- 人は「未来」について「今」の気分を基準に考える
これは言い換えれば、「未来」は「今」の気分の影響を受ける、ということです。
「俺はもうダメかもしれない…」という気分の状態で明るい未来を思い描くことは難しいでしょう。
逆に「この勢いなら何でもできる!」というテンションであれば、そこから紡ぎ出される未来は暗くなりようがないはずです。
実現したい「未来」に最も互換性の高い「今」を当てる
たとえば、顧客からのクレームの電話に対応しなければならない局面。ここで実現したい「未来」は「誠意を持って顧客の言葉に耳を傾け、真摯にお詫びをしたうえで、今後の対応について納得のいく説明をしている」といったイメージでしょう。
このイメージを具現化するに当たって、この「未来」の自分と「今」の自分とのギャップが大きいほどに、難易度が上がります。
もし、過去において、このイメージに近い局面があり、これにうまく対処できた経験があれば、「そのときの自分」を“召喚”することによって、少なくとも「今の自分」よりはましな結果が得られるはずです。
このときに欠かせないのが、「そのときの自分」が当時どのような状況に置かれていたのか、すなわち、どんな本を読み、何を食べ、どのような目標をもって過ごしていたのかといった記録です。
ベストは日記を書いていること。
日記さえあれば、読み返すだけで済みます。読み返すことで「そのときの自分」が一時的に脳内にロードされるようなイメージです。
↓まさにこういうことです。
» 日記を読み返すと過去の自分と一体化できる。その効用とは?
数年~数十年前の日記を読み返すことがあります。読み返しているうちに当時の記憶が蘇り、日記の行間、すなわち日記に書かれていないことも思い出され、当時の気持ちもよみがえり、まるで頭の中だけタイムスリップが起こったかのような錯覚に陥ることがあります。
このことは特に「うまくいっていたときの自分」を再現するうえで役に立ちます。
役者は役作りのために演じる役の日記を書く
ジョエル・シューマカーという映画監督が、役作りのために役者に演じる役の日記を書くことをすすめている、という話をしていました。
「タイガーランド」(2011年)という自らの監督作品の音声解説の中でしたが、
- 両親のこと・兄弟のこと
- 住んでいた場所
- 通学のルート
- 通った学校のこと
- 初めての性体験
などなど、「その役を演じる前に全人生の日記を書く」のだといいます。
この話を聞いて「ここまで詳しく書くのか!」と、いたく感銘を受けました。
僕がこの映画を観たのは10年前の2007年2月18日ですが、ストーリーはおぼろげにしか覚えていないのに、この音声解説の内容は折に触れて思い出されるほどです。
「役作り」というと具体的に何をすればいいのかがわからず途方に暮れてしまいそうですが(ベテランの役者は「役作りといえばこれ」というルーティンがあるのかもしれませんが)、そこへ「日記を書いたらいいんだよ」とアドバイスをもらえれば、「あぁ、それならできるかも」と、ネクスト・アクションが明確になるので良いですね。
日本でも、中村優子さんという女優が、やはり役作りのために日記を書いているそうです。
少し長いのですが、紹介記事を引用します。
» 体に染みついていればどんな気持ちも乗せられる | ピックアップ魂 | 役者魂.jp
― 日記?
そう、秋代日記。
役に入る前に、最初に菊池と出会ったときのことから書いていって、演じている期間もずっと続けました。
自分の五感に影響を与えるようなこと……例えば「風があたたかかった。夕陽が赤かった。菊池はオレンジのTシャツ着ていて、指がすごく細くて、目が離せなかった」とか、そういったことを想像でずーっと書いていったんです。
― じゃあ、菊池のどこに惹かれたのか、なんで秋代はホテトルをやったのかとか、そういったところまで?
そう。秋代があの仕事をしているのは、菊池と出会ってしまったからです。
好きすぎて、こわくて、気持ちを言えない。手に入れたら失うかもしれない、友達の関係が壊れてしまうかもしれない。でも、さみしいじゃないですか、好きな男に抱かれることができないなんて。それで自傷的にホテトル嬢をやったんだけど、抱かれるほどに孤独になっていく。そういったこと全て書いていきました。
― それはリアルですね!
リアルですよ。最終的に1冊の日記になりましたし。(撮影が始まってからも)演じる中で、電話をしたり、居酒屋で会ったり、気持ちが動くようなときはわざと文字にのせたので、すごく丁寧に書いているときもあれば、殴り書きのようなときもありました。
後になって「ストロベリー」の原作を読み返したとき、日記で書いた言葉と同じような言葉が漫画の中にもあったんです。
やっぱり、同じところに向かっていったんだなあって感じました。
今でも読むと涙が出てきますよ(笑)。
これは想像ですが、このように演じる役の日記を書くことによって、実際の演技をする際に、日記に書いたこと(=体験したはずのこと)が自然な形で「しみ出す」ことになるのでしょう。
望ましい未来において、その場にふさわしい自分を演じる
「望ましい未来を実現させる」とは、言い換えれば「望ましい未来において、その場にふさわしい自分を演じる」ということだと思うのです。
そのために備えられることは、自らの人生という舞台での「役作り」、すなわち日々の日記を書き綴り、必要なときに読み返せるようにしておくこと、ではないかと。
そして、様々な人生に触れることも大いに役に立つと考えています。
たとえば、最近は、サイゼリヤの本(『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』、ニトリの本(『運は創るもの 私の履歴書』)、建築家の安藤忠雄さんの本(『安藤忠雄 仕事をつくる―私の履歴書』)などを読みあさっているのですが、目的は「役作り」の参考とするためです。
いずれの本も、得られるのは「再現性のあるノウハウ」というより「一回こっきりのストーリー」です。やり直しが利かない中で、どんな事態にどのように対応するのかを物語形式で採り入れることによって、それらが発酵し、やがて自分の中での「役作り」が進むと考えるからです。
» サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ (日経ビジネス人文庫)