目的を紙に書いて、実際に動いてみることが、目標達成を後押しする理由

カテゴリー: ビジネス心理書評

タイトルには二つの要素が入っています。

したがって、両者を併用すると、相応の効果が望める、ということになります。

私はもともと、どちらに対しても懐疑的です。「夢に日付を」というライフハックは、効果があるとは思いますが、やって失敗したこともが何度もあります。また、動き出せばやる気が出る、というのは事実ですが、その動き出す前が問題なのです。

特に2の、「動き出せばやる気になる」というのは、体感としてもっている人が多いため、人気のライフハックではあります。脳科学者の池谷裕二さんが、『海馬』や『のうだま』でも紹介しているハックですから、これに反対する気になれないのですが、積極的に賛同する気にもなかなかなれません。「たしかにやる気にはなる。しかし、そんなにでもない」といったところです。

のうだま―やる気の秘密

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特に私は、動き出せばやる気になるという事実の説明に対して「作業興奮」という用語は、まったく不十分だと感じてきました。実際、原稿を書き出してもさっぱり進まないことがよくありますが、それは、「興奮した」ところで作業に移せるとは限らないからです。興奮自体も不十分なことが多々ありますが、たとえばものを書けないという場合、覚醒レベルだけを高めても、どうにもならない技術的な要因が多く残ります。

身体を動かせばいいようなこと、たとえば掃除やスイミングなら、興奮レベルが高まるだけで、まずまずうまくいくのですが、知的作業に作業興奮は今ひとつ役立たないと、私はずっと考え込んできていました。

自分自身への「影響力の武器」

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本書は、いわゆるマーケット心理学の解説本であり、色々と賛否はあるものの、現実に幅広く応用されている知見です。しかし、私はマーケットに従事していないため、その点ではたんに興味本位で読みましたが、自分自身への影響力という視点で考えてみると、これは行動科学でも、認知科学でも、あまり踏み込んで説明していないような事柄が、うまく解説されているではないかと興奮しました。

「目標を紙に書く」、「行動を起こす」。これらがある程度まで、自分自身を目標行動に向けて駆り立てる力になるのは、「コミットメント」と「一貫性」で説明できます。朝鮮戦争のおり、米軍捕虜が収容所生活を送るうちに、中国共産党に「いくぶん洗脳」された事例は、社会心理学では比較的有名ですが、こんなことすら「コミットメントと一貫性」で可能になるなら、「ダイエット」や「禁煙」くらい、できても不思議ではないでしょう。

一貫性を保ちたいという欲望

たしかに私たちには、つまらないことでも「一貫していたい」という欲求があります。これは、信じやすい人でもシニカルな人にもあるものです。なぜなら、自我の要求だからでしょう。

中国共産党は米軍捕虜に対して、たとえば「資本主義」への「信仰」を改めて、「共産主義」の「教義を理解」するように迫りました。これを米兵は当然のように拒否しました。すると次に、「共産主義の教義」を「写経する」ように求めました。これは典型的な、大きな要求の後の小さな要求(ドア・イン・ザ・フェイス)のテクニックで、大半の米兵が、「写経くらいなら」ということで妥協します。教条を書き写したくらいで、自分の考えが変わるなどとは思わないからです。

けれども人間の心理というのはカチッと固められた物質とは違いますから、ある種の行動を実際にとってしまうと、考え方もそれに連れて、少しは変化するものなのです。妥協したとはいえ、完全に強制的に「写経させられた」わけでもない人は、結局多少は「自発的に書いた」ということになります。この事実が、「一貫性を保ちたい」という欲求を刺激することになり、これに加えてもう少し他のことをすると、考えの修正に結びついていくわけです。

そのもう少し他のことというのが、「家族への手紙」です。捕虜の心理として、家族に自分の無事を知らせたいと思うのはきわめて当然でしょう。それを知らせるには、当時、手紙しかないわけですが、その手紙を届けてくれるのは中国側、ということになります。内容の検閲ももちろんありますから、捕虜としては、手紙に中国共産党へのリップサービスが混ざるのは、やはり当然でしょう。

この場合の共産主義礼賛は、やはり事情が事情だとはいえ、「写経」に比べてはるかに「自発的行為」です。つまり、コミットメントになるわけです。コミットメントしてしまった行為は、取り消すことができません。自分がその行為を行った記憶があり、しかも家族にも読まれています。「写経」もやっています。「紙」には「証拠」が残っています。さらに、捕虜なのだから仕方ないとはいえ、脅されたり強制されて唯々諾々と「共産主義礼賛をした」と思いたくもありません。要するに「一貫性の欲求」から、「私の共産主義への理解は、強制されたものばかりとは言えない」と告げたくなるわけです。

ここまで条件が整えば、次の程度の結果は、驚くべきものでもないわけです。

多くの人が中国共産党に反感を示していた。しかし同時に、「中国において彼らが成し遂げた優れた仕事」を賞賛していたのである。「アメリカではうまくいかないだろうが、アジアにとっては共産主義はよいものだと思う」と言う人々もいた。


話が大きくなっていますので、元に戻しましょう。日常生活において成し遂げたいこと—ダイエット、ジョギング、英語の勉強—などに、これが使えないとは思えません。実行すればもっともうまくいきそうなやり方は、

といったところでしょう。そうすれば、一貫性を保ちたいという欲求と、コミットメントしてしまったという事実の記憶とが、継続の後押しをしてくれるに違いありません。これに対して、ただ身体を動かしてみたり、ただ「夢に日付を」入れるだけだと、効力は半減してしまうと思います。

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