いつでもつきまとう難しい問題ですね。特にデータ量が膨大になり、私たちが忙しくなるにつれ、その問題はより難しさを増してきています。
さて、2007年のほぼ日刊イトイ新聞に以下のような記事を見つけました。
» ほぼ日刊イトイ新聞 – ねむりと記憶。池谷裕二+糸井重里
この記事の中で、脳研究の著作で有名な池谷裕二さんが実践されている、面白い発想の土台作りが紹介されています。
BGI環境
といっても、それほど難しいものではありません。いろいろな論文の文章をパソコンのスクリーンセーバーに設定し、それを常に流している、という方法です。
私たちははっきり意識して「見て」いなくても、目に入った情報は無意識下に影響を与えていると言われています。サブリミナル効果なんていうのも有名ですね。
ランダムに表示される過去の論文のアイデアが、今抱え込んでいる課題に対するインスピレーションを与える。そういうことも起こりえるでしょう。新刊『ハイブリッド発想術』にも書いたことですが、なにせアイデアは「既存の要素の新しい組み合わせ」なのです。
こうしたものは作業中に流している音楽と同じで、集中してインプット作業を行っているわけではありません。「よし、論文読むぞ」といった気合いも不要ですし、特別な時間を設定する必要もありません。なかなかお手軽です。
音楽ではBGM(BackGroudMusic)という表現を使いますが、こちらはBGI(BackGroudInspiration)と呼べるかもしれません。
では、これと似たような環境をiPadを使って作ってみましょう。
iPadのピクチャーフレームを使う
以下は「情報カード」と呼ばれる紙ツールです。ここに本から得られた知見や自分のアイデアを書き出します。一枚の用紙には一つのトピックスだけを書きこんでください。「情報カードなんて持っていない」という方は、別にアナログノートでも構いません。
これをiPadのカメラで撮影していきます。
そして、「写真」アプリで新しいアルバム(ここでは情報カードとした)を作成し、そこに先ほど撮影した写真を放り込みます。
アルバムが出来たら、「設定」アプリの「ピクチャーフレーム」の項目で、シャッフルをオンにして、アルバムを先ほど作成したものに指定しましょう。これで完成です。
後は、「ピクチャーフレーム」を起動して、作業デスクの横にでも置いておくだけ。ちょっとしたインテリア的扱いです。たまにチラチラと視線を向けて、内容を確認するだけでも十分でしょう。
これでBGI環境が出来上がりました。
こんな感じになります。。
「SuperAlbum」+Evernote
上の解説を読んで、「めんどくさっ!」と思われた方もいるでしょう。確かにあまりスマートな方法ではありません。無料であることと、ネットに接続出来なくてもOKなところが一応のメリットです。
有料のアプリを用いるなら、もう少しスマートな__そしてEvernoteを活用できる__方法があります。
使うアプリは「SuperAlbum」。さまざまなオンラインサービスの写真を閲覧することができる優れもののアプリです。対象サービスにはEvernoteも入っており、しかも動作速度がなかなか快適です。
基本的にやることは先ほどと同じ。インスピレーションの「素」になりそうなものをカメラで撮影・スキャナでスキャニング・画面キャプチャーを駆使してEvernoteに放り込んでいくだけです。その際、放り込み先は一つのノートブックに限定しておくのがよいでしょう。私の場合は「アイデアノート」という名前になっています。
あとは、「SuperAlbum」を立ち上げて、そのノートブックを「スライドショー」するだけです。ノート数が少ない内は「上映時間」は短いものですが、Evernoteを1年以上ゴリゴリと使っているとかなりの時間BGIを楽しめます。
実際にはこんな感じです。
さいごに
『知的生産の技術』の中で、著者の梅棹忠夫氏は次のように書いています。
カードは、ただそれになにかをかいて、保存しておけばいい、というものではない。カードは、活用しなければ意味がない。カードは、くるものである。カード・ボックスにいれて、図書カードをくるように、くりかえしくるものである。
残念ながらデジタルのEvernoteノートは情報カードのように「くる」ことはできません。しかしながら、大量の情報からランダムに表示できるというデジタルならではの「くり方」が可能です。
Evernoteにノートが増えたけど、全然見返せていないな〜という方は、BGI環境を作ってみるのがよいかもしれません。
ただし、今回紹介した方法で表示できるのはあくまで画像だけであり、テキストだけのノートはあっさり無視されます。私はこれを考慮して、自分なりに気に入ったTwitterの発言はテキストではなく画面キャプチャーで保存するようにしています。
この辺の問題を解決してくれるiPadアプリがあれば個人的には大変助かるのですが、なかなか難しいのかもしれませんね。
▼参考文献:
この分野に興味がある人は、必読と言ってもいいでしょう。現代にも活かせる知見がたくさん詰まっています。
拙著ですが、ここでこそっと紹介しておきます。発想作業に使えるiPadについても紹介してありますので、ご興味ある方は是非。
▼今週の一冊:
少し前に読了した本ですが、抜群に面白かったです。タイトルの通り、100個の思考実験が紹介されています。思考実験、哲学・倫理的なジレンマ、といった問題に興味がある方ならば楽しめるでしょう。あまりややこしいことは考えたくない、という人は近づかない方が賢明な一冊です。
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次の本の企画案をジワジワと練り込んでいます。ってずいぶん前から似たようなことを書いていますね。なかなか難しい工程ですが、だからこそ飽きずにこの仕事を続けていける、とも言えるかもしれません。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。