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カテゴリー: ビジネス心理書評
マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選3 採用は2秒で決まる! 直感はどこまでアテになるか? (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選 3)
マルコム・グラッドウェル 勝間 和代

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本を読む目的にはいろいろありますが、「日頃から謎だったことを教えてもらう」という欲望を満たすには、マルコム・グラッドウェルはやはり抜群です。

本書の第16章に「危険なプロファイリング」というエッセイが収録されています。エッセイというよりは、読んでる気分はミステリー。私はこの章、読む前から惹きつけられました。前々から疑問に思っていたことが、そのままの形で取り上げてられていたからです。

FBIプロファイリングというものは、役に立つのか?
役に立つとすれば、どのように?

疑問1 なぜ「行動科学科」なのか?

映画でもおなじみの『羊たちの沈黙』にも登場する、FBIの行動科学科。しかし映画でやっていたこともそうですが、どこを見てもあまり「行動科学的」という印象がありません。

もともと「行動科学」といえば、ワトソンやスキナーを創始者とする「学習強化」によって習慣形成をさせたりやめさせたりすることが主眼でしょう。チーズがもらえるネズミは、繰り返しレバーを倒すようになるという、あれです。個々のネズミの性格といったことは、ほとんど問題になりません。

一方で「プロファイリング」というのはそもそも「犯人像」を犯人を見ることもなく「見抜く」ための科学的技法。「プロファイリング」に関する本を読んでも、もちろん『レッド・ドラゴン』や『羊たちの沈黙』を読んでも、どちらかといえば精神分析学の人々が使いそうな用語が続出します。

幼児体験とか、イマーゴとか、深層心理とか、性向など。要するに私が見た限り、FBI行動科学科というより、FBI精神分析科といった方が、しっくりくるのです。その疑問にはグラッドウェルが簡潔に答えてくれています。

つまり、強い結束力で知られるプロファイラーたちの世界は、みなフロイトによる系譜なのだ。

やはり。その方がはるかに納得がいきます。

疑問2 犯人像がわかったからといって逮捕にそれほど役立つのか?

行動科学科か精神分析科かといったことより、私には実は、こちらの方がはるかに気になっていました。

もちろん犯人像が全く不明だというよりは、犯人像が明確になった方が、警察にとってありがたいことは確かでしょう。しかしどうも「プロファイリング」というもので明らかになっている「犯人像」は一般的すぎて、それが仮に正しかったとしても、使いようがないのではないかと思わせられるのです。

「犯人はおそらく一六、七のハイスクールの少年だ……だらしない格好をしている。髪はぼさぼさで、普段はほとんど手入れしていない」
 プロファイリングはさらにこう続く。犯人は、孤独でちょっと変わっている。ガールフレンドもいない。激しい怒りを抑圧している。

どうもこのような人は、どこにでもいそうですし、相当たくさんいそうに思えます。なによりも気になるのは、このレベルの犯人像であれば、プロファイラーに尋ねるまでもなく、警察でもわかりそうなものだという点です。

だが、このプロファイルはどれほど役に立ったのだろう?

グラッドウェルもこの点に疑問を呈し、いつものような調子で、「プロファイリングがあまり役に立っていない事例」をいくつか紹介してくれます。この種の情報は読ませます。当たり前なのですが、「プロファイリング」のインパクトを伝えている本は、「ものの見事に事件を解決した事例」ばかりを取り上げているので、かえって面白味が欠けているのです。

疑問3 そもそもプロファイリングは当たるのか?

もちろんこれが最大の問題です。これが当たらないのであれば、上記2つの疑問など、意味を持ちません。

そしてグラッドウェルが書いている限り、プロファイリングは「当たらない」のです。私が読んだ中でももっとも問題だと感じたのは、デリック・トッド・リーの事件のケースです。このケースのプロファイリングは多くの点で不正確でしたが、もっとも著しい間違いは、犯人像を「白人」としていたところ。実際には黒人でした。

役に立つかどうかが疑わしい上に、信頼できるかどうかも疑わしい。そうなるともう一つ疑問がわいてきます。ではなぜ「行動科学科」までできてしまうのか?

皮肉なことに、仮にグラッドウェルが正しくて、行動科学科が実際の役に立ってないとしても、FBIの権威ある科として存立できる理由がまた、心理学的に説明されてしまうのです。心理学の上に立っているかのごときプロファイリングの有用性は、懐疑派から見ればかなり穴が多い一方で、プロファイリングを信用してしまう人間心理は、心理学的に説明できる。

ここから先は、グラッドウェルの解説を読んでみてください。

▼編集後記:
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表紙を見ただけでは、気づいてもらうのは困難というか不可能ですが、この本の最後で、大橋さんと堀さんと私の対談が収録されています。それもふじたきりんさんの似顔絵での対談が。

というわけで、シゴタノ!大好き!という方はお手にとって見てください。

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