1)個のテンが必要になる。
先の例に当てはめれば、次の3つの修飾語があるために、テンの数は2個(3-1)になっているわけです。
- 何も事情を知らない軽薄きわまるAが
- 思っただけでもふるえるほど大嫌いなBを
- 私の小学校から高校を通じて親友のCに
第二原則:逆順の原則
語順が通常の逆になった場合に打ちます。
- あいつか、君のいうペテン師とは。
- 例の男を知っているかね、チョビひげの。
ここまでは簡単ですね。なので先に進みます。「逆順の原則」の逆、すなわち順当な並び方であればテンは要らなくなります。
例えば、以下はテンは不要です。
- 何も事情を知らない軽薄きわまるAが私の大嫌いなBをCに紹介した。
もし「Cに」が冒頭に来ると、語順が逆転するために「逆順の原則」が適用されてテンが必要になります。
- Cに、何も事情を知らない軽薄きわまるAが私の大嫌いなBを紹介した。
以上、たった2つの原則を覚えておくだけで、もうテンで迷うことはなくなるでしょう。
『日本語の作文技術』と『実戦・日本語の作文技術』の違い
今回ご紹介した『日本語の作文技術』と『実戦・日本語の作文技術』ですが、どっちを読んだらいいのか迷う方がいらっしゃるかと思いますので、この2冊の違いについてまとめておきます。
まず、著者自身の解説から(『実戦・日本語の作文技術』の「はじめに」より)。
すなわち、前著『日本語の作文技術』は、おおまかにいうと「技術編」と「文章読本編」に分けることができます。第七章(段落)までが前著、第八章(無神経な文章)からあとが後者ということになりましょう。いっぽう本書では、「前編」は前著の応用編あるいは実践編・実戦編であり、「後編」には文章読本的なものもあります。
したがって、内容にそくして分ければ、前著の「技術編」と本書の「前編」とをあわせるのが適当です。したがって、前著の残りの部分と本書の「後編」は別の一冊とするのは適当ではないか。いずれ改訂・新版とする機会に、そのように解体して再編したいと思っていたのです。
しかし時がたつにつれて、これはまずいと考えざるをえませんでした。というのは、前著の増刷スピードが全く下降せず、すでに数十万部に達しているため、ここで解体再編して「新版」とすれば、前著を買った読者に二重売りを強いる結果になります。何としてもこれは避けたいと思った結果が、続編としての本書『実戦・日本語の作文技術』となりました。
2冊それぞれの目次は以下の通り。
『日本語の作文技術』
第1章 なぜ作文の「技術」か
第2章 修飾する側とされる側
第3章 修飾の順序
第4章 句読点のうちかた
1.マル(句点)そのほかの記号
2.テン(読点)の統辞論
3.「テンの二大原則」を検証する
第5章 漢字とカナの心理
第6章 助詞の使い方
1.像は鼻が長い──題目を表す係助詞「ハ」
2.蛙は腹にはヘソがない──対照(限定)の係助詞「ハ」
3.来週までに掃除せよ──マデとマデニ
4.少し脱線するが……──接続助詞の「ガ」
5.サルとイヌとネコとがけんかした──並列の助詞
第7章 段落第8章 無神経な文章
1.紋切型
2.繰り返し
3.自分が笑ってはいけない
4.体言止めの下品さ
5.ルポルタージュの過去形
6.サボリ敬語
第9章 リズムと文体
1.文章のリズム
2.文豪たちの場合
第10章 作文「技術」の次に
1.書き出しをどうするか
2.具体的なことを
3.原稿の長さと密度
4.取材の態度と確認<付録> メモから原稿まで
第1章~第7章までが「技術編」、第8章~<付録>までが「文章読本編」。
『実戦・日本語の作文技術』
<前編> 実戦・日本語の作文技術
1.読点の統辞論──日本語のテンについての構文上の考察
2.「わかりやすい」ということ
3.かかる言葉と受ける言葉──「直結」の原則
4.「修飾の順序」実戦編
5.「テンの二大原則」実戦編
6.裁判の判決文を分析する
7.欠陥文をどう直すか
8.たかが立て札の文句だが……<後編> 日本語をめぐる「国語」的情況
1.日本語と方言の復権のために
2.『日本語類語大辞典』の編纂を
3.日本には日本語の辞書が存在しない
4.真の「日本語大辞典」への一里塚たる藤原与一博士の『瀬戸内海方言辞典』
5.作文を嫌わせる方法
6.複眼と「複眼的」
7.何をもって「国語の乱れ」とするのか
8.家畜人用語辞典のこころみ<付録> わかりやすい説明文のために──西郷竹彦氏との対話
<前編>が「技術編」、<後編>と<付録>が「文章読本編」。
両編を僕なりにまとめると、次のようになります。
- 「技術編」は、言葉という武器の使い方(戦闘方法)
- 「文章読本編」は、原稿用紙という戦場における戦い方(戦術)
この2つは、研修における「Off-JT」と「OJT」の関係に近いでしょう。
ちなみに、この上にさらに「ポジショニング編」とでも言うべき、どんなテーマを書くのかという戦場の選び方(戦略)があるのでしょう。
そんなわけで、インターネット時代になってますます重要性を増している、文章で自らの思考を伝える技術と戦術を磨くなら、まずはこの2冊を手元に置いておくことをおすすめします。
▼合わせて読みたい:
『日本語の作文技術』に<付録>として収録されている「メモから原稿まで」という稿は、ジャーナリストならではの仕事を垣間見させるという意味でじつに興味深く、知的生産を志す者として参考になる内容なのですが、いかんせんボリュームに欠けます。
そんな不足感を満たしてくれるのが、ノンフィクションライターによる以下の一冊。先ほど指摘した「ポジショニング編」(どんなテーマを書くのか)をお腹いっぱい学べます。
「わかりやすさ」を追求するなら、定番の以下の2冊もおすすめです。エンジニアによるロジカルなアプローチで「伝える技術」が学べます。
講談社 ( 1999-03 )
ISBN: 9784062572453
おすすめ度:
講談社 ( 2002-10-23 )
ISBN: 9784062573870
おすすめ度:
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