情報を複数的に扱えるのです。
コピーに関しては、手書きのノートでもコピー機にかければ可能ですが、リンク的なものは簡単にはいきません。「四番目のノートの15ページに書いてある」と但し書きをすればリンク的にはなりますが、パソコンのリンク(ハイパーリンクと呼ばれています)と同じようにそれをクリックしたところで情報が表示されるわけではありません。距離があるのです。
デジタルの場合はその距離をぐんと縮められるのがポイントなのですが、情報を複数的に扱えることには更なるメリットもあります。メリットというか、アナログではほぼ不可能な管理が可能になるのです。
その好例がWorkFlowyのMirrorコピー機能です。公式ではMirrorsと呼ばれているこの機能は、いかにもデジタル的な管理手法を実現させてくれます。
デイリーにもプロジェクトにも
たとえば、WorkFlowyでPIMEを構築していたとしましょう。PIMEはPersonal Information Management Environmentの略です(筆者による造語です)。ようするにタスクとかメモとかプロジェクトとかの情報を扱う場所としてWorkFlowyを使っている、ということです。
そうしたとき、用いる情報構造にはいくつかのパターンが想定できますが、プロジェクトの情報とそれ以外の日々の情報を切り分けて管理するやり方が一般的かもしれません。プロジェクトとデイリーの項目をそれぞれ作る、ということです。
その切り分けは、頭の中のイメージとしては確立しやすいのですが問題があります。MECEにならないのです。簡単に言えば、両方の項目に所属させたいものが出てくるのです。たとえば、「プロジェクトAについて、検討したいこと」があったとして、それは「プロジェクトA」の項目に属しているのが自然ですが、それと共に「日々、考えたいこと」でもありデイリー項目にも属させたい気がするのです。
そうしたとき、WorkFlowyのMirrorコピーが活躍してくれます。片方で項目を作ったのち、その項目のMirrorコピーを別の項目に置いておけばいいのです。
プロジェクト項目とデイリー項目の両方に置く – Unnamed Camp
そうすれば、どちらの項目下で編集しても、相手方の項目も自動的にその編集内容が同期されます。つまり、デイリーの中で日々考えを進めていけば、プロジェクトAの項目を開いたときにも、その「考え」の結果が表示され、さらにそこで編集をしても、日々の考えを進めるときにはその結果が反映されている、という具合に「置いた場所を問わない」管理が可能なのです。
さすがにこれはアナログの管理ではいかんともしがたいところです。情報を複数的、多重的に扱えるデジタルならではの管理です。
自由度の高い管理
上記のような管理手法をとると、さまざまな管理上のメリットが生まれてきます。
たとえば、「プロジェクトA」という項目がどんな場所にあっても、「デイリー」内に配置されているMirrorコピー(あるいはその相方)には影響が出ません。仮に「プロジェクトA」が、何かしらの孫項目であり、階層の深い場所に配置されていても、ぜんぜん問題ありません。毎日開く「デイリー」には、「日々、考えたいこと」として該当の項目が表示されます。
また、WorkFlowyでは項目の移動が可能です。そして、よく行われるのは重要度や緊急度が高い項目を上にあげる、という操作です。コンピュータにとっては項目が上にあるのか下にあるのかは、行番号の違い以上の「意味」を持ちませんが、人間にとってはその「意味」に明確な違いがあります。上は大切で、下はそう大切ではない、という感覚が生まれやすいのです。
そこで重要度を「表現」するために項目を移動させるわけですが、ここにややこしい問題が出てきます。たとえば、目下のプロジェクトの優先順位として「プロジェクトA」はそれほど高くない場所にある。しかし、次のシーズンを見据えて、「「プロジェクトAについて、日々考えたい」の優先順位は上げたい。こういうねじれた格好にあるとき、項目の配置が難しくなります。
Mirrorコピーによる項目の重複配置が不可能であれば、「プロジェクトAについて、日々考えたい」ときには「プロジェクトA」の項目そのものを上部に配置しなければならないでしょう。しかし、感覚的にその配置は「どうにも、違う」感じがするのです。違和感が生じるのです。
そして、私の経験則からいって、そういう違和感は個人の情報ツール運用において致命的なダメージを発生させます。使う気がなくなってくるのです。
かといって、「プロジェクトA」の項目を上にあげないと、「プロジェクトAについて、日々考えたい」が実践されず、それはそれで目的を果たせないことになります。PIMEの機能が果たせていません。
そこでリンクです。難しく言えば、管理したい項目を異なる情報情報下におき、適切な文脈に配置することを目指すのです。
プロジェクトとデイリーの両方に項目をおき、普段の操作はデイリーで行えば、
- プロジェクトがどこにあろうと必要な項目はデイリーで日々目にできる
- デイリーの中で項目の優先順位を動かせる
- 不要になったらデイリーから削除すればいい(プロジェクトには残っている)
という管理が可能となります。非常に自由度の高い(≒プロジェクトの構造に制約されない)管理が可能となるのです。そういう自由さが、デジタルツールの最大のメリットと言えるかもしれません。
さいごに
以上のような話は、デジタルツールにおけるメリットのほんのさわりでしかありません。デジタルであることの奥深さはまだまだ眠っています。
一方で、私たちはアナログツールを長く使ってきました。現代で大人な人、それもそれなりの年齢である大人な人はかなり長期間アナログツールで情報を管理してきたでしょう。そうすると、その「管理の仕方」が一種の概念把握の基盤となり、その基盤を使ってデジタルツールを理解しようとしてしまいます。アナログツールと同じようにデジタルツールを使ってしまいがち、ということです。
無論、それで便利に使えているならば何も問題ないのですが、それはそれとして「デジタルツールなら、こんな便利なことできるじゃん」みたいな話にも光を当てていきたいところです。
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▼倉下忠憲:
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