着想ロングテールをつかまえろ



人の脳は、なかなかすごい記憶装置です。

恣意的にコントロールするのは難しいのですが、記録やその整理を自動的に行ってくれます。だから、何一つメモを持ち歩かなくても、大切なことは結構覚えていますし、スーパーを歩いていたら、「そうだ、トイレットペーパーが無くなりそうだったんだ」と思い出すこともあります。

そういう力があるからこそ、私たちは概ね問題なく生きていけるわけです。

かといって、それが完璧完全というわけではありません。かなりの取りこぼしもあります。また、「大切そうでないこと」はより多くこぼれていきます。

だからそう、着想ロングテールなのです。

ロングテールとは

「ロングテール」は、クリス・アンダーソンが『ロングテール』で提唱した概念です。

ロングテール(英語: the long tail)とは、インターネットを用いた物品販売の手法、または概念の1つであり、販売機会の少ない商品でもアイテム数を幅広く取り揃えること、または対象となる顧客の総数を増やすことで、総体としての売上げを大きくするものである。

※ウィキペディア「ロングテール」より


※同上

グラフ左側の縦に伸びた部分が主力商品で、その売上げが大半を構成するものの、その他少量しか売れない右側の平たく伸びた部分もそれを合計すれば主力商品に劣らない売上げになり、そうした商品群を展開できるオンラインのショップはトータルでの売上げが非常に大きくなる、という現象がロングテールです。

これを記憶に置き換えてみましょう。

記憶のヘッド

私たちの脳は、生活における基本的なことをだいたい記憶してくれています。それによって、概ねは問題なく日常生活が回せます。

これは、ロングテールの左側の部分(ヘッド)の領域を脳が担当してくれている、ということです。その代わり、脳は雑多なことに注意を払いません。さすがにそこまでの余力はないわけです。つまり、ロングテールの部分は切り捨てられているのです。

もちろん、それでも大丈夫なのですが、境界線のぎりぎりにあるようなことは問題が生じるかもしれません。「再来週までに、この作業やっておいて」は、覚えておくべきかそうではないかは微妙なラインです。そうしたものが、ときたまトラブルを生じさせます。だからこそ、タスクリストなどを使い、それを記憶領域から記録領域へと移動させるわけです。

ここまでは、多くの人がそれとなくやっていることです。

記録のロングテール

ロングテール部分の有無が問題となるのは、発想における領域です。

「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」

有名な定義です。そして、組み合わせを考えるためには、最低でも記憶にそれを登らせなければいけません。その記憶は短期記憶かもしれませんし、長期記憶かもしれません。ともかく脳内に登らないことには操作はできないのです。

先ほど紹介した「覚えておきたいことを忘れないためにメモする」という境界線ぎりぎりをカバーするメモは、扱える情報の総量自体はたいして増えていません。それはつまり、アイデアの素材となる「既存の要素」が増えていないことを意味します。

対して、「ともかく思いついたことはなんでもメモしよう」という姿勢は、まさに着想のロングテールを実現するものです。そうして記録するメモの大半はまったく役立たずか、ごく僅かに役立つくらいでしょう。しかし、それを総合するとバカにできない規模になります。また、扱える「既存の要素」が増えるので、アイデアを生み出す組み合わせの可能性も飛躍的に向上するのです。

さいごに

こう考えると、メモする派としない派がいる理由がよくわかります。

左側のヘッド部分で仕事ができる人はメモの必要はありません。しかし、そこに力不足を感じる人は着想のロングテールを活用するためにメモを使うのです。そのあたりは当人の脳のスペックと求められている仕事によって変わってくるでしょう。正解はありません。

しかしながら、手書きのメモでは本当の意味での着想のロングテールは生かしきれていません。管理する手間が大きく、また検索ができないので埋もれてしまうメモが多いのです。

そのあたりの課題の解決が、デジタル知的生産ツールの一つの課題ではあるでしょう。

▼参考文献:

基本的には、販売・マーケティングのお話ですが、インターネットやデジタルで何ができるのかを考える視点においても非常に重要な一冊です。

» ロングテール‐「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


▼今週の一冊:

私たちの意識が、想像以上に無力であり、脳内では知られざるプロセスが多数進行していることを明らかにしてくれます。

後半の行為の責任と犯罪に対する処置の話も、議論駆動力がある提言と言えるでしょう。

» あなたの知らない脳 意識は傍観者である (ハヤカワ文庫NF)[Kindle版]


» あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


▼編集後記:




ここ最近、雑誌作りで他の人が書いた原稿をどうやって並べるかをずっと考えています。それぞれの持ち味を最大限発揮させつつ、全体の整合性を出すというなかなか難しい仕事なのですが、それはそれで面白さがありますね。さて、どうなることやら。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由


▼「R25世代の知的生産」の新着エントリー

» 「R25世代の知的生産」の記事一覧

▼「アイデアの育て方」の新着エントリー

» 「アイデアの育て方」の記事一覧
スポンサー リンク