先日、Evernoteのデータ消失が日本のニュース記事になっていました。話がやや大げさに伝わった感はありますが、記事として取り上げられていること自体、Evernoteの知名度が上がっているという事なのでしょう。
様々な使い方ができるEvernoteは、もちろん知的生産にも活用することができます。
以前「知的生産の各工程と、テーマの重要性」というエントリーの中で知的生産の工程を4つに分けました。
- マネジメント・フェーズ
- インプット・フェーズ
- クリエーション・フェーズ
- アウトプットフェーズ
今回はこれらの工程におけるEvernoteの使い方について考えてみたいと思います。
1.疑問帳としてのEvernote
マネジメント・フェーズでやるべきなのは「テーマを見つけ出す」事です。これが一番重要であり、また難しい事でもあるでしょう。
知的生産に求められていることは、「新しいことがら」を生み出すことです。そのためには「何が新しいことなのか」を知ることが必要です。言い換えれば「今存在しないもの」「欠落しているもの」を探し出すということです。マトリックス分析などを使って、そういった未開の分野を探すこともできますが、「新しいことがら」のタネは案外日常に転がっていることの方が多いと思います。
生活していて感じる疑問・不便な点・あったらいいもの・不満などが「欠落しているもの」であり、「新しいことがら」のタネになります。
- 「なぜ、あの商品はこんな形をしているのだろうか?」
- 「説明が複雑すぎてわかりにくい」
- 「英語が読めなくても、海外の文献にあたれたらいいのに」
- 「もっと早くアクセスしたい」
こういった事を感じたら、すぐに書いておくことです。メモでも自分宛にメールでも方法はいろいろあります。もちろんEvernoteに保存して置くこともできます。こういった疑問などを集めたものを「疑問帳」と呼んでおきましょう。
ツールはなんであれ、「疑問帳」を持っておくことは有用です。テーマが見つからなかったり、書くべき事はあっても切り口が見つからない場合は、この「疑問帳」を見返せばヒントが眠っている事でしょう。
Twitterで流れている他の人の「疑問」なども自分が共感できるものがあれば保存しておきましょう。自分と他人の「疑問」を簡単に保存できるEvernoteは「疑問帳」として有効に活用することができます。
2.スクラップブックとしてのEvernote
インプット・フェーズでやるべき事は「知識・情報を仕入れる」事です。
これはEvernoteの基本的な使い方なのであまり説明は必要ないでしょう。ウェブページを取り込む作業は非常に簡単に行えます。無料アカウントでも画像やPDFは同期できますので、資料を貯えるのは非常に簡単です。
また、スキャナなどを使えばアナログの資料も保存しておくことができます。デジタルとアナログの一元管理ができる点がEvernoteの魅力の一つでもあります。また、ノートブック・タグ・検索があるので、データを細かく分類し、仕分ける必要もありません。
実際の資料の集め方やそれを整理する方法については長くなるので今回は割愛します。
3.アイデアノートとしてのEvernote
知的生産の要と呼べるのが「クリエーション・フェーズ」です。ここは、自分の頭を最大限働かせるフェーズになります。このフェーズの鍵を握っているのが「アイデア」です。「発想」と呼んでもよいでしょう。
「アイデア」は机に紙を広げて、ある種の手法に基づいて生み出す事もできます。あるいは人を集めてブレストなどを行うことで導き出すこともできます。これらは「よし、これからアイデアを出すぞ!」という心構えで行うので、出たアイデアを取り逃すことはありません。
しかし、アイデアは時としてかなり突飛なタイミングで出てくる事があります。
散歩しているとき、電車に揺られているとき、関係ない本を読んでいるとき・・・。こういうシチュエーションで出てくるアイデアの中には「突然変異」的なものを見つけることがあります。それは、集中して視野が狭くなっている頭では出てこないような異質な組み合わせによるアイデアです。
こういった突然変異アイデアも「疑問帳」と同じようにすぐに保存し蓄積しておく必要があります。Evernoteであればメール投稿機能やスマートフォンを使ってどこでもアイデアを保存することができます。「アイデア出し」作業やブレストで出てきたアイデアも合わせて保存しておくことが可能です。
4.見本帳としてのEvernote
知的生産最後の工程が「アウトプットフェーズ」です。まとまった文章に書き出したり、図化してまとめたり、という作業になります。Evernoteにもエディタ機能やお絵かき機能(Windowsクライアント版)がありますが、そういう機能を使えば便利、ということではありません。
文章を書く力は、場数をこなすことで鍛えることができると思います。しかしそれよりも前に「良い文章を読む」事を積み重ねておく事が必要です。絵を描く人も好きな画家の絵を鑑賞したり、それを真似てみたりすることで技術を身につけていくはずです。文章の場合でもこれは同様でしょう。
自分が気に入った文章や優れている文章などをEvernoteに蓄積しておいて、空いた時間に読み返す。こういう作業が文章力の向上に役立つはずです。また、自分の書いた文章を保存しておいて、過去書いた文章と今の文書を読み比べることで何か得られる物があるかもしれません。
これは「文章」だけに限りません。プレゼンのスライドでもウェブサイトでも、お手本にしたい物はどんどん取り込んでいって、Evernoteを「見本帳」にすることができます。
まとめ
今回は知的生産におけるEvernoteの使い方について考えてみました。各工程での役割として次の4つの使い方があると思います。
- 疑問帳
- スクラップブック
- アイデアノート
- 見本帳
これら一つ一つに関しては別のツールを使うこともできます。あるいはそういったツールの方が使いやすい場面もあるかもしれません。しかし、これら全てを一元管理できるという点がEvernoteの魅力です。
複数の入り口から一つのポケットに入れることができますし、クラウドなので閲覧するデバイスを選びません。まさにユビキタスな知的生産ツールです。
佐々木俊尚さん風に言えば「Evernoteがあれば情報カードボックスはいらない」となるかもしれません。
▼関連エントリー:
・知的生産の各工程と、テーマの重要性
・知的生産の定義とそこから見えてくる「心がけ」
▼今週の一冊:
今週は新しい本を読むのをペースダウンしてドラッカー関連の本を再読しています。ドラッカーのエッセンスがまとまっていて、しかもワークシートが付いている次の本はまさに「実践的」と言えるでしょう。
改めて読み返してみても、ドラッカー教授の「質の高い質問」には驚かされるばかりです。
先週に引き続き告知ですが、著書の『Evernote「超」仕事術』が一部書店で先行発売になっております。
先行発売されている書店については「このエントリー」の下の方をご覧下さい。一般発売日は8月18日となっております。よろしくお願いいたします。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。