1.バケツの水をくみ出すのをやめる
2.人のよいところに注目する
3.親友を作る
4.思いがけない贈り物をする
5.相手の身になる
心のなかの幸福のバケツ | |
高遠 裕子
日本経済新聞社 2005-05-25 おすすめ平均 |
今週のエントリは、ある意味では先週の続きと言えます。
なぜなら、エイブラハム・マスローこそ、「ポジティブ心理学の父」と言っていいほどの存在だからです。
もっとも「ポジティブ心理学」などうんざりだ、という人も今となれば多いでしょう。ある種の方面では、何かと言えば「ポジティブ、ポジティブ」です。人間は自然な感情にしたがいたいもの。もしも人のよいところよりは、どうしてもイヤなところに目がいき、自分ができることは当たり前のように思え、短所には我慢がならないというのであれば、「ポジティブになれ」と言われるだけでも腹立たしくなります。
ライフハックには、1つの態度があります。可能であるなら、無理はしないこと。ポジティブであることがどんなによいことでも、無理に無理を重ねるようなやり方は、最後の手段としたいところです。無理なくポジティブな態度を身につけられるなら、それに越したことはないでしょう。
そのように考えを整理して、改めて冒頭の5か条を見てみましょう。
1.バケツの水をくみ出すのをやめる
2.人のよいところに注目する
3.親友を作る
4.思いがけない贈り物をする
5.相手の身になる
ここで無理なくできるのは、1と3。少し無理をすればできるのは、4です。2と5は、不慣れな人には精神的努力が必要ですから、これは将来の課題としましょう。
1.バケツの水をくみ出すのをやめる
ではまず1ですが、この意味は本書を読まないと分かりません。もっとも、100p強の短い本ですし、文章も大変こなれていますから、読む気になれば1時間も必要ありません。もしも「ポジティブ心理学」が無意味だと強い反発をもっていないのであれば、読んで損や害はない本です。
「バケツ」はもちろん比喩です。「心が満たされる」という表現があります。これをもっととらえやすくするために持ち出したのが「バケツ」。バケツに水が満ちているということは、その人の心が満たされているということで、バケツが空っぽだとなれば、今にも気力がなくなりそうな心理状態を示します。
いうまでもなく、ネガティブな状況や、ネガティブな表現、そしてネガティブな思考によって、バケツの水は失われると、筆者は強調します。バケツの水が減ることは、「百害あって一利なし」。その「百害」をいろいろな心理研究によって示し、また「バケツが水で満たされる」ことのメリットは、「強調されすぎということはない」のです。
「バケツが空っぽになることからくる実害」を1つ本書から引用してみましょう。
心理療法士でもあるフィールドマンは言う。
「嫌いな上司と一緒にいると、血圧が大幅に上がることは、統計的にも臨床的にも認められている。何年も嫌な上司の下にいると、血圧の高い状態が続くので、心臓病になりやすくなる」
これに反対意見を述べるのは、もちろん容易なことです。とくに、こういう「統計」や「臨床」に詳しい人であれば、難しくはないはずです。ただしそれが、たんにネガティブな動機付けから発されるのであれば、そうした発信をしばらく控えてみるという選択肢もあります。それがまさに、「バケツの水をくみ出すのをやめる」ということになるからです。
世の中にウソが広まるのは好ましくないので、正しいことを広める責任を感じる、というポジティブな理由から、「嫌いな上司と一緒にいると、血圧が大幅に上がることは、統計的にも臨床的にも認められているなどウソである」と主張するのは問題ないわけです。
ことさらポジティブな態度を維持することが難しくても、ネガティブな態度や表現を控えておくことは、それよりは易しいでしょう。そうして「バケツの水をくみ出すことをやめれば」、徐々に心のバケツに水が満たされていくはずだ、と著者は主張します。
3.親友を作る
そして、意志の力で実行するのが難しいことは、環境の力を頼るというのも、無理をしないやり方の定番です。ことさらにポジティブな態度をとるのが難しいなら、ポジティブな態度をとるのが自然な環境を、より多く持てばいいわけです。
批判的態度が第二の天性のような人でも、友好的な親友に対しては、態度がポジティブになるものです。仮に口では辛辣なことを言いはしても、態度と心理は違うものです。
親友を多く作り、親友といる時間を多くする。そうすることで、「心のバケツから水をくみ出す」機会は、自然と激減するでしょう。逆に言えば、よほど人好きのする人でもない限り、雰囲気の悪い環境ばかりにいて、「心のバケツを水で満たす」など、できるものではないのです。
「ポジティブな態度」の重要性が説かれているところでは、「意識的な努力」が強調されすぎている印象があります。「今日からいつも笑顔で、ポジティブなことだけを言うようにしましょう」というわけですが、そうはいかないからこそ、次のような統計結果が本書にも示されているわけです。
10人中9人は、上司や同僚がもっとポジティブなら生産性が上がると考えている
4.思いがけない贈り物をする
上記2か条とはまた違った難しさがありますが、やろうと思えばできなくはないことが、「贈り物」です。言ってしまえば、メンタルブロックを外すだけでも可能な行為だからです。
もちろんそれが難しい。しかし、人によっては親友を作るよりはずっと簡単にできるはずです。
思いがけない贈り物の効果は、本書ではかなりページを割かれています。ただこれは、アメリカ人が書いているという点を割り引いて考える必要はあります。アメリカ社会は、私が体験した限りにおいて、日本よりずっと贈り物が日常的な文化です。
以上の3項目はいずれも、ありふれた話のようにしか見えませんが、これをとらえやすいバケツに水を満たすという比喩に置き換えることで、少しでも意欲的に実践しやすくなっているところがポイントなのです。
本書のすべてを意識的にやろうとしても、そうそうできることではなく、疲れ果ててしまう人もたくさんいるでしょう。本書のようなことは、無意識的に、自然にやれるようになっていくことが肝要で、そうできる頃には、心のバケツも満たされているはず、ということになります。
同じ著者による、以下の本も有名です。ツッコミどころはありますが、読みやすい本であることは好感が持てますね。
さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす | |
田口 俊樹
日本経済新聞出版社 2001-12-01 おすすめ平均 |