それは、自分が目指しているところを改めて自分の心に刻みつけること。
未来の自分を現在形で語る
今から2年ほど前の2005年12月にとあるパーティーに出席しました。知らない人ばかりの集まりで(知っているのは招待してくれた主催者のみ)、どうしたものかと戸惑っているうちに自己紹介タイムが始まりました。十数人程度のこぢんまりとしたパーティーでしたから、全員が輪になって1人ずつ自己紹介をし始めます。
当時の僕はフリーランスでウェブサイト制作やシステム開発といった仕事をメインに行っており、ブログは仕事の息抜きという位置づけでした。
それでも、僕の番が回ってくると、なぜか次のようなことを話していました。
「毎日家に引きこもってブログを書いて生活をしています」
あたかもブログだけで生計を立てているかのようです。ちょっとした笑いを取ろうという意図もありましたが、当時の僕にとって、これは憧れであり目標でもありましたから、ほろ酔いも手伝ってついつい口がすべりました。でも今にして思えば、ここでこのようなことを公言したことがその後の行動を変えるきっかけになったようです。
ちょうど年末近くに行われたパーティーだったために、自己紹介に絡めて「来年の抱負」に触れる人も少なくありませんでした。様々な抱負を聞くことができましたが、1つだけ共通点がありました。
それは、
「来年は『○○でメシを食ってます』って言えるようになりたいです(笑)」
のように「~と言えるようになりたい」とまとめている点。
人の脳というのは、言葉に敏感なものだと思っています。ですから、
「来年は『○○でメシを食ってます』と言えるようになりたい」
というように願望を表明すると、脳は「言えるようになりたい」という部分に注目するのではないかと思うのです。
脳と人の意志との関係を料理長と客に置き換えるなら、客たる我々としては、本当に食べたいと思っているものをオーダーしたほうがいいでしょう。さもなければ“シェフの気まぐれレシピ”を供されるかもしれません。
具体的には、
「○○でメシを食ってます」
などと、未来の自分を現在形で語ることです。そうすれば、料理長たる脳はそのオーダーに沿ってベストを尽くしてくれるはずです。
これは、いわゆるハッタリのように聞こえるかもしれませんが、少し違います。虚勢を張るのではなく、少し手を伸ばせば届きそうな未来、すなわち今すぐにでも実現しようと取り組んでいることを、自己紹介という行為を通して、脳という“投資家”にアピールするのです。
これを受けて、投資家たる脳は何を出してくれるかといえば、やる気です。「そういう志なら」、「そういう経営理念を持っているなら」ということで、やる気という“資本”を投じてくれるのです。
我々は、そうした出資を受けて初めて、行動を起こすことがかないます。
最初はプレイ
現状からあまりにも遠い未来は地に足が着かず、従って自信をもって語るには向きません。脳も信用してくれないでしょう。それゆえ、少しがんばれば何とか届きそうなステージで生き生きと行動している自分を、最初は演じることになります。
演じているうちに、「こういう風になるためには、あれもしないといけない、これもしないといけない」といった具合に、自分に不足している要素が次々と明らかになります。そして、これらの不足を充足していくことが「少しがんばる」の実態であることに気づき、結果として演じている通りの自分に向かって一直線に進むことになるはずです。
つまりは、近未来プレイ。
前に進むための「3K」
- 考える
- 語る
- 行動する
いうまでもなく、考えるだけでは前に進めません。それを誰かに語ることによって、結晶化させるのです。語り始めると、考えているだけの時には思いもよらなかったことが口を突いて飛び出すことがあるからです。
それは、聞いてくれている相手が何かしら具体的なフィードバックやヒントをくれるから、ということではなく、相手が目の前にいてくれることによって、相手に自分の思いを伝えたい、そしてその心の鐘を鳴らしたい、と思える自分になれるからだと考えられます。
1つの言い方で響かなければ、また別の言い方、あるいは別の具体例を次々と思いつく限り出していくことになるため、そこに試行錯誤のうねりが生まれ、自分の中にあって未だスポットライトの当たっていなかったところにもあまねく光がもたらされ、そしてこれが閃きとともに言葉となってその場の空気を振動させるのです。
かくして、相手の心の鐘を鳴らすことができたとき、すなわち「感心」してもらえたとき、
「こうして公言したからにはやらねばならない」
というプレッシャーを感じるまでもなく、語っている最中からしてすでにウズウズしてきて、放っておいても行動に結びつくようになる、すなわち、脳の出資が得られるのです。
まとめ
以上をまとめると、自己紹介をする際には、未来のことを未来のこととして「将来は○○したい」と語るのではなく、未来のことをあたかも現在やっているかのように「今、○○している」と語ることによって、実際に「○○」に近づくことができる、ということになります。
僕自身、まだまだこれからですが、少なくともかつて本業であったウェブサイト制作やシステム開発といった仕事は今や全体の1割程度と、逆転しています。
当時の「今」であったはずの仕事を「今」とせず、当時の「未来」であった仕事を「今」としたことが、「言ったからには実現せねば」というプレッシャーを生み出すとともに、脳からのやる気の出資を促し、その結果、いわば“受託”に頼らず“自社サービス”で何とか食えるような体制にシフトできたのではないか、と思っています。
ちなみに、「3K」の出典である『感動無き続く人生に興味なし』という本には、著者の「3K」の体験事例が豊富に紹介されており、大いに心の鐘を鳴らしてもらえるでしょう。
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