前回の続き。
仕事に限らず、何ごとも計画を立てたり準備を進めたりという「前段階」は楽しいものです。なぜなら──少なくとも目の前の「仕事」に前向きな関心を持っている限りは──計画や準備というのは「やっている気分」が味わえるからです。それでいて、“汗”はかきませんからますますうっとりできます。ある種の陶酔感を覚えるわけです。
言うまでもなく、この陶酔感を打ち破らない限り成果を手にすることはできません。つまり、取りかからなければ始まらないわけです。
ということで、取りかかるためのコツをこれまでのシゴタノ!のエントリーから厳選し、4回に分けてお送りします
最終回の今回は「「時間はまだある」と油断してしまう場合」にフォーカスします。
対策:外部の強制力に頼る
差し迫ったタイムリミット
このように、タイムリミットが生み出すプレッシャーと、時間枠を限定することで発行される免罪符が多くの人を物語の中に引き込むパワーの源と言えそうです。
このパワーを仕事に応用するなら、タイムリミットに加えて、“ハコ”のサイズを決めてしまうことでしょう。例えば、「これから3時間はこの作業に没頭する」という宣言のもとで、その時間は脇目もふらずに決めた作業だけに取り組むことです。
下着メーカーのトリンプ・インターナショナル・ジャパンでは、「がんばるタイム」という制度があり、これが社員の集中力を押し上げる上で一役買っているようです。
毎日12時30分から14時30分の2時間、私語、オフィス内の歩き回り、仕事の依頼・確認など個人の職務に関する以外のことを禁止する「がんばるタイム」と呼ばれる制度(1994年より実施)
トリンプは、「がんばるタイム」以外でも「仕事のスピードをアップさせるコツ」でご紹介した「残業禁止」や「管理職は毎年連続2週間の休暇を義務づけ」などでも知られています。
「24 -TWENTY FOUR-」も「24時間」ではなく「24日」だったとしたら、あれほどのスリルと緊迫感は生まれなかったでしょう。つまり、ハコのサイズに余裕がありすぎると逆効果になるわけです。
夏休みが40日もあるから子どもたちがついついだらけるのであって、これがもし4日だったら、あるいは4時間だったら、うかうかしていられないことでしょう。
「1日は24時間」ではあるのですが、本当に「24時間」と思っているとだいたい失敗します。なぜなら、その前提では睡眠や食事、あるいは入浴や着替えといった“固定費”的な時間の出費があることをすっかり忘れているからです。これらの時間を除くと、実質的には1日の可処分時間は10時間前後というところでしょう。
つまり、1日は10時間しかないのです。そうなると、「がんばるタイム」のような2時間の存在感が際立ちます。
僕自身は、平日は毎日15時から進捗確認のためのSkypeミーティングをパートナーとともに行っていますが、開始時刻が15時からと決まっているため、必然的に15時までにそれなりの進捗を報告できるように必死になることができます。
何もなければ、最終的なエンドに照準を合わせてしまうのが人間ですから、15時のような一日の折り返し地点を設定することで、メリハリがつくわけです。自分で決めているのではなく、人と約束しているために強制力が生まれます。つまり、簡単には動かせない締め切りで自分を一定の方向に追い詰めるわけです。
バッテリー駆動
カフェなどで仕事をすることがよくありますが、そういういつもと違う環境だと思いのほか仕事がサクサク進みます。なぜかを振り返ってみると、
1.席に居続けないといけない(トイレに行くにも荷物が不安なので)
2.人目がある(何となく監視されている気がしてきて勝手に集中できる)
3.バッテリー切れという“締め切り”がある(強制的に終わらせないといけない)
特に3のバッテリー切れという外部要因は意外と強力です。
カフェでなくとも、会議室やどこかの訪問先の会社のロビーなど、場所を変えてノートPCを開くことで同様の効果が得られます。普段とは違う環境のためにほど(良い緊張感が生まれ、バッテリー駆動による時間の制約が生じるからです。
また、あえてPCから離れ、本を1冊あるいは資料一束だけを片手カフェに行くのも良いでしょう。他にできることがないために──ネットどころかPCさえないので、だらだらしようもなく──目の前のことに集中しやすくなります。
有無を言わさず読書
読むべき本を持っているにも関わらず電車に乗り込んだら何となくぼーっと過ごしてしまうことがあります。もちろん、読む気になれないのに無理矢理ページを繰っていくのは苦痛でしかありませんから、こういう時は諦めて流れに身を任せるほかありませんが、そうであったとしても、少しでも読み始めればエンジンがかかる、ということもあるでしょう。
そんな微妙なシーンには、オーディオブックが向いています。
「忙しくて本を読むひまがない!」という人であっても、次のような“スキ”はあるはずです。
●朝起きてから家を出るまでの身支度をしている“スキ”
●家を出て駅に着くまでの歩いている“スキ”
●駅のホームで電車が来るまでの“スキ”
●電車を降りて会社までの歩いている“スキ”
●機械的な書類整理やシュレッダーがけをしている“スキ”挙げていけば他にもたくさんの“スキ”があるでしょう。これらの共通点は、
・目と手は多忙(ビジー)
・耳はひま(アイドル)という2点です。
上記に加えてもう一つ、やる気がなくても音声はどんどん進んでいきますから、ページをめくる気力がない時でもオーディオブックなら聴き続けてしまうという特徴が挙げられます。聴いているうちに気力が回復してきて、スイッチが入るのです。
僕自身、徒歩での移動中はたいていオーディオブックを聴くようにしているのですが、電車に乗ったら一時停止して読書に切り換えます。
とはいえ、なかなか読む気になれない時もあり、そんな時はムリに本を開くのではなく、そのままオーディオブックを聴き続けるようにします。そのうち思わずメモを取りたくなるようなフレーズが耳に入ってきて、それがきっかけとなって「やっぱり本を読もう」という気持ちが起こることもありますし、「この先をもう少し聴いてみよう」ということになることもあります。
いずれにしても、自分の意志だけではへこたれてしまうところを耳元の“伴走者”のおかげで何とか走り続けることができるわけです。
#本当にダメな時は普通にiPodで音楽を聴いています。
オーディオブックといえば、Febeさんにておすすめリストを公開しています。『スピードハックス』や佐々木さんの『快ペース仕事術』はじめ、僕自身が繰り返し聴いているオーディオブックなどをご紹介しています。
まとめ
今回ご紹介した方法を一言でまとめるなら
「自分では動かせない壁を作り、これに沿って走る」
ということになります。でも、「そうか、壁を作ればいいのか」ということではすぐには行動に移せないでしょう。
大事なことは、自分にとって仕事に取りかかりすい“レシピ”を複数持っておき、必要に応じてチョイスして使うということだと思います。今回の例でいえば、次のようなレパートリーの中から選ぶことになります。
・毎日15時からのSkypeミーティング
・カフェに本を持ち込む
・電車の中では本を読む
・電車の中ではオーディオブックを聴く
どの方法を選んでも、それなりに意義のある時間の過ごし方ができるもののはずですから、後から「時間がうまく使えなかった」とか「無為に過ごしてしまった」というように必要以上に自分を責めることは減るでしょう。小さなことであれ「うまく時間を使えた!」という成功体験が得られれば、それが継続のための後押しになるはずです。
▼関連:
・取りかかれない仕事対策1〜何となく気が進まない場合
・取りかかれない仕事対策2〜困難を前にひるんでしまう場合
・取りかかれない仕事対策3〜ついつい先送りしてしまう場合