具体的には「+error」というタグを付けて失敗の記録を残し、週に一度ふり返るようにする、という方法です。
» 時間の使い方に明確な判断基準やルールを定め、これを厳守するためにEvernoteを活用する
この「+error」タグを付けるときに注意していることが1つあります。
それは、その失敗が自分の知識不足・注意不足・対策不足によるものである場合に限る、ということです。
言い換えれば、自分にはどうにもできない不慮のトラブルについては、このタグは付けないようにしています。
不慮のトラブルには「.Troublog」タグを付ける
もちろん、不慮のトラブルというものもけっこうな頻度で起こるので、「+error」とは違った形で対策を講じる必要があります。
そのために、「.Troublog」という別のタグを付けて、区別するようにしています。ちなみに「Trouble」(トラブル)+「Log」(記録)=「Troublog」(トラブル記録)、という造語です。
最近ですと、以下のような「Troublog」がありました。
データベース接続確立エラー
突然、ブログの管理画面に入れなくなりました。
デスクの引き出しが天板から外れる
ある朝、デスクの引き出しを開けようとしたらガコッと外れました。いつの間にかネジが緩んでおり、4つのうち1つが完全に抜け落ちたのが原因でした。
奥歯のクラウン(被せもの)が外れる
食事中、不意に奥歯のクラウン(被せもの)が外れました。
記録をふり返ると、4ヶ月前にも同じクラウンが外れており、その前は3ヶ月前でした。3~4ヶ月ごとに外れるようなので、そろそろ抜本的な対策が必要です。
Excelで「メモリ不足」エラー
不意に以下のエラーメッセージが表示されました。その後は操作に特に支障はなさそうでしたが、念のためExcelを再起動しました。
Evernoteの同期ができない
たすくまからメモをEvernoteに送信しようとしたら「ノートブックが見つからない」というエラーが発生。一時的なサーバ障害でした。
ワイヤレスヘッドセットのペアリング失敗
ワイヤレスヘッドセットのペアリングが失敗し、接続できなくなりました。本体のオン・オフを繰り返していたら直りました。
田園都市線の車内で10分以上閉じ込められる
田園都市線に乗っていたら、途中停車し、そのまま10分以上動かなくなりました。
ハサミの持ち手の部分が破損
ハサミで卵の紙パックを切っていたら、突然持ち手の部分が破損しました。
いずれも、「まぁ、こういうことは時々起こるよね」というものばかりです。それをわざわざ記録に残しているのは、再び同じようなトラブルに見舞われた際に備えての申し送りをするためです。この申し送りが適切に行えていれば、未来の自分は早期に解決をみることができるようになります。
- 前回はいつ(何日前)に起きたのか?
- 前回はどの時間帯に起きたのか?
- 前回は何をした後に起きたのか?
- 前回はどのように対処したのか?
- 前回はどのような被害を受けたのか?
- 前回はどのような予防策を立てたのか?
再発可能性のきわめて低い、一生に一度あるかどうかというトラブルであったとしても、記録が残っていれば「こういうことが現実に起こりうるのだ」という事実を後世に残すことができます。
「+error」と「Troublog」の違い
最後に、「+error」と「Troublog」の違いをまとめておきます。
- 「+error」は自分の対策不足が招いた再発防止可能なトラブル
→ その後の対策を忘れずに講じるため - 「Troublog」は自分ではどうにもできない不慮のトラブル
→ 起こりうることを銘記するとともに、後世に残すため
そういえば、最近読んだ『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』という本に以下のような記述がありました。
値下げに限った話ではないが、あらゆる経営判断はある意味「実験」だ。だから、実験を行う前提条件、実験方法、結果に至った原因の特定が求められる。それこそが経営ノウハウの蓄積になる。(p.81)
トラブルは実験とは異なりますが、記録を続けることで起こりうるトラブルの大半は“捕獲”でき、分析を行うことで、再発防止策が立てられたり、それができない場合でも、事後速やかに対応するための体制整備は進められます。
「+error」は、自らの対策をもって未然に防ぐことができるトラブルに対するラベリングであり、「Troublog」は、起こることを予測・予防できない代わりに事後に被害を最小限に抑えつつ速やかに復旧できるトラブルに対するラベリング、というわけです。
「うまくもない料理を出す店が、何であんなにはやるんだ」
引用した『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』は、ファミリーレストランチェーン「サイゼリヤ」の創業者・正垣泰彦氏による経営論です。
飲食ビジネスに取り組んでいる(志している)人にはもちろん、それ以外のビジネスに取り組んでいる(志している)人にもハッとさせられる指摘にあふれています。
↓本書を読み始めた経緯は以下の記事で書いています(これこそ「+error」事例なのですが…)。
» 本を買うとき、なぜその本を読もうと思ったのかを詳しく書いておく
著者が無数のトラブル(「+error」と「Troublog」の両方)を通して掴み取ってきた貴重なノウハウは、抽象化することで飲食ビジネスにも適用できるものばかりです。
「あぁ、この事例は自分の事業に置きかえればこういうことじゃないか…」と耳の痛い指摘として胸に突き刺さります。
たとえば、以下の指摘。
「うまくもない料理を出す店が、何であんなにはやるんだ」。
評判の店を視察した後に、そんな疑問を口にする経営者は少なくない。しかし、こうした発想は間違っている。
なぜなら、お客様にとっての料理の「おいしい」「まずい」は料理の味付けや素材で単純に決まるものではないからだ。そのことに気が付いている経営者は意外なほど少ない。
お客様がその店の料理をおいしいと感じて、また店に来てくれるかどうかは、料理の品質と店の用途が合っているかどうかで決まる。用途に合っている料理を食べたときにお客様は「おいしい」と感じ、合っていないときに「まずい」と感じているのだ。
そう考えると、「味付けが濃厚でコクはあるけど、味にキレがない」などと、ライバル店の料理を批評したところで、あまり意味がないことが分かる。
つまり、味だけ論じることには何の意味もない。
もしも、視察した店の料理をおいしくないと感じたのに、その店がはやっているとしたら、その店のお客様にとっては用途が合っているから、その店の料理をおいしいと感じていると考えるべきだ。
また、あなたが自分の店で提供する料理に自信があるのに、お客様の数が少ないと悩んでいるのなら、店で提供する料理とお客様の店を利用する用途がズレている可能性が高い。(p.24)
どんなに良いコンテンツを持っていても、それがお客さまの用途に合っていなければ、買っていただけない、と解釈できます。
もしあなたがブロガーで、「あんなしょうもない記事を出すブログが、何であんなにアクセスを集めているんだ」などと「人気ブログ」に嫉妬しているとしたら、そういうことなわけです。
「おいしい」=「客数」と考えるようにしている。客数が増えているなら、その店の料理はおいしい。逆に客数が減っているなら、その店の料理はおいしくないのだから、何らかの対策を講じるべきだ。(p.50)
「自分の店の料理はうまい」と思ってはいけない。
それこそが悲劇の始まりだと私は思っている。なぜなら、「自分の店の料理はうまい」と思ってしまったら、「売れないのはお客が悪い。景気が悪い」と考えるしかなくなってしまうからだ。
商売とは、お客様に喜ばれるという形で社会に貢献し続けることなのに、そんなふうに考えてしまったら、もう改善を進められなくなってしまう。
別の言い方をすると、「良いモノは売れる……」という考え方は、地球の周りを太陽や惑星が回っているという昔の世界観「天動説」と同じだ、自分たちにとって都合良く世界を見ようとするのではなく、物事をありのままに見ようと、我々は努力しなければならない。科学は実験を通して、自分の仮説(思い込み)が間違っていることを教えてくれる。自分中心に物事を考える「天動説」の対極にあるものだ。(p.8)
書かれているとおり、現実に真摯に向き合い、データを取り、物事をありのままに見つめることで初めて「正解」が導き出せることを身をもって教えてくれる一冊です。
» サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ (日経ビジネス人文庫)