先週のエントリーで「手術ノート」を紹介しました。内容を思い出しながら、ノートに記入することで体験を自身に深く刻み込んでいく、そんな使い方が「手術ノート」です。これはもちろん「手術」だけに限定されるものではありません。さまざまな体験を自分のものにしていくために、多少手間をかけても、反復・反芻することは不可欠だと思います。
読書も言ってみれば一つの「体験」です。手術ノートと同じような考えで、読書体験の価値を増大させることができるでしょう。今回は本の種類にあわせた読書のやり方について考えてみます。
読書前
読書前に気をつけたいことは三つの「A」を意識することです。三つの「A」とは
- アクション
- アテンション
- アッドアップ
この三つ。
アクション(行動)は、自分の行動を変える何かです。ノウハウ系の本を読む場合は、自分が今何に困っていて、何を変えたいのかを前もって意識しておくことです。
アテンション(注意)は、行動ではなく意識を変える何かです。ノウハウ系の本と同様に自己啓発系の本を読む場合にも、自分に足りていないものをあらかじめ意識しておくと、必要な部分が目に止まりやすい効果があると思います。
アッドアップ(まとめ)は、知識の体系化です。知識を吸収するための本の場合、自分の持っている知識の中でその本がどのあたりにあるのか、何に関連するのかをあらかじめ知っておくとより理解しやすいでしょう。
何を得たいのか、何を知りたいのかを事前に明確にしておくことで、読書中のアンテナが鋭くなります。また、書評を書くなどの目的意識があると「この本の中で重要なことはなんだろうか」といったことにも気がつきやすくなります。
いきなり本を読み始めるのではなく、「はじめに」の部分で感触を掴んだり、目次をながめたりしながら、読書前のウォーミングアップをやっておくと読書中の気づきが増えることにつながります。
読書中
どのような種類の本においても読書中に気をつけるのは、「気になった箇所に再アクセス」できるようにしておくことです。
気になった箇所は、面白いと思ったこと、重要なこと、ちょっと疑問を感じたところ、自分の行動に取り入れたいところ、クレドにしたいこと、などなどです。あらかじめ読書の目的がはっきりしていれば、その箇所もわかりやすくなっているでしょう。
再アクセスするためには、
- ページの端を折る
- 付箋を付ける
- 赤ペンで傍線を引く
- カメラで撮影する
などの方法が考えられます。この辺はまったく個人の自由です。私は赤ペンを活用していますが、3色ペンを使う方法もあります。何にせよ一番自分が面倒を感じない方法を選択するのがベストです。
その他、読書中に思いついたアイデアもどこかに書き留めておくと後で活用できるかもしれません。
読書後
一冊読み終えた後も、それで終わりではなくいくつかの行動が考えられます。
アクションの場合は、実際に取るべき行動を決めてしまうことです。健康を保つためにジョギングをやり始めるならば、プロジェクトを立てて、「ジョギングシューズを買いに行く」といった具体的な行動を決めてしまうことで、読みっぱなしを防ぐことができます。
アテンションの場合は、読書中にチェックした箇所を振り返りながら、「こういう心がけを持ちたい」という部分を抜き出しておくのが良いでしょう。単に抜き出すだけではなく、それを見返すことが重要です。日常的に持ち歩いている手帳に書き込んだり、Evernoteにテキスト化していれておき、毎日チェックしたりするのもよいでしょう。
アッドアップは、本の内容をまとめてみるのが良いでしょう。その本からキーワードを拾い上げ、関連性を提示することで、「その本がだいたい何を言っているのか」がより深く理解できるはずです。こういう場合にはマインドマップが効果的ですが、書評を書いて「誰かにその本を説明してみる」ことでも似たような事ができるはずです。
まとめ
今回は、学びのための読書をさらに活かすための方法を考えてみました。もちろん、全ての読書にこのような行為をする必要はないでしょう。私も小説などを読むときは、普通に読むだけで終わっています。
ただし、学びのための読書の場合「面白かった」で終わらせておくのは非常にもったいないことです。一度だけの体験ならば、人は驚くほど簡単に忘れてしまいます。それに対抗するには、感度を上げて読書を行い、読書後にそれを見失わないように何らかの形で定着化させることが必要です。
「これは!」と感じる本は、手間を掛けてでもじっくりと付き合った方が長期的に見て「お得」だと思います。
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▼今週の一冊:
本好きの人はある程度同意してもらえると思いますが、他の人の本棚を見るのはすごく楽しいです。どんな本を置いてあるのかだけではなく、どんな風に本を置いてあるのかを観察すると、その人の趣味だけではなく価値観みたいなものも垣間見ることができる__気がします。この本は31人の「センセイ」の本棚と書斎をイラストとエッセイで紹介してくれる本です。写真と違ってスケッチは非常に想像力を刺激するので、単に書斎を紹介しているのとは違った趣で楽しむことができます。他の人の本棚を覗いてみたいという方は、なかなか楽しめる一冊です。
二冊目の本の出版記念セミナーみたいなのが東京で開かれるとか、開かれないとかの企画が持ち上がっています。
具体的に決まったらまたこのスペースでお知らせします。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。