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究極のライフハック仕事術 - 語学力ゼロで8カ国語翻訳

語学力ゼロで8ヵ国語翻訳できるナゾどんなビジネスもこの考え方ならうまくいく (講談社+α新書)
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講談社 2010-02-19
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おすすめ平均 star
starこの本を読んで翻訳に興味がでてきた

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本書は翻訳業者のための本、と言っていいと思いますが、一般的な仕事術に応用できる部分がたくさんあります。本書を一気に読み通せば、自分自身の仕事全体を見直したくなる本です。

タイトルにも前書きにも、若干「扇情気味」の表現が散見されますが、中身をひととおり読めば、その辺りのことはあまり気にならなくなります。重要なのは、労力ほぼゼロで年収千万円、のような部分ではなく、真剣に省力化を目指す姿勢にあります。

とりあえず著者としては書店で立ち読みして欲しい「前書き」で、「初年度の翻訳収入は七ヶ月で約七百万円」と書きます。「翌年は1年でほぼ倍の約1300万」だそうです。「特別に単価の高い仕事をしたわけではありません。」この辺りから続きが気になり出します。

著者がこれだけの成果を残せたのは、徹底的なライフハックを翻訳業務に適用しているからです。


 

翻訳業務のライフハック

細分化

仕事を分解する」というライフハックは耳にタコができるくらい聞いている人もいるでしょう。しかしそうしたからといって、せいぜい「やる気」が少し出るようになるとか、「漏れなく仕事を終えられる」程度のメリットしか得られない、と思っている人も多そうです。

ですが、「語学力ゼロで8カ国語翻訳」をしている著者が繰り返し主張していることは、「仕事の細分化」に尽きるのです。著者の職業に絞っていうなら、「翻訳作業の細分化」です。

 「翻訳」とひとくちに言っても、原稿を受け取ってから納品するまでにこんなにいろいろな作業をしています。こうした作業を書きだしていくと一〇〇や二〇〇はあるのに、十把一絡げにして「翻訳」のスピードを上げるにはどうするかという大きな枠の中で考えても仕方がないとおわかりでしょう。
 つまり、「翻訳のスピード」は「翻訳に伴う作業のスピード」であり、「受注から納品までにかかる時間」と読み替えることができます。受注から納品までの間には、種類の異なるたくさんの作業をしているのですから、その個々の作業 - むしろ「動作」と言うほうがいいかもしれません - を細かく分けたうえで、それぞれの時間を短縮するにはどうすればよいかを考えればいいのです。

いささか長い引用になりましたが、全体として著者が繰り返し、徹底的にやっていることは、ここで述べられているのです。

たとえばこの発想を私個人の、この「シゴタノ!」のエントリを書くという「仕事」に当てはめるなら

・エントリで紹介する本を探す
・面白いと思う本を1冊選びだす
・本を読む
・本のレビューを下書きする
・校正する
・エントリ用の形式に直す
・記事をアップする

と分解することができます。さらにそれぞれの工程を、2~3ずつに分けることができます。そうしたら、あらゆる省力化の可能性を探るのです。あらゆる過程で時短が実現できたら、傍目からは達人のように素速くエントリを書いているように見えるかもしれませんが、紹介すればたいしたことはやっていないのです。

IT化

仕事の効率をアップするために、ITの力を借りるというのも、もはや古くさい言い回しかもしれません。しかし、この点でも著者はかなり徹底しています。けれどもとても基本的な機能を使っているだけです。

本書に紹介されていたのは、主にGoogle検索とマクロによる置換機能。

Google検索のほうは、ワイルドカード検索が紹介されているだけです。著者は翻訳するために利用したい訳語が、実際にどのように使われているかを知るために、ワイルドカード検索を使うのです。

たとえば、私自身が留学中によく使った方法として、いくつかの動詞が頭に浮かんだら、どれを使うかについて辞書を引くより、インターネットを使った方が適切に素速く見つけられることがありました。

私は認知心理学的な文章を書くことが多くあったので、たとえば、「覚醒は私たちのタスク処理能力に(悪)影響を及ぼす」といった文章を書きたいとき、「影響を及ぼす」に相当する部分の表現で引っかかりました。そこで次のように検索をかけます。

“arousal * our ability”

これで、「*」の部分を埋めた文章が一瞬で大量に表示されます。それらをざっと眺めていけば、自分が使いたい表現が必ず出てきたものです。

自動化

本書後半で紹介されている、置換マクロの例が「自動化」の一番の好例でしょう。何と言っても、「知らない単語」を作業ファイルに登録しておけば、その後は「調べたこと自体を忘れているような単語も、確実に入力される」という点が、翻訳業務に携わる人には、大きなメリットとなるにちがいありません。

著者は、電子ツールだけではなく、紙の辞書も極力「二度引き」せずにすむよう、ゼムクリップなどを活用して徹底的に効率化をはかっています。著者は研究家でも、外資系の企業に勤めているわけでもないため、新たに単語を覚える必要はないわけです。

大事なのは頭に入っている単語の数でもなければ暗記した対訳文の数でもなく、必要な情報を必要なときに手に入れる力と、その情報を適切に処理する力ということになります。つまり、一言で言うと問題解決能力ということになります。

本書には他にも様々な、「翻訳の質と速度を上げるための工夫」が登場します。その大半は、実のところ、翻訳以外の仕事術としても応用できるでしょう。著者は「翻訳は、犯罪捜査と同じ」という面白い表現を使います。「発想を広く」して、「できることは何でもする」べきだというのです。これはまったくライフハックな精神だと、私は思います。