ただし、そうしてメモするものには、複数の対象があります。また、粒度も多彩です。
一見「メモ」というと、走り書きで済ませるようなイメージがありますが、たとえば梅棹忠夫さんは「発見の手帳」を豆論文のようなもの__完全な文章__だと書かれていました。走り書きの一行メモと、豆論文には大きな違いがあります。そして、その機能にも違いがあるのでしょう。
面白いことに、メモは発想を引き寄せます。そして、それがある程度の大きさになると、次々に他のアイデアが「くっついてくる」ことがあるのです。
はじめにタイトルありき
書籍のアイデアは、物書きにとって生命線です。それが絶えたら、ご飯の種も絶えてしまいます。だから、日常的に書籍の企画について(ほとんど無意識に)考えています。
先日、ふと書籍のタイトルを思いつきました。「知的生産の技法」というタイトルです。
まず、このタイトルがなかなか良さそうです。面白そうな雰囲気があります。人間の脳とは不思議なもので、そうしたタイトルを目にすると、「じゃあ、その本にはどのような内容が書かれるだろうか?」という問いが立ち上がってきます。
その問いについてじっくり考えてみると、ぼんやりとその本の「輪郭線」が浮かび上がってきました。「あの要素とこの要素は必要だな」というのが見えてきたのです。一つのアイデアが触媒となり、次のアイデアを生み出すことにつながりました。
ここで注意してもらいたいのは、私は本の内容を考えようと思って、先ほどのタイトルを思いついたわけではない、という点です。タイトルのアイデアは本当に突発的な思いつきで、それ以上のものではありませんでした。しかし、一度それをタイピングしてみると、「じゃあ、どんな内容だろうか?」という問いが誘発されるのです。
その問いに引きずられるようにして、本の骨子が立ち上がっていきます。いくつかの章のイメージも膨らんできます。私はそういうとき、アウトライナーに項目を並べることもありますが、勢いのまま「はじめに」を書くことも少なくありません。
書籍における「はじめに」は、これからその本を読もうとする人への案内であり、その本の全体像を示し、概略を提示する役割を持ちます。だから、「はじめに」を書けば、アウトラインを書くのと似た効果が期待できるわけです。
「はじめに」が集める要素
そうして書いてみた「はじめに」は、以下のような文章となりました。
文章としては簡素であり、無骨さも漂いますので、少し手入れは必要でしょうが、おおよそこの本がどんな内容なのかはわかります。そして、面白そうだな、とも感じます。
そして、タイトルのアイデアが内容のアイデアを触発したように、この「はじめに」も、より具体的な内容に関するアイデアを触発します。言い換えれば、この「はじめに」を読んでいると、「あれについて書くだろう。で、あのことも書かなきゃいけない」という風に、ずるずるとアイデアが引き出されてくるのです。
自分がアウトプットしたものが、自分へのインプットとなり、それに触発されて出てきたアウトプットが、再び自分へのインプットなる。そんな循環構造がここにはあります。
「トップダウン」を装った
こうしたやり方は、一見「トップダウン」のアプローチに感じられます。テーマを決め、そこから章を立てて、さらにそれを細分化していく。そんなアプローチです。
しかし、感じるほどこのやり方は「トップダウン」ではありません。なぜならば、ここに書いた「はじめに」は、あくまで仮のものでしかないからです。
おそらく「あれについて書くだろう。で、あのことも書かなきゃいけない」と考えているうちに、章立てそのものも変わっていくでしょう。それで良いのです。語られるべき素材が、語られるべき順に並んでいることが重要であって、当初立てた計画をその通りに遂行することは目的でもなんでもありません。
いわば、ボトムアップの素材となるアイデアを引き出すための釣り餌。それがこの「はじめに」(仮)の役割です。
さいごに
タイトルのアイデアを書き留めるのも、「はじめに」(仮)を文章で書き下ろすのも、一種のメモです。
メモすると、第一に脳が軽くなります。作業空間が空いて、発想を呼び込む余地が生まれます。
第二に自分が書いたものがインプット素材となります。連想が連想を呼び、どんどん膨れあがっていきます。
最終的に発想を行うのは、他の誰でもない自分の脳です。だからこそ、そのスペックを十全に活かせるようにしたいものです。
まずは頭の中をメモすること。そして、そうしてメモしたものをもう一度頭の中に入れること。たったこれだけのことですが、実行するだけで脳の使い方はずいぶん変わってくるでしょう。
発想におけるメモの重要性は、何度語っても語り尽くせるものではありません。今後も何度も語っていきます。
▼今週の一冊:
全面改訂版ということで、さっそく購入。
GTDは、さほど難しそうではありませんが、習慣として身につけるにはなかなか時間がかかります。たぶん、それが一番の問題なのでしょう。本書に書かれている通り、一字一句違わず実行するかどうかは別として、GTDが肝としているポイントだけでも身につければ、仕事の進めた・情報処理の仕方は大きく改善されるかと思います。
Follow @rashita2
鋭意制作を進めておりますが、一つ大きな締切があるので、月刊くらした計画の11月号は11月中には発売されない可能性が出てきました。気長に12月までお待ちいただければと思います。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» 知的生産とその技術 Classic10選[Kindle版]