レビューレビューの方法 | 面白く本を読むための読者術

カテゴリー: R25世代の知的生産

前回は、定期的に観察してみたい本の紹介者、評価者を発見する方法を紹介しました。そうした人と(情報的に)つながっていれば、自分が知りうる本の範囲を拡大させながらも、ノイズを減らすことができます。

今回は、それとは少し違った観点から、レビューの見方について紹介してみましょう。ネットの作法としては基本的なものかもしれませんが、基本をきちんと押さえておくことも大切です。



レビューの三要素

ここでは、Amazonのカスタマーレビューのようなものをイメージして話を進めていきます。

まずそのようなレビューには、大きく三つの要素が含まれています。

プラットフォームによってはどれかが抜けている場合もありますが、たいていはこの三つで構成されているでしょう。これらの情報を使いながら、レビューそのものをレビューしていくことになります。

それぞれ見ていきましょう。

内容

まずなんといっても内容です。どんなことが書かれているのか──もちろんそれも大切ですが、分量にも目を向けてみましょう。極めて短いコメント、あるいはテンプレートをコピペしてきたような内容については、何の判断材料にもなりません。そうした内容については、無視あるいは保留しておくことが賢明です。

情報の評価においては、重み付けが重要になります。Aという情報があったときに、それをそのまま扱うのか、1/10にして扱うのか。そうした操作をしないで、「たくさんの人が褒めているから、良いに違いない」と考えるのは得策ではありません。「たくさんの人が褒めている」は、そのコンテンツのファンが多いこと(あるいはマーケティングに費用が投下されていることを)を示しているだけであって、自分にとってその本が面白いかどうかはまた別の話です。

その本の内容に直接関係ないことが書かれていたら、誰でもその書き込みは無視するでしょうが、判断に耐えうる情報が含まれていないものも、無視する(重み付けを0にする)のが良さそうです。

また、一見内容に関係あることが書かれている風であっても、著者を罵倒したい意図が見えるものや、レビュアー自身の評価を高めたいが故に難癖つけているようなものに関しては、重み付けは0で良いでしょう。そういう文章にもそれなりの価値はあるのでしょうが、自分の本選びという観点からすれば、無視して構いません。

星は、五に近いほど良い印象を受けますが、それはあくまで「その人にとっての」という評価であることを忘れてはいけません。その人が、どのような基準で星一〜五を選択しているのかわからなければ、星の情報から何かしら有益なものを引き出すのは無理です。

よって、星の情報が信頼できるのは、その評価者が内容でどのような基準でその星をつけたのかを述べている場合です。「著者の文体が私の好みに合わなかったので星三つです」、のようなことが書かれていれば、その星三つの情報の取り扱い方がわかります(内容については、高い評価をしていると判断できます)。

しかし、そこまで細かく書く人も少ないので、これはそれほど利用できません。つまり、そもそも星の情報は(自分の本選びに関しては)無視してOKです。

ただし、集まった評価の数がある程度の規模を超えていたら、集合知的働きによって、星の評価は意味を持ち始めます。個々のレビュアーの基準の違いが相殺されて、ある程度客観性のある評価へと近づくわけです。

しかし、集合知が機能するためには、母数の大きさに加えて、集団の多様性が担保されていることが重要で、星5つの評価が100個集まっていても、それを書いているのが著者の熱心なファンばかりなら、その星情報の重み付けは0か限りなくそれに近いものにしておいた方が良いでしょう。
※そういう本が面白くないと言っているわけではなく、それらの星は参考情報に加えられない、というだけです。

投稿者

最後が投稿者です。内容の評価をより詳細に行いたい場合は、投稿者が他にどんな投稿をしているのかを確認するのが一番です。特に、極端な評価(すごく良い、すごく悪い)と評価している場合に有効になります。

ここからはデリケートな話題になりますので、少し濁して書きますが、投稿者の他の投稿がすべて悪い評価で占められていたらその評価への重み付けは少し下げたが方が良いでしょう。また、同じ著者の作品への高評価ばかりで、しかもその内容も似たり寄ったりという場合も同様です。
※重ねて書きますが、そういう内容が無価値というわけではなく、自分の本選びの参考情報にはなりにくい、というだけです。

逆に、多数の投稿があり、それぞれにきちんと違った内容が書かれている投稿者の場合は、その重み付けを上げるのがよいでしょう。そういう人はあまり数がいませんが、評価者として一定の評価ができます。

さいごに

もう一つ、おまけの情報として「投稿日時」があります。

内容には直接関係ないように思われるかもしれませんが、移り変わりが早いIT系では発売された当時評価された本でも、時間が経ってみると、ということがありますし、逆に時間が経ってもまだまだ十分に読める本、というのもあります。古い本にもかかわらず、新しい投稿があり、しかも高評価であれば、それは「古典」になりうる可能性を秘めている……というと、やや大げさですが、本選びの一つの情報になることはたしかです。

逆に、非常に短い期間(たとえば発売日直後)に、高評価がたくさんついていたら、それらの評価については重み付けをゼロにしておく方がよいでしょう。別にそれは「ステマを疑え」という話ではなく(別に疑っても構わないのですが)、当面はそれらの情報については自分の評価では参照しない、という保留的な態度を取るだけの話です。時間が経って、もっと多様な評価が出てきたときに改めて判断しなおすのが良いでしょう。

以上のように、ポイントは情報の重み付けにあります。評価をそのまま自分の評価として受け入れるのではなく、一定の情報加工作業(この場合は評価の重み付け)を行ってから、受け入れる。そのような態度を取っていると、ノイズに振り回される頻度はきっと減っていくでしょう。本選び以外の情報摂取においても大切なことかもしれません。

▼今週の一冊:

たまにはSF名作劇場でも。

ともかく壮大な作品です。で、なんとなく現代的な感じもします。それは、宇宙的なSFであっても、戦艦がドンパチやる話は少なく、むしろ政治的な話がメインだからでしょう。危機に立ち向かう人間のドラマ、という意味で現代性を感じられるのかもしれません。それに知識(あるいは科学)の危機という話も、現代的な呼応を感じます。

著者のストーリーテリングも絶妙で、三部作ではありますが、あっという間に一巻を読み終えてしまいました。続きが楽しみです。

» ファウンデーション[Kindle版]


▼編集後記:




一日三万字というのは難しくても、全体的に執筆のペースを上げたいなとは常々考えています。ただ、一つの作品に注力するのか、それとも平行的・分散的に進めていくのが良いのかがまだ定まりません。この辺は自分の性格も関係してくるでしょうから、実地的に試してしくことになりそうです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

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