テーマは「リスト」。このごくありふれたツールが、いかなる魔法を発揮するのか。仕事術や知的生産だけでなく、人生の生き方にまで射程が伸びた一冊です。
とりあげたい話題はたくさんあるのですが、今回は知的生産に焦点を絞ってみます。
知的生産の四つの力
本書では、知的生産を行う上での大切な力が四つ挙げられています。
- 構造力
- 情報処理
- 立体化
- 解像度
「構造力」は、情報から構造を読み取る力です。要点はなんなのか、論理はどうなっているのか、話の展開はどう組み立てられているのか。そうしたものを読み解けなければ、どうしても表面的な情報摂取で終わってしまいます。逆に、自分が誰かに情報を伝える場合でも、適切に構造化できなければその伝達は失敗に終わるでしょう。大切な力です。
「情報処理」は、私たちに流れ込んでくる大量の情報をいかにさばくのか、という点です。どれだけ知能指数が高くても、この世のすべての情報を摂取できるわけではありません。自分が読むものと、そうでないものを切り分ける必要がどこかで出てきます。それができないと、情報摂取によって混乱がより深まってしまう、ということすら起こりえます。注意が必要です。
「立体化」は、断片的な情報群をより高い視点でとらえる力です。点である情報を並べることで線にし、それと同じ粒度の情報を集めることで面にして、さらに違う軸で面を作って立体にする。複雑で、読み解きがいのある情報とは、そのような形でできています。欠かせない力です。
「解像度」は、情報をより精緻にとらえる力です。たとえば散歩中に草木を見かけたときに、「雑草」と思うのではあく、その名前がきちんといえるならそれは解像度が高いといえます。動物をみかけたときも、どこに生息し、どんな生態があるのかを知っているのと知らないのとでは情報の解像度に大きな違いがあります。当然、そこから生まれる発想も変わってくるわけで、知的生産には欠かせない力と言えるでしょう。
情報流通への参加
以上のような、四つの力を想定してみると、以下のような流れがイメージできます。
この世に存在する情報、あるいは誰かが構造化した情報を、自分が情報処理し、自分のレンズの解像度でその情報を読み解きながら、さらにそれらの情報を立体化して、さらに構造化する。そうして生まれる知的成果物が、また誰かの情報処理に晒されていく。そうした情報の流れが、この世界の情報流通だと言えるでしょう。
上記に挙げた四つの力は、その流れに参加するためのある種の資格(あるいは最低限の能力)といえるかもしれません。
本書によれば、そうした力を身につけるためにリスト作りが役立つわけですが、その詳細は本書に譲るとして、大切なのは以下の点です。
これはパターンがあるな、と思ったことならば、すぐにそれを親項目にしたリストを作って情報を整理すれば、新しいトレンドを発見し、自分の中で新しいジャンルを開拓することにもつながります。軸を作れば、そこに情報が集まるのです。
自分がある軸を設定すれば、その軸に沿って情報処理・情報摂取は進んでいきます。他の誰とも違う(少なくとも少しは違う)情報摂取が行われるのです。そして、そうした軸をいくつか組み合わせれば、自分なりの立体物、つまり知的生産物が生まれます。
イメージしてみてください。立方体は三つの軸で構成されます。同じように、ある程度のボリュームがある知的生産物もたいてい複数の軸で構成されています。そして、その軸の設定には決め事がありません。いくらでも自由に決められるのです。
このことを逆に見れば、ある程度のボリュームがある知的生産物は、それぞれの人にとっての「自分なりの立体物」になりうるのです。
ある人は「い・ろ・は」で軸を作るかもしれません。別のある人は「X・Y・Z」で作るかもしれません。仮にその両方で扱っている情報が似ていたとしても、やはりその知的成果物はまったく別ものとなります。軸が異なるからです。
だからこそ、自分なりの軸を設定することが大事なのです。
さいごに
本書にもありますが、リストというのは私たちが情報を扱う上での基本的なツールです。知的生産活動とは、どうみても「情報を扱う行為」そのものなのですから、当然のようにリストは欠かせないでしょう。
一番基礎的なものは、「ネタ帳」や「アウトライン」ですが、それだけがリスト活躍の舞台ではありません。さまざまな場面に、さまざまな用途にリストは顔を出します。ただの紙とペンに、これだけの効能があることに驚きを禁じ得ないほどです。
もしも日常的にリストを作る習慣がないならば、本書は知的生産だけでなくタスク管理を含めた仕事の進め方にも、大きな影響を与えてくれることでしょう。なにせ、どちらにおいても、「自分の軸」は欠かせないのですから。
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インフルエンザにて一週間お休みをいただきました。人生初インフルエンザで、人間というのはこんなに熱が出るものなのかと新しい発見をした次第です。あんまり熱が上がると、しんどすぎて、しんどいのかどうかすらわからなくなってくるという逆説的な状況になりますね。何はともあれ、回復しつつあるのはよいことです。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。