あなたはどれだけ待てますか―せっかち文化とのんびり文化の徹底比較 | |
Robert Levine 忠平 美幸
草思社 2002-06 おすすめ平均 |
このレッスンは、いずれも「時間感覚」関することです。引用もとの『あなたはどれだけ待てますか』は、社会心理学者による「文化的な時間認知研究から得られた教訓」ですが、明らかにこれは、人との関係を円滑に進めるのに役立ちます。
というのも、人間関係の中で生じるトラブルは、大半が「時間に関する感覚の不一致」によって起きているからです。「なかなかメールを返してこない」「〆切を守らない」「よく遅刻する」「ペースがのろい」「早口すぎる」「どんどん先へ行ってしまう」「間が悪い」などなど、いずれも時間に関わることであって、ビジネスに関する批判の中から、時間に関するものを取り除いたら、批判自体半減するでしょう。
著者のロバート・レヴィーンが指摘するように、文化による時間感覚の違いは、とても大きいものです。が、個人によるその違いも、かなり大きいのです。せっかちな人はマイペースな人からストレスを受け、マイペースな人はせっかちな人からストレスを受けています。時計の時間は全く客観的ですが、それをどう解釈するかは、いうまでもなく主観的です。誰もが、自分の時間感覚を、かなりまっとうなものと信じ込んでいるのですが、それが仕事の人間関係にストレスを与えあう原因になっています。
以下の5つのレッスンは、そのストレスを減じるために考案されたものです。なお、レッスンは本当は8つあるのですが、うち3つは、完全に「異文化間コミュニケーション」に属する話題のため、ここでは割愛します。
レッスン1 時間を守ることについて、約束時間を解釈できるようにする
これは「解釈できる」という点が、ポイントです。「約束時間」というものは、しばしば多義的な意味を持っています。たしかに、『あなたはどれだけ待てますか』によく出てくる、ブラジル社会のような「約束時間」は、日本ではあり得ないでしょう。
それでも、遅刻すること、遅刻されること、間違えること、間違われること、それからわざと遅れてくる人など、「約束時間」をいったん取り決めてしまえば、いろいろな「事件」が発生する原因になります。時間ぴったりに誰もが来ればいい。日本では確かにそれがベストですが、その日本でも、そうでないのが現実です。
あなたが仮に「待ち合わせ10分前」には必ず待ち合わせ場所に着く人だったとしても、相手もそうだとは限らないし、その場合何分まで待つべきなのか? 連絡は何分後に入れるべきなのか? 気のもめることはたくさんあり得ますし、その一つ一つがストレスとなりうるのですから、どの人との約束はどのような意味を持つものか、常に「意識化」(言語化)できた方が賢明です。
レッスン2 仕事の時間と社交の時間の境界線を理解する
著者によれば、「日本の場合、仕事の時間と社交の時間を区別するのは無意味なことが多い」ようです。これは、この著者の知る「日本」がやや古いということにもよります。「社交の時間もおおかたは仕事のうち」だというのです。今でもそういう組織は存続しているでしょうが、そうではない会社もけっこうあるでしょう。
「仕事の時間と社交の時間の境界線」は、とても大事な概念です。「これがあいまいだと、ストレスを感じる」という人は、「これがあいまいでなければ仕事にならない」という組織で働くのは、避けた方が賢明です。この感覚は、簡単に変えられるものではないからです。
いわゆる「組織の文化」(会社の文化)によって、この辺の考え方は全くちがいます。「かっちり分かれていると、ストレスを感じる」(休日病)という人もいるのです。自分はどういう人間で、相手はどうなのかを、やはり意識化しておいた方がいいでしょう。
レッスン3 待機戦術のルールを学ぶ
要するに、「待ちかた」の問題です。著者は、「待つ」ということは、1つのメッセージを発している、というように考えていて、これは外国暮らしで苦労したことのある人には、すぐわかることです。
レッスン1にも関係しますが、「待つ側」であることが当然の立場において、暗黙に「期待されている待ちかた」があるというわけです。それが常に「礼儀正しくじっと待つべき」とは限らないのが、面倒なところです。状況によっては、「自分は(目上の人でも、あるいは目上だから)遅れていくから、先に始めていて欲しい」ということもあるからです。
理不尽といえば理不尽ですが、この「期待された待ちかた」ができなかったといって、「遅れてきた人」に責められるということが、実際に起こるのです。
レッスン4 一般に受け入れられている順序を問う
ビジネスという話になると、これが一番大事な点かもしれません。ただし、個人差のことまで考慮すると、これが一番難しいレッスンにも見えます。
著者は、恋愛と結婚、というテーマを持ち出していますが、いかにも異文化研究家らしいテーマです。これと同じように、私たちには、切り出しのタイミング、頼み事のできる関係、断るタイミング、などの「問題」を抱えています。
ここには、「タイミングを誤る」というストレス源もありますが、それよりもずっと、「タイミングを見いだせない」ことによるストレスの方が、多いように思えます。頼まれごとの多い人や有能な人は、この点を戦略的に活用して、「タイミングを見いださせないようにする」というテクニックを使う人もいます。
こういうときには、「一般に受け入れられている順序を問う」のが、ベストの戦略のようです。すなわち、周囲の意見を聞いたり、「日本文化においては、このタイミングで物事を頼むのは、ありだろう」というような判断に頼ることです。
レッスン5 出来事時間か、時計時間か
私の知る限り、もっとも典型的な「出来事時間と、時計時間」の衝突とは、会話中にかかる電話です。とくに、打ち合わせ中の電話がいい例です。
「時計時間」を優先するなら、「約束の時間」を使って進行させていることを、優先的に進めるべきです。なぜなら、「先に」約束していたのですから。が、「出来事時間」を優先させるなら、「電話を取る」ということになるかもしれません。もちろんそれは、「大事な人からの電話」だからということでもあります。
「〆切の問題」もここに入ります。「〆切」はもちろん、「時計時間」による約束ですが、優先させなければならない「出来事時間」は確かにあるでしょう。極端な例として、「病気」や「災害」があげられます。本当に起こったことであればもちろん「親族の死」も大事な「出来事」です。
「時計時間」をどれくらい重視する人と仕事をしているかによって、守るべき事項と、ストレスを受ける可能性は、大幅に変わってきます。ちょっと見ていれば、この点は察しがつくようになるものですので、気をつけてみていると、得るものは大きいでしょう。
おかげさまで、『1日1箱の仕事術』重版が決定いたしました!
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残業ゼロの「1日1箱」仕事術 | |
佐々木 正悟
中経出版 2009-05-30 |