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知的生産の各工程と、テーマの重要性

By: Dave FayramCC BY 2.0


倉下忠憲さて、二回目です。今回は知的生産における「行程」について考えたいと思います。

知的生産において、どのような行程があるのかということに加えて、その行程において参考になる文献をいくつか紹介していきます。知的生産のマッピングと入門参考文献のブックガイドとして読んでもらえば幸いです。そして、これからの知的生産において重要な「テーマの設定」について、すこし詳しくみていきます。

一般的な生産過程と比較

一般的な生産(物的生産)の過程には簡略化すれば以下のような行程の流れがあります。

  1. (設計図を書く)
  2. 原材料を仕入れる
  3. 原材料を加工する
  4. でき上がった製品を出荷する

 
これを知的生産に置き換えてみると

  1. (テーマを見つけ出す)
  2. 知識・情報を仕入れる
  3. 新しい「考え」を生み出す
  4. 「考え」をまとまった文章に書き出す

となるでしょう。実際は一連の作業はもうすこし細分化することができます。『知的生産のノウハウ』(牧野昇)という本の中では6つの行程に分けられています。
※企画→計画→実施→(作業)→解析→成果

 
生産現場の状態によって細かく分けて管理した方がよい場面もあるかもしれません。個人で行うそれほど大規模ではない知的生産、という限定においては先に述べた4つの区分で十分機能するのではないかと思います。

では、各工程をすこし解説します。2~4は簡単に、1は詳しく見ていきます。

 

2. 知識・情報を仕入れる

本を読んだり、ネット上の情報を集めたりする行程。これをインプット・フェーズと呼ぶことにします。

方法としては、本を読む、誰かに話を聞く、ネットで探す、という手段があるでしょう。

インプット・フェーズに関しては、前回紹介した『知的生産の技術』が参考になります。また『「知」のソフトウェア』にも有益な情報が盛り込まれています。

情報の仕入れ方とともに重要なのが、その整理法。現代風の整理という点に焦点を絞った本では『「超」超整理法』や『整理HACKS!』が参考になります。

知的生産の技術
梅棹 忠夫
岩波書店 ( 1969-07 )
ISBN: 9784004150930
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「知」のソフトウェア (講談社現代新書)
立花 隆
講談社 ( 1984-01 )
ISBN: 9784061457225
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超「超」整理法 知的能力を飛躍的に拡大させるセオリー
野口 悠紀雄
講談社 ( 2008-09-18 )
ISBN: 9784062149488
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小山 龍介
東洋経済新報社 ( 2009-06 )
ISBN: 9784492043370
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3. 新しい「考え」を生み出す

集めた情報や知識から自分なりの視点や考えを生み出す行程。一般的に「考える」「アイデアを生み出す」と呼ばれる行為です。これを、クリエーション・フェイズと呼ぶことにします。参考になる本としては『思考の整理学』『知的生活の方法』があります。

思考の整理学 (ちくま文庫)
外山 滋比古
筑摩書房 ( 1986-04-24 )
ISBN: 9784480020475
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知的生活の方法 (講談社現代新書 436)
渡部 昇一
講談社 ( 1976-01 )
ISBN: 9784061158368
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4. まとまった文章に書き出す

成果を形にする行程です。想像できると思いますがこれをアウトプット・フェーズと呼びます。

成果は必ずしも文章の形ではないかもしれません。パワーポイントやKeynoteのようなプレゼンソフトかもしれませんし、仕様設計書や企画書かもしれません、あるいは論文ということもあるでしょう。

文章を書く、という点では『理科系の作文技術』・『考える技術、書く技術』が参考になります。

理科系の作文技術
木下 是雄
中央公論新社 ( 1981-01 )
ISBN: 9784121006240
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考える技術・書く技術 問題解決力を伸ばすピラミッド原則
バーバラ ミント, グロービスマネジメントインスティテュート
ダイヤモンド社 ( 1999-03 )
ISBN: 9784478490273
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1. テーマを見つけ出す

さて、順序が前後しますが、第一工程の「テーマを見つけ出す」についてです。なぜ後回しにしたのか、というとこれがなかなか厄介な存在だからです。

知的生産のための知的生産

物的生産の行程での「設計書を書く」は、よく考えてみると「知的生産」といえます。物の生産の中にも「知的生産」の活動は含まれているわけです。

これを知的生産に置き換えると、「知的生産のための知的生産」というものが「テーマを見つけ出す」にあたります。

4つの行程は同じ知的生産に属していながら、最初の一つはすこし異質な存在です。それぞれの行程を一つ上の視点から見下ろしているような存在で、単純に同じ技術論で語ることはすこし難しい面を持っています。これは意識しておく必要があるでしょう。
とりあえずこれをマネジメント・フェーズと名付けておきます。

テーマを設定することの重要性

初めからテーマが与えられている状況下での知的生産はつまり1の行程がすっ飛ばされた知的生産です。

「来週の会議で発表するための企画を考える」や「新しい機能を持った消しゴムを考える」といった行為がそれにあたります。もちろん実際にそれを考えるのは難しいかも知れませんが、1の行程は省略できます。

しかし、全ての知的生産がそういった具体的なテーマを与えられているわけではありません。

例えば論文を書く必要がある場合まず真っ先にすべきことは「テーマ」を決めることです。そしてテーマを決める前にテーマ候補をいくつか見つけることが必要です。

あるいは自分が経営者の場合、現状を踏まえた上で今後の企業目標を考える必要があります。目標が設定された上で、それをいかに実現するのかという戦略を考え始めることができます。

マーケティングや分析によってテーマを設定できる場合もありますが、そもそも何を分析するのか、どの市場のマーケティングを行うのか、ということは誰かが決めなければいけません。

具体的な成果ではなく、何が必要か、何を作り出そうとしていのか、ということを考え、決める事もまた必要なわけです。これはもはや知的生産ではなく「意思決定」や「マネジメント」に属する項目であるといえるでしょう。

しかしながら、前回にも述べましたが、これからのビジネスパーソンに必要なのはまさにこの要素なのです。何を生み出すか、何を必要としているのかを自らで設定できるスキルを身につけて、初めて独自の成果を出すことができます。逆に言うと自らテーマを設定できない人は一生会社の枠組みから抜け出すことはできません。

知的生産に関する技術とともに、自らの方向性をマネジメントできるスキルもこれからのビジネスパーソンは習得していくべきだと私は思います。

「マネジメント」に関してはドラッカーの著書が参考になると思います。まだドラッカーの著作を読んだことがない、という方はとりあえず『ドラッカー入門』から始めてみるのがよいでしょう。

ドラッカー入門―万人のための帝王学を求めて
上田 惇生
ダイヤモンド社 ( 2006-09-23 )
ISBN: 9784478307038
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まとめ

個々の知的生産における技術も確かに重要なのですが、何を作るのか、というそもそもの方向性を考えることもまた重要になってきています。WhatToDo:HowToDoの思考が両方あって初めて価値ある成果をだせるようになるのではないかと思います。

次回は、知的生産の定義についてすこし触れる予定です。それ以降書くことは今回示した4つのフェーズのどれかに該当する事になります。一応まとめということで4つのフェーズを示しておきます。

  1. マネジメント・フェーズ
  2. インプット・フェーズ
  3. クリエーション・フェーズ
  4. アウトプットフェーズ

では、また来週。

 
» 追記:2009/12/13(日) 19:14
思考の整理学 (ちくま文庫)今回は参考文献をたくさんご紹介しましたが、どれか一冊を選べと言われれば『思考の整理学』をイチオシしておきます。この本の中には、どう考えるかのヒントがたっぷり詰まっています。特にメタノートという思考を寝かせるアイデアは私も実践していますが、深い思考を生み出すことができると思います。

合わせて読みたい:

本文で紹介した『思考の整理学』はものすごく売れている本ですが、著者の外山滋比古氏が新しく本を出されています。

話し言葉を書き下ろしたためなのか、文体はかなりゆったりしたズムです。しかし鋭い知的さとほんの少しのトゲがチクチクと刺さってきます。「知識が豊富な人は思考力が乏しい」なんて言葉は本当に内省させられます。

どのようにして考えるのか、についてのヒントがつめられた本です。「自分の頭で考える」とはまさに現代社会に求められている行為ではないでしょうか。

自分の頭で考える
外山 滋比古
中央公論新社 ( 2009-11-26 )
ISBN: 9784120040306
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▼編集後記:
倉下忠憲
今回が二回目の更新です。先週の更新後、Twitterにて沢山の方から応援のリプライをいただきました。大変ありがたいことです。妻は「なんだか難しそうだから」ということで読んでくれませんでした。他者に多謝です。

 
 
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。