じつは人間の脳というのは、自分が確信しているものを実現させる方向に向かって、その働きを集中させる特徴があります。
脳研究の第一人者である松本元先生(故人)は、著書の中でこう言っています。「脳は『できる』と確信(仮説を立てる)と、その『確信』の論理的な後ろ盾を与えるべく認知情報処理系がフル活動をする」(『愛は脳を活性化する』岩波書店)
実現性がどうであれ、本人が「必ずできる」と確信していればこそ、脳はそのために全力を出してくれるのです。
といっても、いちゃもんをつけるつもりはありません。むしろ、著者は意図的に本書をそのように(=ツッコミどころ満載に)作り込んだと思われるフシがあり、その意図を汲み取ろうとするプロセスにこの本の学びがあるのではないかと思っています。
「ダ・ヴィンチ・コード」よろしく巧妙に仕組まれたアナグラムのように、一見するとどうということはないフレーズでも、経験というカギをもって改めて見直してみると、そこに新たな一面を見いだすことができるのです。
手に入れるべきは結晶ではなく結晶化の方法
著者は、27万部の発行部数を誇るメルマガ「平成進化論」の発行人。本書の発売当時の発行部数は15万部と記載されていますから、この3年の間に200%に迫る勢いで成長を続けているということになります。
本書の中でも、
古今東西、いつの時代も、成長譚は多くの人を魅了するのです。
ここから推し量るに、人を引きつけようと思ったら、「自分自身が成長し続けている姿」を世の中に投げかけ続ければよいのではないでしょうか。
とあるように、自身が成長していくプロセスをコンテンツにしています。
コンテンツだけでなく、著者自身が「平成進化論」なのです。
そうなると、本書から学ぶべきは、著者の進化のプロセスをなぞりながら、その根底にある原理原則を見抜き、これを自分の日常に落とし込む、という行動と習慣を入れ替えるための方法であり、同時にその実践です。
本書には「自分を変えるポイント」が全部で51個紹介されています。いずれもビジネス書ではお馴染みのものばかりではありますが、そこに至るまでに著者が経てきた失敗体験やそこから得られた気づきにこそヒントがあります。
逆に言えば、51個のポイントはそれ自体は必要な精製プロセスを終え、冷えて固まった“結晶”のようなもので、すでに完成されてしまっているがために、そこから得られるものはごくわずかです。
むしろ、どのような“鉱物”に注目すればいいか、そしてそれらをどのような方法で攪拌(かくはん)し、配合し、そして結晶化させればいいか、といったことに目を向けることで、読者は結晶化の方法を手に入れることができます。
Whatは書かれているが、Howは自分で見つけるしかない
51のポイントのうち、僕にとって目に留まったものを10個取り上げてみます。
いずれのポイントもすでに結晶(What)になっているので、素材として提供されている本文をヒントにいかに自分なりの結晶化の方法(How)を抽出するかが本書を読む醍醐味といえるでしょう。
1.
昨日の自分より、0.1%(1000分の1)だけでも成長することを自分に課し、それを日々、継続すること
ここで課題になるのは、0.1%をどのように計るか、そして、積み上げたものを確実に次に引き継ぐ(=複利を回す)ためにはどうすればいいかの2点。手っ取り早くは、やはりリストを作って、日々目を通しながら確認する習慣をつくること。
2.
まずは1週間。自分の使いみちを、こと細かにチェックして記録。無駄な時間を削って、その時間を自己投資に充ててみる。
作業記録をつけるためのツールを探し、自分にあったものを導入する。
» 作業記録の習慣がもたらすもの
» 「使途不明時間」をやっつけるツール
3.
毎日の仕事の効率性を洗い出して、生産性の低い8割の仕事にかける時間を極力減らす
具体的にどのようなツールを使えばいいのかが最初の課題。最近iPhone用アプリも発表されたNozbeはいいかもしれない。
4.
生活の時間単位を徐々に細かくして、1アクションを5分、10分、15分の単位まで落とし込む
時計ではなくタイマーを使って、単位時間を強く意識できるようにする。また、一日をいくつかのブロックに分けて、ブロックごとに場所を変えて仕事をしてみる。ネットにつながずにひたすら作業を片付けるためのブロックもあるといい。
» 仕事のスピードをアップさせるタイマー選び
» 時間をスライスするツール
5.
自分では当然だと思っていることも含めて、自分ができること、得意なことを100個、書き出してみる
こういったことは「やってみたら良いんだろうな」と思いつつ実際には日々の忙しさにかまけて、できないことがほとんどなので、仕事帰りにまっすぐ帰宅せずにファミレスなどに寄って、取り組んでみる。
6.
あなたのお金、モノ、情報、人脈を必要としている人を見つけるために、積極的に外に出て人と会う機会を作る
これをやろうとすると、すぐには結果が出ないために挫折と背中合わせになる。そこで、交遊記録をつけ、会った人ごとにレビューを行い、次の出会いに活かせるような仕組みをまず作る。
» 今日からすぐ始められるデイリーレビューのための2つの問い
7.
自分の発信手段を持たない人は、ブログなどを書いてみる。そのときは、独りよがりの日記ではなく、読者がいることをつねに意識する
同じ取り組みを一緒にやってくれる友人を見つけて、お互いの日記を見られるようにしたうえで、書いていく。相手が書き続けている限り、自分を書かざるを得ない。
» 『チームハックス』序章(2)「予定と実績の共有」がもたらすもの
8.
「お金がない」と言いたくなったら、即座にその言葉を飲み込んで、「どうすればお金を作れるのか」という観点から言い直す
それを言われると、それ以上進展が見られなくなってしまうような言葉(=思考停止語)に代えて、次の接ぎ穂になるような言葉(=行動促進語)を使うようにする。
9.
セミナーで学んだことを1つだけでも即日実行する。また将来にわたって付き合いたい友人を見つけられるように積極的に話しかける
セミナー参加前に、参加の目的(持ち帰りたいもの)を3つリストアップしたうえで臨む。セミナー中は、セミナー終了後にすぐに取りかかるべきことをリストアップしつつ聴く。セミナー終了後は、その場で知り合った人と感想や意見の交換を行う。
10.
自分の仕事上のノウハウを、人に提供できる形で体系化、言語化しておく
定例ミーティングの際に、一人5分程度のノウハウ発表の場を持つようにする。週に1度程度、その週にやった仕事の中から「これは他の人にも使って欲しい」と思えるような仕事の手順やツールを5分で紹介する。聴いてくれる人がいれば、人はがんばれる。
まとめ
このように、本書に挙げられているポイントにはいずれも、自分の経験という“カギ”をつっこむべき“カギ穴”が無数に空いており、読みながら「ではどうすればいいか?」を自然と考えるように促されるはずです。
時間を置いて読み返してみると、また新たな切り口が見いだせるかもしれません。
▼合わせて読みたい:
手前味噌ですが、以下の本も本書とは違った確度からツッコミがいのある一冊です。