この中で、「メモ」や「アイデア」の処理について話したのですが、実際この手の話は知的生産者を大きく悩ませます。
それは「メモ」や「アイデア」というものの性質に関わっています。
メモとは何か?
ツール的な「メモ」は、小さいノートやメモパッドを意味しています。付箋をここに加えてもよいでしょう。
対して、概念的な「メモ」は、一時的な書き留めの総称であり、その内容がなんであれ期間限定の用途であれば、それらはすべて「メモ」と言えます。具体的なタスクが書いてあっても、タスクの前段階の思いつきが書いてあっても、文章のネタが書いてあっても、それらは「メモ」なのです。
「メモ」の内容が多様であるのですから、「メモを処理する」行為も多様でなければならないでしょう。具体的なタスクと、タスクの前触れと、文章のネタをすべて同じように処理するわけにはいきません。それをしようとすると、どこかに無理が生まれます。
しかし、「メモを処理する」という言い方をしていると、あたかもそれが単一のアクションのように思われてきます。そうなると、混乱してくるのです。
実際は、GTDのワークフローをさらに複雑にしたようなものが必要になってきます。
アイデアは行き場がない
書き留められたメモの中には、当然「アイデア・メモ」と呼びうるものも入ってきます。これがまた厄介な存在です。
人間の着想や発想というものは、簡単にコントロールできるものではありません。それはまさに「思いつく」というような、ある種受動的な行為なのです。だから、そのとき抱えているプロジェクトがあるとして、そのプロジェクトに関係するアイデアだけを思いつく、ということはまずありえません。非常に雑多な、それこそ「これって、何に使うんだろう……」と困り果てるような思いつきがバンバン浮かんできます。
そうしたアイデアは基本的に行き場がありません。セーフティーネットのように意識的に受け止めるための網を作らない限りは、ぼろぼろとこぼれ落ちていくのです。
情報を保存する装置に、プロジェクトA・プロジェクトB・プロジェクトCと、すべてのプロジェクトの情報を保存できる構造を作っていたとしても、「その他」を保存できる構造がなければ、大半のアイデアが逃げていってしまいます。
アイデアは新しいカテゴリを生む
それだけではありません。
発生したアイデアの中には、そうした情報保存の構造を変化させるアイデアもありえます。
たとえば、プロジェクトAの中に、サブプロジェクトX・Y・Zがあるとしましょう。そして、ふと思いつきます。「サブプロジェクトZを切り離して、新しくプロジェクトを作り、プロジェクトBとプロジェクトCから、それぞれサブプロジェクトαとγを持ってきたらいいのではないか?」
もちろん、この思いつきもアイデアです。そして、このアイデアには行き場がありません。というかむしろ、自分で自分の行き場を生み出すアイデアです。
ということは、情報を保存する装置は、こうした構造の変化を柔軟に受け止められる性質が必要になります。そうした性質がなく、既存の構造が固定化されていたり、新規の構造を立ち上げられないのであれば、かなり重要な(むしろ本質的な)アイデアの大半が受け止められないままに死んでしまいます。
さいごに
その意味で、Evernoteはこうした「メモ」を受け止めるのに最適な構造をしています。もちろん、WorkFlowyも同様です。
- どのような内容のメモでも作成できる
- 既存のカテゴリに当てはまらないメモでも作成できる
- 情報の構造を作ることができ、さらにそれを変化させられる
最低でもこれぐらいの機能があり、その中身が「アイデアのるつぼ」となりうるようなツールでないかぎりは、アイデアメモを受け止めきることはできないでしょう。
特に重要なポイントは「行き場のないものの生き場」があるかどうかです。この有無で、アイデアの豊かさはずいぶんと変わってきます。
▼今週の一冊:
先日映画を観たので、積んでいた原作を読みました。いや~、面白かったです。
軽快な会話文とゴリゴリのSF要素が見事なバランスで一つの作品の中にまとまっています。あと、マークの姿勢がいいですね。たいへん共感を覚えます。暗いところのない、非常に前向きな作品でした。
Follow @rashita2
「行き場のないものの生き場」があるかどうかの重要性は、人間社会でも同じことが言えるかもしれませんね。というわけで、8月28日に東京でイベントを行います。ほとんど間違いなく面白いイベントになるかと思いますので、ぜひどうぞ。
» Lifehacking.jp:夏の知的生産 & ブログ祭り 2016年8月28日 – こくちーずプロ(告知’sプロ)
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由