やめがたいことをやめないと、時間は作れない

カテゴリー: タスク管理書評
やめられない心 毒になる「依存」 (講談社+α文庫)
クレイグ・ナッケン 玉置 悟

講談社 2014-07-23
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この本はもちろん、時間管理の本でもなければ、仕事術の本でもありません。一般には「依存」などと訳される「アディクション」を扱った本です。つまり一般的な心理学の本です。

しかし私は、とかく「時間をムダにするついやってしまう行動」にアディクションぽさというものを感じてきました。もちろん臨床心理学でいう「依存」に比べれば「つい仕事をやらずにネットをやってしまう」とか「つい仕事を先送りにしてしまう」などといったことは、きわめて自然で、かりに「アディクションぽい」として軽微なものです。

ただ、本当はよくないと思っているのに、ついコーヒーを何杯も飲んでしまうとか、本当はよくないと思っているのに、ストレスから食べすぎるといったことは、本当はよくないと思っているのに、つい仕事を先送りにしてしまうということと、けっこう似たところがあるように思うのです。

気分をコントロールしたいという欲求

「アディクションとは何か」を説明すれば、それは「人間の力では本来コントロールできないこの自然のサイクルを、無理矢理コントロールしようとする企てである」と言うことができます。(p21)

心理学者でときおり、気分を天候にたとえる人がいますが、まさにそういうことです。天候は、予想はできてもコントロールはできない。かりに台風の進路をコントロールできるものなら、台風によって被害を被ることは、天災ではなく人災になりかねません。

キツイ仕事をすれば、通常気分は悪くなります。その前に、キツイ仕事をしようとすれば、その時すでに気分は悪くなります。しかし気分が悪くなることは、何となくコントロールできそうに思えます。たとえばチョコレートをかじることで。

その時たまたま、チョコレートのおかげで気分が上向くということを学ぶと、そしてその人がいつも仕事などのストレスに圧倒されがちな場合、仕事で気分が悪くなりそうになると、決まってチョコレートを求めるという習慣がつきます。少なくともそういう習慣が身についてしまう人はいます。

人によってはここで、健康を問題にするかも知れないし、ダイエットと結びつけるかも知れないし、それこそアディクションを持ち出す人もあるでしょう。しかし、私はここで時間を失うということを連想します。

仕事の度にチョコレートをかじるとなると、ごくわずかでも時間を失います。ですがその時たまたまチョコレートが手元になく、しかもチョコレートなしには仕事をする気になれなくなっていたら、けっこうな時間を失います。そういうことを私達はかなり嫌うので、たくさんのチョコレートを仕事場にストックしようとするでしょう。

そうすると、それまでは存在しなかったチョコレートのストックをメンテするという時間を、定量的にとられるようになります。しかも、チョコレート代に回っている分のお金も、いちおう何とかしなければなりません。チョコの食べすぎのせいで体調を崩せば、体調のメンテのためのお金と時間も必要になってきます。

私達が常習的にとる行動の中には、意外とこうしたものが少なくないのです。つまり本来は必要なかったのに、いつの間にかそのことのために一定のお金と時間を費やさねばならなくなっているということです。

「予備行動」しそうになったらすぐやめて、苦い気分を受け入れる

このパターンに飽き足らなく思うのであれば、行動が常習的になる前に、手を打った方がいいと言えます。『やめられない心』は非常にいろいろなことを教えてくれます(ただしところどころの断定的な調子には、いらだたしさを感じます。そういう読者も居るはずです)。

中でも「アディクション」までには至らないふつうの人に役立つであろうことは「予備行動」に関する指摘です。生々しいですが引用しましょう。

アディクションに冒された人は、その対象のことが頭から離れなくなると、必ずいくつかの決まった行動を開始します。たとえば、

・性的なアディクションのある人が、売春婦がいそうな地域をうろついたり、そのあたりを車で通ったりする。
・ギャンブルのアディクションのある人が、競馬の予想評を読み始める。
(p34)

これはきわめて大事なポイントで、特に自分の行動の有害性についての自覚があると、その行動からの味わいを「なめるにとどめる」という行動を予備的に取るようになるものです。買い物依存症の人が女性雑誌をめくるようなものです。

しかし、そもそも特定行動によって「気分のコントールをしよう」としているのですから、なめてしまったら、なめるにとどめるのはむしろ難しくなるものです。

もっとも効果的で簡単な対策は「近寄らない」ことなのです。その代わりに「気分はコントロールできない」ことを受け入れるしかありません。そもそも気分の変化を求めてターゲット行動を取るわけですから、ターゲット行動に近づこうとしているときは、すでに何かしら気分が悪くなり始めている証拠です。

だから私はつくづく思うのですが、時間をムダにしない最良の方法とは、気分をあまり悪くしないことであり、悪くなったらそれをコントロールしようとしないことなのです。

▼編集後記:




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