ビジネスパーソンが勉強する理由
つまるところ、ビジネスパーソンが本を読んだりセミナーに参加することによって獲得しようとしていることは、自分にフィットした習慣を何らかの方法で手に入れて、これを現行の習慣の一部あるいは全部と差し替えること。
もちろん、即効性のあるテクニックやツール、アプリケーションを手っ取り早く仕入れたい、という動機もあるとは思いますが、そういった“速効薬”は、効き目が切れるのも早いもの。
すぐ手に入るということは、絶対的にはメリットが大きいのですが(知らないでいることによる機会損失を防止できる)、相対的にはさほどのインパクトはありません。つまり、そのテクニックやツールの希少性が低いために競争力向上には寄与しない、ということです。
それでもこういった情報に人気が集まるのは、たとえすぐに切れたとしても今すぐに効果が得られるというスピード感が高く評価されるからでしょう。
優先すべきは“OS”のアップデート、劣後すべきは“アプリケーション”
仕事の“OS”というものがあるとすれば、仕事ができる人というのは、堅牢(=弱点が少ない)でスケーラビリティ(=応用力)が高いOSを持っているはずです。どんなケースに出会っても卒なく対応でき、一つの経験を他の仕事に応用できます。
Windows Updateは、WindowsというOSを少しずつ改善してくれますが、これはひとかたまりのプログラム群(以下モジュールと呼ぶ)を更新したり、新規追加することによって、行っています。もちろん、もはや不要となったモジュールは削除されることもあるでしょう(それによって不具合が起こることもあるでしょう)。
最近では携帯電話やPDAなどは、ファームウェアアップデートと呼ばれるプロセスを通じて、本体そのものの機能改善を実現していますが、これもまたOSのアップデートといえます。
仕事のOSにおいては、このモジュールは「習慣」ということになります。常に自分の仕事のOSを見直して、すでにある習慣を改善したり、古い習慣をやめたり、あるいは新しい習慣を採りいれることで、堅牢性やスケーラビリティを高めることができます。
逆にいえば、こうしたOSのメンテナンスをせずに便利そうなアプリケーションや周辺機器を追加していっても、パフォーマンスの劇的な向上は図れないのです。
むしろ、アプリケーションが高機能過ぎてOSの処理が追いつかなかったり、そもそも対応するドライバがないために周辺機器が認識できない、ということもあるかもしれません。例えば、仕事術の本の著者が使っているツールを片っ端から揃えていっても、著者と同じパフォーマンスが出せないのは、OSが異なるから、というわけです。
地味なOSのアップデートを楽しくする
とはいえ、新しいアプリケーションの導入に比べれば、OSのアップデートは地味なものです。それによって、目に見えて動作が高速化したり、今までできなかったことができるようになったり、ということはまれなのです。
それゆえに、重要だということは分かっていても、なかなか手が着かない、もっといえば、後回しにしたくなるのです。
そんな中、『ルーチン力』という本は、この地味で気の進まないOSのアップデートを、目に鮮やかな手法やツールを駆使して、楽しく行う事例を示してくれます。
この本から得られるのは、新たなアプリケーションではなく、仕事のOSをアップデートするためのモジュールです。読む人によっては、すでにあるモジュールと競合するために導入を見送らざるを得ないものもあるかもしれませんが、互換性のあるモジュールであれば、迷わず追加するといいでしょう。
大切なことは、アプリケーションとして採りいれようとしないことです。もちろん、それでも一定の効果は得られますが、相対的なパフォーマンスアップは期待できないからです。
いろいろな仕事術系の本を読んで、あれこれ試してみたが、いまいちしっくり来ていない、という人におすすめの一冊です。この本で紹介されている事例(≠方法)に触れることで、おのずと自らの仕事のOSにアップデートがかかるはずです。
▼合わせて読みたい:
本書でも紹介されていますが、シゴタノ!でもたくさんの読者から支持されている以下の本にも良いモジュールがたくさん掲載されています。