ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』で以下のように述べています。
われわれは、どのように時間を過ごしたかを、記憶に頼って知ることはできない。
ときどき、自分が時間をどう使っていると思うかを記憶自慢の人にメモしてもらい、そのメモを何週間か何か月かしまっておいてもらう。その間、実際に時間の記録をとらせる。彼らが思っていた時間の使い方と実際の記録は似ていたためしがない。
ある会社の会長は、時間を大きく3つに分けていると自分では思っていた。3分の1は幹部との時間、あとの3分の1は大切な客との時間、残り3分の1は地域活動のための時間だった。6週間にわたって記録をつけてもらったところ、これら3つの活動はいずれに対しても、ほとんど時間を使っていないことがわかった。それらは、割くべきであると考えられていた時間にすぎなかった。例によって都合のよい記憶なるものが、実際にそれらの仕事に時間を使っているように思い込ませていたのだった。
昨年10月末から昨日にかけて、1冊の本の執筆に取り組みました(4月末に刊行予定;詳細は別途お知らせします)。
思い込みと現実との間には深い溝が横たわっています。
「まぁ、1時間もあれば終わるだろう」と踏んで始めた仕事が半日経っても終わらなかったり、「始めたら数時間はほかのことができないから今はやめておこう」などと言って先送りを繰り返していた仕事が、やってみたら1時間足らずで終わってしまったりとか。
そんなこともあり、1冊の本を書くのにいったいどれくらいの時間がかかるものなのかを数字として把握しておくために、例によってタスク管理ツールで記録している、今回の執筆に要した時間を取り出してみました。
執筆といっても、企画案を考える時間、編集者の方との打ち合わせをする時間、執筆に必要な参考資料を読み込む時間など、純粋に文章を書く時間以外にも様々な関連タスクが発生します。
そこで、ざっとデータを眺めて、以下の5つのブロックに分けて、ブロックごとに時間を集計してみました。
ブロック | 時間(h) | シェア | 備考 |
---|---|---|---|
1.企画案作成 | 24.21 | 20.3% | コンセプトと構成案を形にする |
2.打ち合わせ | 11.41 | 9.6% | 全9回実施(1回あたり平均1.27時間) |
3.執筆 | 49.65 | 41.6% | 25本+α |
4.執筆補助 | 9.19 | 7.7% | タスク管理、資料チェック等 |
5.リライト | 24.83 | 20.8% | 推敲、コラム執筆等 |
|
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合計 | 119.29 | 100.0% |
改めて数字で見てみると、いろいろな発見があります。例えば、
- 1.執筆時間は全体の5割(純粋な「書く作業」は思いのほか少ない!)
- 2.企画案を作る時間は執筆時間の半分(「考える時間」は想像以上に長い!)
- 3.リライトは執筆時間の半分(意外と時間がかかる!)
などなどです。
話が決まってから実際に原稿ができあがるまでにどのような作業があって、それぞれにどれくらい時間がかかるのかについての1つのデータを取ることができました。
これは例えば、スケジュールを立てる時に、どれくらいの時間を確保すればいいのかの見通しを立てる上での足がかりになるはずです。
それだけの時間が確保できないということであれば、その話は見送るか、今やっている仕事を減らすかの判断を早い段階に下すことができます。
自分がある仕事についてどれくらいの時間を要するものなのか、という数字を持っておくことは時間という資源を有効に活用する上での与件となるでしょう。