※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

「苦もなくやり続けられること」を早く見つけ出す



大橋悦夫『豪商列伝』という本を読みました。江戸から明治期にかけて活躍した28人の「商人」たちのドキュメンタリーです。

28人それぞれに独自の生き様がありますが、共通点も見えます。

それは、

  • 一代で一大ビジネスを築き上げる
  • それまでに類を見ないヒット商品を編み出す
  • 同業他社からの嫌がらせを受けるが巧みに克服する

という3点です。

この3つの条件を、それぞれの置かれた環境や前提条件、自らの持つ専門性や特異性、さらには人間関係や時代背景といった諸要素をタイミングを外すことなく掛け合わせることで実現していく。しかも、ほかの多くの人と同様に、限られた時間と資源を使って。

このようにとらえ直すと、彼らの生き方は現代にも応用できるヒントに満ちていることに気づきます。

» 豪商列伝 なぜ彼らは一代で成り上がれたのか[Kindle版]


今回は、本書の内容はいったん脇に置き、上記の3つの条件のうちの2つ目「それまでに類を見ないヒット商品を編み出す」について、考えてみます。

『ナニワ金融道』との出会い

少し話が飛びます。

新卒で入った会社は大阪にありました。

東京出身の僕がなぜ縁もゆかりもない大阪の会社に入ったのかというと、特に理由はありません。当時、その会社の拠点は大阪本社と東京支社の2つのみで、東京でも採用活動をしており、志望業界でもあったので、僕の就職活動の応募先リストに入りました。

その後、何度かの面接をへて内定をもらい、大学を卒業し、荷物をまとめて大阪へ。

原則として採用地での配属(東京採用なら東京配属)なのですが、新入社員研修は大阪本社で行うということで、採用地に関係なく、全員がまずは大阪に赴任するのがきまりだったのです。

大学卒業まで都内の実家暮らしだった僕は、ここで初めて一人暮らしをスタートします。一人暮らしといっても会社の寮で、社員しか居住していない、会社の借り上げマンション。

平日は毎日朝8時から23時過ぎまで研修が続き、寮に帰ってもギリギリ睡眠時間が確保できる、それ以外は諦める、という生活でした。

休日は会社に行かなくても済むだけで、寮の部屋でひたすら研修の課題に追われる、今ふり返っても異様としか思えない日々です。

そんな中にあって唯一の楽しみといえたのが、寮の近くにあるうどん屋さんでの食事です。

関西風の薄味ももちろん良かったですが、それ以上に良かったのが、『ナニワ金融道』というコミックに出会えたこと。

» ナニワ金融道 1[Kindle版]


いわゆるマチ金(街金;消費者金融)の話で、即日で融資してもらえる代わりに高い金利や苛烈な取り立てを覚悟する必要がある、今で言うところの「闇金」。

ほかに借りられるあてがなくなり、仕方なくマチ金に手を出し、その結果、人生から転落していく人たちが描かれています。

社会人1年目の当時の僕にとっては大変刺激的な内容で、「ゼニ」(『ナニワ金融道』ではお金のことをこう呼びます)の教科書といえるコミックでした。

休日に、うどんをすすりながらゼニのリテラシーを学んでいたわけです。

一時的とはいえ、折しも大阪に住んでいたこともあり、コミックの中で交わされる関西弁の会話が、平日の街で耳にするものと同じで、それがいっそうの臨場感を生み出します。

それまでに類を見ないヒット商品を編み出すための3つの条件

『ナニワ金融道』の特異性はなんといってもスクリーントーンをいっさい使わない独特の画風と、人間心理の巧みな描写です。

肉欲棒太郎(登場人物の一人)が口にする「一人では一人分しか稼げないが、2人なら、3人分も4人分も稼げる」に代表される、妙にリアルな、おそらく実体験がベースになっているであろう言葉一つひとつが当時の自分には強く心に刻み込まれました。

マンガを読みまくっているだけではこうしたマンガを描けるようにはならないでしょう。

おそらく次の3つの条件が必要です。

  • 自分にしか描けないテーマを、
  • 自分独自の世界観で切り出し、
  • 自分ならでは表現方法で形にする。

これらはマンガを描く仕事以外においても外せないでしょう。人と比べられたときに少なくとも一目は置かれたい、と考えているならば。

そんな『ナニワ金融道』を読み続けるうちに、作者の青木雄二さんという人物に興味がわくようになり、コミック以外にも関連著作を読みふけるようになりました。

青木さんが様々な職業を経て、起業し、騙され、裏切られ、借金を抱え、最終的に漫画家にたどり着くまでの軌跡が実に面白く、その過程で身をもって体験したことが『ナニワ金融道』やその他の著作の中で息づいていることがわかります。

「自分にしか描けないテーマ」や「独自の世界観」はここから生まれたのか、と。

「人と違うこと」で「自分にしかできないこと」だけでは足りない

先ほどの3つの条件を裏返すと以下のようになります。

  • 他の人でも描けるテーマを、 ← 自分にしか描けないテーマを、
  • ありふれたアングルで切り出し、 ← 自分独自の世界観で切り出し、
  • オーソドックスな表現方法で形にする ← 自分ならでは表現方法で形にする。

たちまち「無難を極めるための3つの条件」に変わりました。

眺めてみると、しかし、これはこれで実行は簡単ではないように思えます。ちょっとでも気を抜くとすぐに自分の個性が漏れ出てしまい、うっかり「自分にしか描けない独自のもの」になってしまうからです。

そう考えると、「人と違うこと」で「自分にしかできないこと」というのは意外とすぐに実現できてしまうものなのかもしれません。

では、何が「違い」を生み出すのか?

それは、「続けること」です。

「苦もなくやり続けられること」を早く見つけ出す

読みふけった青木雄二さんの関連著作のうちの1冊、『ナニワ金融道 ゼニのカラクリがわかるマルクス経済学』に以下のようなくだりがあります。

ボクは、才能のある人間は、高いゼニを報酬や賃金としてもらっても当然、というたけど、この才能を見つけるのが大変なんや。

どんな才能があるかは、いろいろやってみなければわからない。つまり、それだけやってみる機会がなければ、天才も見つからないのや。

たとえば、障害者施設に入っていた山下清画伯は、その絵が天才的であるということが見いだされなければ、単なる脱走癖、放浪癖のある障害者、だったわけや。

かくいうボクも、水商売を転々としていて、べつに絵の勉強をしていたわけではない。ただ、絵なら描けるという自信だけがあった。

世の中、自信と才能があっても、表に出てこられない人間はごまんとおるで。

ボクは、人よりズバ抜けて絵がうまいとは思っていない。けれども、これだけは、というものがある。いちばん人と違ったのは、

「ラクをしてもいいものはできない」

ということが、体にしみついていた、ということかもしれん。なにしろ、夜中、明け方まで働きながら、くたびれ果てて帰ったアパートで、コツコツとマンガを描くわけや。これはつらいで。

しかも、新人賞に応募するという目的やから、何月何日までに、という締め切りもある。それでも、ボクは手抜きをせずにコツコツ描いた。

» ナニワ金融道 ゼニのカラクリがわかるマルクス経済学 impress QuickBooks[Kindle版]


この中で特に僕の心に響いたのは、以下の部分です。

夜中、明け方まで働いて、くたびれ果てて帰ったアパートで、コツコツとマンガを描くわけや。

僕自身も、大阪時代は研修中はもちろん、配属後も夜中まで仕事に追われ、くたびれ果てて帰宅する毎日を過ごしていました。

青木さんは「コツコツとマンガを描く」でしたが、僕は「コツコツと日記を書く」を続けていました。

サッサと寝て翌日に備えればいいのに、その日にあったことや印象に残ったこと、感情を動かされたことなどをせっせとパソコンで書き付けていました。パソコン日記です。

sleepy-w250

今でも当時の日記を読み返すと、書かれていないことも含めてその日のことがありありと思い出されます。

同時に、日記はその時の自分にしかとらえることができなかったであろう発見に満ちていることに気づかされます。

ここには2つの意味があります。

1つは、記録しておくことで発見を時の風化や記憶の改竄から守ることができる、という点。もう1つは、寝食を忘れて取り組んでいたことが、のちに花を咲かせ実をもたらすことになる、という点。記録とふり返りに取り組んでいたことが今に繋がっているのです。

前者は、タスクシュートの考え方のベースになっていますし、後者は、僕の今の生き方のベースになっています。僕自身が成功者かどうかはわかりませんが、少なくともうどんをすすりながら『ナニワ金融道』を読みふけっていた頃と比べると、時間的な豊かさは格段にアップしています。

「これを続けると効果があります」という保証のない中で、それを「苦もなくやり続けられる」という理由だけでやり続けられるかどうか。

逆に「これを続けると効果があります」という保証がある場合は、その先に待っているのは「無難」な結果でしょう。

儲かる保証のない仕事

「これを続けると効果があります」という保証のない中で、それを「苦もなくやり続けられる」という理由だけで、いや、多少の苦はあったものの、黙々と続けた結果、大きな「効果」が出たというエピソードが、やはり青木雄二さんの別の著作『ゼニと成功法則』にありましたので、最後にご紹介。

たとえば、こんな人がいる。この話は漫画家の世界の話だから差し障りがあるので少々脚色するが、彼女は20代前半である職業についた。約2年足らずのそこでの経験を本に書いた。

本は新人なので大して売れなかったが、ある漫画家がその本を読み、原作として使わせてもらいたいといってきた。

彼女はOKしたが、雑誌に連載中、漫画家からの問い合わせに答えたり、調べものがあれば手伝わなければならない。ある程度の謝礼は出るが、手間に比べるとそんなに割に合うほどの金額ではない。しかし彼女は黙々と手伝ってあげた。漫画の世界を知らないから、半分はボランティアの気持ちだった。

ところが、連載が進み単行本の一巻が出た。それが大変売れたのである。彼女には原作者として数パーセントの印税が入った。今やすでに5~6巻出ているので、驚くことに億単位の収入である。

まだまだ本は出るので、彼女には今後も巨額の印税収入が見込める。漫画家の要請に応じて手抜きをせずに手伝ってあげた結果が、思わぬ富を彼女にもたらしたわけである。

相手がゼニを儲けるように配慮してやれば、こうしてその人がゼニを運んでくれるようになる、ゼニが寄ってくるようになるんや。(p.126)

» ゼニと成功法則



参考文献:

» 豪商列伝 なぜ彼らは一代で成り上がれたのか[Kindle版]


» ナニワ金融道 ゼニのカラクリがわかるマルクス経済学 impress QuickBooks[Kindle版]


» ゼニと成功法則


» ナニワ金融道 1[Kindle版]