では、どんなことに使えるツールなのか。今回はそれを確認していきましょう。
リストを作る
アウトライナーの形状(UI)から真っ先に思いつく使い方は、「リスト」を作ることでしょう。
たとえば、「買い物リスト」や「やることリスト」を作るのに使えます。
簡単ですね。
ただ、簡単ではあっても、ここにはある種の知的プロセスが働いています。簡単に言えば「列挙」です。ある事柄について、関連する要素を並べ挙げているのです。これは立派な知的プロセスです。
あまりに日常的にすぎるので、こうしたリスト作り(リストアップ)にはたいした注意が払われていません。しかし、よくよく観察してみると、異なる二つの「頭の働き」があることがわかります。一つは、「買う物」としてすでに頭に思い浮かんでいるものを書き留める行為で、もう一つが「他に何かないか」と要素を探索する行為です。すごく難しく言えば、ここでは分析が行われているのです。
つまり、たとえ「買い物リスト」や「やることリスト」のように日常的な対象であっても、ここでは「知的」なプロセスが働いているのです。そういうプロセスを支えるツールがアウトライナーというわけです。
可変リスト
ただし、上記のようなリスト作りは、別段アウトライナーを使うまでもありません。他のデジタルツールでも可能ですし、なんならアナログノートでも可能です。
アウトライナーの特性はこうしたリストを「作った後から、動かせる」ことです。
たとえば、上記の二つのリスト(メモ)を作った後で、ふと思ったとします。
あっ、買い物に行かないと、と。
そういうことってよくありますよね。書いた後で、大切なことがわかったり、情報の関係性が見えたりすることって。
そういう際に、アウトライナーは自由にリストを変えていけます。
長くなりますが、その操作を追いかけてみましょう。
まず、「やることメモ」に「買い物に行く」を追加します。別段どこでもいいはずですが、なんとなく自分的に「机の上の本を片づける」の下が良さそうな気がします。そこで、「机の上の本を片づける」の末尾にカーソルを移動し、改行を入れます。
「買い物に行く」を追加します。
このリストの全体を眺めていると、当然のように上の買い物メモを関連づけたくなります。だったらそうしましょう。上のリスト(メモ)をこの下にドラッグしてきます。その際は、改行をして新しい項目を作っておく必要はありません。単にドラッグするだけでOKです。
これでもともと二つあったリストが一つに統合されました。すっきりしましたね。
で、さらにこのリストを眺めていると、『伝わる英語表現法』が二ヶ所に出ているのがちょっと気になります。この整理はちょっと悩むところです。スーパーに買い物にいったついでに書店にいくなら同一にまとめておくのが良さそうですし、別に出かけるならば別項目に置いておくのがすっきりします。
今回は同じ買い物ルートに加えるとして、それをまとめておくことにしました。ドラッグしてメモをまとめます。
そうすると、項目の名前がちょっと変な気がしてくるので、リライトします。重複していた項目も削除しておきましょう。
うん、これですっきりした感じになりましたね。
プロセスする
アウトライナーにおいて大切なのは、最後のような形を「最初から」作れることではありません。そうではなく、ぜんぜん別の形であったものが、いろいろな操作を繰り返していくうちに「最後には」落ち着く形に持っていける、ということです。そのための操作が非常に簡単に行えるようにデザインされているのがアウトライナーというツールです。
つまり、アウトライナーには「プロセス」があるのです。固定的な最終形を「どん!」と直接出すのではなく、まず思うところを大ざっぱに列挙して、それをちょこちょこいじりながら(プロセスしながら)、ちょうどいい形に着地させる、という行為が可能なのです。
でもって、それを非常に「厳かに」行うと論文執筆になるわけですが、実際は私たちの日常にそうしたプロセスの機会はいくらでも潜んでいます。それを単に頭だけで行うのか、それともツールの助力を得ながら行うのかの選択があるわけです。
さいごに
ここでもう一度「アウトライナー」という名称に含まれる「アウトライン」という言葉に注目しておきましょう。
この言葉は「概要」や「輪郭線」という意味を持ちますが、それを言葉通りに引き受ければいいのだと思います。つまり、入れ子状になったリスト(階層構造)という意味(≒前回確認した論文のアウトライン)ではなく、「まず思うところを大ざっぱに列挙して」というときの、「まず思うところ」や「大ざっぱさ」として捉えるのです。
そういうところから出発し、それを「プロセス」して、別の形へと変じていく。それを支えるツールがアウトライナーです。
だからこそアウトライナーは「考える」ためのツールだと言えます。「考える」ということの多くが上記のような知的操作を含んでいるからです。
とは言え、さすがに小難しい方向に話を振りすぎてしまった感があるので、次回はもっと実用寄りの話に戻ってみましょう。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。