『たすくま「超」入門』はいかにして作られたのか

11月5日に発売となった『たすくま「超」入門』は、セルフ・パブリッシングの電子書籍です。

著者は、熱狂的なたすくまユーザーのむのんさんで、私は原稿をEPUB化する形で、本書の制作に参加させていただきました。

電子書籍ならではといいますか、本書の制作は完全にWeb上のやりとりだけで行われたのですが__私はむのんさんとお会いしたことがありません__、さまざまなツールの助けを借りたこともたしかです。

というわけで今回は、この『たすくま「超」入門』がどのように制作されたのかを紹介してみます。

制作工程

制作のプロセスは2ステップとなりました。ここではコミュニケーションに使ったツールの名前を用いて、それぞれ「1.Evernoteステップ」、「2.ChatWorkステップ」と呼ぶことにしましょう。



一つ目の「Evernoteステップ」は、本作りの中心的な工程で、著者、EPUB制作者、ディレクターの三名が参加しました。

二つ目の「ChatWorkステップ」は完成した書籍を販売するための準備といったところです。ここでは、もう一名Webページや販売システムを設定する人間が参加しています(画像参照)。

大まかな流れとしては、Evernoteで原稿データのやりとり → ChatWorkで販売に関する打ち合わせ、をイメージしてもらうとよいでしょう。

Evernoteステップ

Evernoteステップは、まず参加者がノートブックを共有するところから始まりました。そのノートブックに、素材となる原稿を著者が投下していきます。ちなみに、皆がEvernoteを使っていたので、この準備は一瞬で終わりました。話が早くて助かります。



私はその原稿を受け取り(ようするにコピペして)、Scrivenerに貼り付けていき、EPUB用の調整を行います。Evernoteのノートが、そのまま綺麗なEPUBになってくれたらありがたいのですが(私の仕事はなくなりますね)、現状ではいろいろな調整が必要です。で、そうして調整した原稿を.txtファイルとして出力し、「でんでんコンバーター」に通します。

「でんでんコンバーター」で、あっという間に出来上がったEPUBを、今度は私がEvernoteにアップします。それを著者が確認して、修正の指示などをさらにEvernoteに書き込み、それを受けて私が修正版のEPUBを作成する、ということを繰り返しました。

ちなみに、このステップでは原稿やファイルの共有だけでなく、コミュニケーションにもEvernoteを使っています。Evernoteには少し前に実装された「ワークチャット」という機能があるのですが、それを使った__わけではなく、情報連絡用のノートを一枚作り、そこに掲示板のように書き込んでいく使い方をしました。

※書き込みの一例


案外、こんなシンプルなやり方でもやっていけるものです。

EPUB作成のミニサイクル

エディタで書いた原稿と、出来上がったEPUBファイルには、見た目の違いが結構あります。リフローという点もありますが、パソコンとスマートフォンのディスプレイ・サイズの違いといった点もあります。

そこで私の仕事は、「とりあえずEPUBはこんな風に見えますよ」というところからスタートしました。最初から本の全体を作り込んで提示しても、「これはちょっと違うかもしれない」と大きな修正が入る可能性があります。それはあまり効率よい進め方とは言えません。そこでまず、一節程度の分量でEPUBファイルを作成し、見出しや本文がどのように見えるのかを確認してもらいました。

そこからテキスト周りの微調整を行い、テキストだけのフル・バージョンを作成し、それらがすべて終わってから画像入りバージョンを作成しました。

本書の特徴としてたくさんの画像があるわけですが、最初から画像ありバージョンを作るとファイルサイズが増大化し、取り回しが悪くなります。それを回避するために確認用にテキストだけバージョンを作ったわけです。こうすることで、まずはテキストだけを確認し、次は画像だけを確認するという作業の分割もやりやすくなります。

一見、細かくステップを刻んでいくやり方は、手間が多いように感じますが、実際は一つ一つの作業のボリュームが小さくなるので進めやすくなる利点があります。参加者全員が「EPUBの熟練者」でないかぎりは、こうして進めていった方が良いでしょう。

ChatWorkステップ

EPUBファイルの最終版が完成した後は、ChatWorkにコミュニケーションの舞台を移しました。

ここで価格設定や宣伝文の検討が、侃々諤々に__ということはなく始終ブレスト的雰囲気で行われました。というわけで、ここのステップでは特筆すべきことはあまりありません。

私としては、一つのツール(この場合はEvernote)で完結している方が好ましいのですが、それでも細かいやりとりをするならば、何かしらのチャットツールを使った方が便利ではあるでしょう。

» ChatWork(チャットワーク)を2ヶ月使い続けて実感している3つのメリット

» チャットワーク(ChatWork)


さいごに

というわけで、一連の制作工程を紹介してみました。

さて、お気づきになられたでしょうか。ここでは「企画会議」といったものが一切発生していません。基本的に、著者が書きたいことを書き、ディレクターがそれをディレクションした、というだけです。口うるさい人は、誰もいませんでした。
※ちなみにかわいい表紙イラストはイラストレーターの方に注文しました。

私も一応物書きではありますが「こう書いた方が売れます」みたいなことは一切アドバイスしていません(しようと思っても、そんな知識は持っていないわけですが)。結果として、著者のコンセプトがピュアな形で前面に出ている本になっていると思います。セルフ・パブリッシングらしい本、ということですね。

そもそもとして特定の分野で(熱狂的ではあるにせよ)限定的なユーザーしかないアプリの解説本など、普通の商業出版ではなかなか出てこないでしょう。そういうニッチな本が出てくることは個人的に楽しいことですし、そこに微力ながらも助力できたことを嬉しくも思います。

というわけで、「たすくま」にご興味ある人はぜひどうぞ。



▼今週の一冊:

拙著ではありますが、関連あるのでちょこっとご紹介。

セルフ・パブリッシングでは、上記のような工程をただ一人で進めることができます。とびっきりスピーディーかつ低コストで進められるわけです。

ただし、何も指針がないと始めにくいことは確かでしょう。というときに、役に立つのが以下の本です。「ベストセラー」を作る方法は書かれていませんが、スタートするためのやさしい手引き書にはなっています。

» KDPではじめる セルフパブリッシング


» KDPではじめるセルフ・パブリッシング (目にやさしい大活字)


▼編集後記:




というわけで、他の人の電子書籍作成もお手伝いしていたりするのですが、私の本業は物書きです。ええ、今月の月末には新刊の発売予定です……。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

» 知的生産とその技術 Classic10選[Kindle版]



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