42個もの発想技法を手にする一冊:『アイデア大全』



発想法の辞書を手に入れたいのなら、本書がまさにその一冊となってくれるでしょう。

» アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール


42にも及ぶ発想技法が、レシピ付きで紹介されています。

ノウハウと位置づけ

いかにして「新しい考え」を生み出すのか。それが発想法のコアです。

しかし、よくよく観察してみると、そのコアもいくつかの層で成り立っていることがわかります。拙著『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』では、それを着想・連想・整想という3つの連続的なプロセスとして位置づけました。本書が紹介する発想技法は、そのうちの着想および連想をカバーしています。言い換えれば、「思いつき」の促進であり、「思い広げ」のブートストラップです。

本書の特徴は、まずそのような発想技法を、多様なジャンルから42個も集めている点にあります。博聞彊識な著者ならではの百花繚乱です。しかも、それぞれの技法についてレシピ・サンプルがついているので、しっかり実用書として使えます。

それだけではありません。

各技法にはレビューもついていて、その技法がどのような経緯で登場し、どんな風に息づいてきたのかも解説されています。そうした知識は、それぞれの発想法を位置づけ、関連づける役割を持ちますが、それ以上に「この技法は、どんなときに使えばいいのか」を理解する上でも役立ってくれるでしょう。

逆に言えば、そうした理解を有していないと、どれだけ発想技法の知識を持っていても、「今使うべき発想法はどれだろうか?」を決めることは難しいかもしれません。万能の発想法などあるはずもないので、そうした見極めは大切になってきます。

もちろん見極めができたからといって、即座にその技法が「使える」わけではありません。発想法(発想技法)は、一つのノウハウであり、メソッドです。それは使ってみることでしか習得できません。言わば、使用を通して、脳にインストールするしかないのです。

つまり、まずざっと発想技法について知り、その後、使うべきタイミングを見極めて、実際にそれをやってみる。それを繰り返してくことで、徐々に発想法に脳が馴染んでいくはずです。

I can do it.

もう一つ、本書には隠れたメッセージがあります。

それは、発想という営み__強く言えば知的営為__は、誰にでも門戸を開いている、ということです。というか、私たちの脳は、本来的にその機能を有し、意識であれ無意識であれ何かしらの「発想」を日々生みだし続けています。ただ、そうして生み出されたものの大半は、「たわいないもの」として処理され、意識にはのぼらなかったり忘却されていくので、私たちはそのことにあまり気がついていません。

素晴らしい着想だけに注目すれば、それは周期の長い間欠泉のように思えますが、本当は絶え間なく水が湧き出ているのです。

発想法は、その噴出を促進したり、体系づけたりしてくれます。つまり補助なのです。発想法を身につけたからといって、「噴出」という機能が脳に付与されるわけではありません。それはもともと誰もが有しているのです。

そもそも、発想という行為を、方法(ないし技法)の体系に位置づけて紹介するためには、その行為が「誰にでもできうるものだ」という確信がなければいけません。特定の限られた人にしかなしえないなら、それはノウハウとは言えないでしょう。すべての「発想法」のおおもとには、人間に対する信頼が潜んでいます。

人間の脳は節約家なので、「できない」と思えることに認知エネルギーを割いたりはしてくれません。「できる」と思えること、「なしえる」と感じることならば、しぶしぶであっても認知のガマ口を開いてくれます。

つまり、いささか精神論めいた話ではありますが、「発想という行為を自分はなしえる」と思うことが、その噴出促進の出発点となります。

実行をサポートする情報がついたノウハウの発信は、実際の行動の促進だけではなく、そのような認知的スタートを切る補助ともなってくれます。

さいごに

冒頭の「まえがき」には、次のように書かれています。

 本書は、〈新しい考え〉を生み出す方法を集めた道具箱であり、発想法と呼ばれるテクニックが人の知的営為の中でどんな位置を占めるかを示した案内書である。

本書を通じて、まず自分がそれをできると信じること、そしてその内容と文脈を理解すること、最後にそれを実践すること。それが読者が辿る一つの道ではあるでしょう。

とは言え、ただ読んでいるだけでも面白い本であることは、ひと言添えておきます。

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▼編集後記:




本当にどうしようもないのですが、こういう本を読んでいると自分でもまた発想法についての本が書きたくなってきます。サガです。あるいは職業病なのかもしれません。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


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