ひとつは、ビジネス・企業には、誰も知っている表面的な姿と、知識がなければ見通すことのできない真の姿がある、ということだ。どのような意味なのかというと、表面的な姿とは、一般的に人が目にするビジネスの姿であり、真の姿とは企業の収益構造、つまり、そのビジネスがどのように動いていて、どこから利益を生み出しているのか、ということを理解した上で見ることのできる、真実の姿のことである。
そして、もうひとつが、ビジネスの真の姿を見通すことができれば、他のビジネスに隠された情報を手に入れ、自社に応用して、少ない仕事量で効率的に大きな利益を生み出せるということだ。
以上は、投資家として1000社以上の日本やアメリカの企業について分析し、現在は経営コンサルタントとして活動している著者が、その経験から引き出した2つの真理であり、今回ご紹介する『コーヒーとサンドイッチの法則』の根幹を成す考え方でもあります。
本書の説くとおり、ビジネスの「真実の姿」を知ることは、認識を改め、行動を変え、あなたのビジネスをいち早く利益体質に脱皮させるうえで不可欠であり、僕自身も自分の仕事をふり返ることで、いくつもの改善点が見つかりました。
今回は、そんなふり返りを行うための7つの問いを本書よりご紹介します。
- 儲かる顧客を相手にしているか?
- 儲からない顧客を儲かる顧客に変えているか?
- 既存顧客に満足を与えているか?
- 製品ラインは適切に構築されているか?
- 「範囲の経済」を最大限に活かしているか?
- 支払う前に売上を回収できる仕組みになっているか?
- 戦略的提携関係を持っているか?
1.儲かる顧客を相手にしているか?
たとえば、世界的な大企業であるマクドナルドには、1年間を通して膨大な数の顧客が訪れる。そのうち、約72%の顧客は「ヘビーユーザー」と呼ばれ、少なくとも1週間に1度はマクドナルドを訪れる。また、約22%の顧客は「スーパーヘビーユーザー」と呼ばれ、月に10回以上はマクドナルドで食事をする(18~34歳の男性が典型的)。
そして、重要なことに「スーパーヘビーユーザー」はマクドナルドの売上げの約75%を生み出している。つまり、マクドナルドは、約22%の満足している顧客から売上の約75%をあげていることになるのだ。
これはよく言われるところの「20:80の法則」(パレートの法則)。まぁ、法則のことは知識として知っていても、こうして実例が出されると「そうか~」と思ってしまいますね。
そこで、こういう顧客を増やす努力が利益体質に変える近道ということになります。
2.儲からない顧客を儲かる顧客に変えているか?
「損する」顧客を「儲かる」顧客へ転換させる方法として、ロバート・キャプランとスティーブン・アンダーソンは、次の3つの選択肢を提案している。
以下です。
- プロセスを改善する
- 利益が出るように顧客との関係性を変える
- 価格を変更する
それぞれ事例や寓話を駆使してわかりやすく解説されていますが、ここでは割愛します。
3.既存顧客に満足を与えているか?
ビジネスでも、新しい顧客を得ることは、最も難しい仕事のひとつである。お互いまったく知らない状態から、自社の商品について知ってもらい、購入してもらうのだから、大変な仕事である。新規顧客獲得の営業が、ひどく嫌われていることからも、その大変さがうかがえよう。
反対に、すでに取引したことがある顧客から注文を得ることは、そこまで難しい仕事ではない。そのため、既存顧客から、継続的にリピート注文があれば、顧客を獲得する仕事をせずに受注できる分、楽にお金が手に入るというわけだ。
要するに、すでに人間関係の成立している相手を逃さないようにしましょう、ということです。街中で女性をナンパしてお持ち帰りするのは非常に難しいものですが、何度か遊んだことがある女の子ならば電話一本で会える(こともある)のに似ていますね。
ということで、顧客を満足させるための「顧客維持率を高める4つの方法」が紹介されています。
- 顧客満足
- ロイヤルティ・プログラム/特別なサービス、プロモーション
- スイッチングコスト
- 失った顧客を取り戻す
これまたジューシーでわかりやすい解説が続きます。特に4つの目の「失った顧客を取り戻す」については、某クレジットカード会社で仕組み化されている手順が紹介されており、「そこまでやるか!」と驚かされました。
4.製品ラインは適切に構築されているか?
要約すれば、こういうことだ。
選択肢が3つあれば、真ん中が一番安全そうに見える。
高いものを買って、「高すぎるのを買って、失敗した!」と思うリスクも、安いものを買って、「安すぎるのを買って、失敗した!」と思うリスクも避けられるということだ。
うなぎやのメニュー(松竹梅の3ライン)を例に説明されていますが、他にも様々な企業による「製品ライン戦略」が紹介されており、参考になります。
・スターバックス(ショート・トール・グランデ・ベンティ)
・ポルシェ・カイエン
・BMW7シリーズ
・インテル
・クライスラー
・スウォッチ
たとえば、スウォッチは、ブレゲ・ブランパン・オメガ(最上位価格帯)、ロンジン・ラドー(高価格帯)、ティソ・ハミルトン(中間価格帯)、スウォッチ(低価格帯)という4つのレンジに分けられているそうです。
製品ラインを分けることで、それぞれのラインにフィットした顧客に訴求できるというわけです。
では、どうすれば自分のビジネスにとって効果的な製品ラインを構築できるか? そのための4つのステップが紹介されています。
- 顧客のニーズを分析する
- 産業全体の製品ライン戦略を分析する
- 経営戦略とのフィットを考える
- 収益シミュレーションをする
これらについて、ネズミ捕り、刀鍛冶、ロールケーキといった巧みな喩えを駆使して、ガイドしてくれています。
5.「範囲の経済」を最大限に活かしているか?
本書の範囲の経済を、よりわかりやすくいうと、企業が有する資源で、遊休資産のように、まだ効果的に活用できる未活用資源を徹底的に活用することで、企業の売上、利益を増加させようということである。
言い換えれば、遊んでいるリソースはないか、ということです。「範囲の経済」には次の2つカテゴリーがあります。
- 内向きの資源
- 外向きの資源
内向きの資源とは、一言でいえば用途開発。たとえば、マクドナルドは「朝マック」によって、従来のハンバーガーの需要(ランチやディナー)に加えて、朝食という新たな「用途」に応えられるようになっています。
孫引きになりますが、日本マクドナルドの創業者である故・藤田田氏の以下の言葉が紹介されています。
「従来、ハンバーガーを食べにきたお客さんは、一日に一回、店にくると、二回は来てくれなかった。朝、ハンバーガーを食べた人は、昼はハンバーガーを食べにきてはくれない。ところが、朝食にホットケーキを食べた人は、昼食に、またハンバーガーを食べに来てくれる可能性がある。そう考えて朝食メニューを売り出した。(中略)結果は従来の午前11時までのセールスの50パーセントアップである」
次に外向きの資源とは、機会活用でしょう。やはりマクドナルドの例ですが、同社の儲けの大半はハンバーガーではなくドリンクやポテトから生み出されている、というものです。顧客がハンバーガーを買いに来た機会をとらえて、利益率の高いドリンクやポテトを一緒に販売するわけです。
そういう意味では「ご一緒にポテトはいかがですか?」というトークは大変ストレートなメッセージですね。
プリンタ本体とインクリボンとか、iPodと楽曲のダウンロードなども、外向きの資源を活用している事例といえるでしょう。
6.支払う前に売上を回収できる仕組みになっているか?
デルはウェブサイトからPCを受注し、顧客から製品代金が支払われ、「その後」製造プロセスを開始し、サプライヤーに部品代を支払っている。
この一文で十分でしょう。こんなにうまい具合に仕組みが作れるのか、という疑問も浮かびますが、そのための方法が2つ紹介されています。
- バーター
- フロート
バーターはいわゆる物々交換ですね。
フロートというのは、先に引用したデルの事例そのものです。定義としては「一時的に保有している滞留資金」ということになるのですが、デルの場合は、顧客から製品代金が支払われてからサプライヤーに部品代金を支払うまでの間がフロートです。
他にも、テレホンカードやSuica、百貨店の商品券やスポーツクラブの年間一括払いなどもフロートです。
7.戦略的提携関係を持っているか?
誰かが成功すると、それにともなって利益を得る人がいる。
これについては、あえて詳しくは書かないことにします。ヒントとしては、僕自身がブログを書き続ける理由の1つでもありますね。
まとめ
企業から独り立ちして、日夜奮闘している人は少なくないと思いますが、これから独立を見すえて虎視眈々とビジネスプランを練っている人にとっても、本書は必読の一冊です。
それにしても、著者は1981年生まれ。自分の無知を猛省しつつ、本書で学んだことを自分のビジネスに活かしていこうと思いました。
よくまとまっていると思います。
儲けのカラクリがスッキリわかります。
分かりやすいですが普通の本です
期待の若手新人著者。
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「利益」というテーマについてより深く掘り下げたいなら、勝間和代さんの以下の一冊も是非読んでおきたいところです。
エリート志望者たちの入り口的存在。
利益の概略把握とどう行動するかの出発点として読みやすい
利益を生み出すのは容易でない!
果たして万能な方程式なのか