まず、二、三帖の紙をとって、三日の間続けざまに、嘘や気取りを交えずに、諸君の頭に浮かんでくることを全部、何から何まで書きつけるがよい。諸君が自分自身について考えていること、諸君の女たちのこと、トルコ戦争、ゲーテ、フォンクの犯行経過、最後の審判、諸君の上役、こういうことを書くがいい——そうすれば三日後には、諸君は新しい、思いもよらなかった思想を持つようになったおどろきのあまりに、すっかり我を忘れてしまうだろう。
『フロイト著作集9』
拙著『ライフハック心理学』(東洋経済新報社)に引用させていただいた箇所ですが、ここを読んで、「ぜひ自分もやってみよう!」と思われた方は多いようです。
ただ、いかんせん、「そうすれば三日後」にひっかかるのでしょう。三日間、こういうことをやっている余裕がないのが、ビジネスパーソンというものかもしれません。だからといって、保証があるのならともかく、休日の三日間をこういう実験に費やす気にはなれない。
そういう方が多いのは仕方がないと思っています。そんな場合には、この「ベルネ書き出し簡易版」で練習してみるとよいでしょう。
スキャッター・マップ
できる人は5分間で仕事が終わる (Wish books) | |
マーク フォースター Mark Forster
幻冬舎 2003-12 |
「スキャッター・マップ」という聞き慣れない語は、マーク・フォースターの造語です。この人はとにかく、「先送り撲滅」をメインテーマとしている人です。
言うまでもなく、先送りこそ最悪だ、という信念を持っている人は、先送り癖で自分が悩んでいるのです。だからあの手この手を発案するわけです。この「スキャッター・マップ」もその1つですが、心理のもつれを紙に書き出して、問題解決の糸口を探るという点で、「ベルネの書き出し」とやることは似ています。
ただし規模がとても小さく、目的も限定的。先送り撲滅です。他の使い方もできそうですが、フォースターが紹介している使い方は、先送り撲滅が第一です。
スキャッター・マップには様々な用途がありますが、特に注目したい用途は、一日の仕事に対する心の準備に使うことです。「今日一日で何をしようか」を考え、浮かんでくる文章を紙の上にばらまいてから一日をスタートできれば、「土地が耕され」ているようなもので、仕事が楽になるでしょう。(p192)
書き方は簡単で、A4ほどの大きさの紙に、思い浮かんできた文章を書いていき、つながりのある考えが見つかれば、それを矢印で結ぶ、というだけです。
ここでテーマを「仕事」に絞れば先送りや脱線を防ぐのに有用だというわけです。実際私もほぼ毎日やっていますが、大変役に立ちます。ただ私の場合、タスクシュート(Toodledo)の補助用としての利用ですが、タスクとしては表現されない、感情的な問題の解決に役立っています。
このようなものは、ベルネの書き出し同様、こうやって紹介してみると地味です。しかし、毎日のようにやっている人は少ないし、フォースターのようにルールを決めてやっている人も少ないのです。この種の「マインドハック」は、型を決めて習慣的に繰り返すことで、強力なツールとなるのですが。
抽象的な評価には意味がありません。「結局、頭の中の考えを書き出して整理するってことでしょう?」という類の評価のことですが、結局、そうなのですが、この言い方はパソコンについて、「結局、機械でしょう?」というようなもので、使わない理由にならないのです。
以下に、「スキャッター・マップ」のルールを引用しておきますが、これは「ベルネの書き出しに3日間もとれない」という人には、うってつけの「簡易版」です。できれば「先送り撲滅」以外の用途で使用してみると、いっそういいでしょう。著者本人が確かにやっているというところが、やはり優れたライフハックなのです。
・できるだけ完全な文章で書く
・紙の中央から書き始め、「ここが良い」と思うところに考えをばらまく
・つながりのある考えが見つかれば、2つの考えを矢印で結ぶ
『知覚は幻 ラマチャンドランが語る錯覚の脳科学』
あんまりシゴタノ!には関係ないムックなので、近頃はこうしたものの紹介は控えておりましたが、やっぱり『脳の中の幽霊』のラマチャンドランの話は面白いのです。
「知覚は幻」と言い切ってしまっていることに、反対したくなる直感は誰しもお持ちでしょう。錯視をはじめとした様々なトリックと理論が、その直感に挑んできます。
一冊まるまる読んだら、世界が変わって見えるかもしれません。その後の保証はできませんが。